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21.慈悲?

気づけば全体的に暗い

レオとジャヴァが激しい模擬戦を広げた次の日の早朝。

キューレがレオと別れバナラ山に向かう前に、いつ間にやら集まったエリカも加えて話をしていた。


「レオさん、昨日は聞けませんでしたが今日戦いに向かうとしてバナラ山はともかくエリの森から魔物がいると思われているアオチェ平原には王都から馬で飛ばしても最低一日はかかりますよ? どうするんですか?」


エリカが話すアオチェ平原はエリの森と王都を結ぶ位置にあり、長閑な場所もあり畜産が盛んで、それに合わせ農業も発達したいる。場合によれば王都の食糧自給の約4割を占めるほどである。


「エリの森から王都へと向かうために使った平原だろ? なら大丈夫だ、すぐに行けるから。」

「え?」


エリカがレオの言葉の意味を分からず頭にはてなマークを浮かべているとキューレが補足にはいる。


「こいつは一度訪れた場所なら【転移】できるんだよ。

(まぁ例外もあるがな) てな訳で心配は要らないってことだ。」

「バナラ山ってとこに行ったことあればキューレも送ってやれるが今回は無理だからな。まぁだからこそこんな朝早くからここに動いてるわけだ・・・ふわぁー」


レオは我慢できずに欠伸をした。その光景に、朝から少し緊張感を持っていたエリカが緊張を解され釣られて「あふぅ」と小さな欠伸をする。二人を見ていたキューレが「やれやれ」といった調子で後ろを向き片手を上げて軽く手を降りながら自分の持ち場へと向かおうとする。


「じゃ、あたしは行くぜ。」

「キューレ!」


レオの呼び掛けにたちどまり振りかえる。


「やってもらいたいことがある。

たとえ縄張りの王がどんな魔物でも絶対に聞いてやってくれ。

【生きるか死ぬか】【殺されるか逃げ延びるか】を。」

「はぁ~、はいはい」


再びキューレは歩き始める。

レオの言葉の意味を察したために意を聞くことはない。


-------------------------------------------------------------


デュラハンにはキューレの言葉の意味が分からなかった。だがキューレの言動に少しずつ異様さを覚え始め出すと、頭が冷静さを取り戻し始める。そして先ほどキューレが行った結果が目に入ってくる。


「き、貴様はいったい何者だ・・・」

「はぁ? どうでもいいだろ、そんなの。

いいから質問に答えろって言ってんだよ。」


キューレの言葉からやる気のなさと少しの苛立ちが見え隠れする中、デュラハンはキューレの言葉の意図を考えていた。


「(生か死かだと? なぜ聞くような真似をする?

あの者は間違いなく俺と同程度の力は、最低でも持ち得ているはずだ。

それにここにいるならば人間のやつらから依頼されて俺を討伐しに来たはずだ。【人間】? 人間が邪気を纏・・・う?)」

「聞いてんのかテメェ!!」


デュラハンがいつまでも問いに答えず終いには黙ったことに遂に怒りを露にする。押さえていたのか、それともスキルの後遺症か、一時弱まっていた邪気が怒りと共に再び膨れ上がり、デュラハンを威圧する。


「(これはマズイ! こんな得体の知れない者を相手になど・・・出来ない! だがこのままでは・・・)」


キューレの邪気に触れたことにより恐怖が膨れ上がる。目の前にいる【人間】から受けたその意思はデュラハンにとって始めての経験となる。だからこそデュラハンには既にキューレを【人間】とは認識していない。「(【悪魔】かっ!)」と誰にも聞こえないような声で呟く。

そして一つの意思だけがデュラハンの中を埋め尽くす。


「わ、わかった。手を引こう。我らはもう進行をやめる。

これでいいだろう・・・?」

「チッ! ならとっとと失せろ。」


吐き捨てるように声を上げ、キューレは背中を見せて、グチグチと小さく愚痴を溢しながら、もと来た道を帰る。その態度に魔物のことなどすでに眼中になく意識すらしていない。

デュラハンもそれがわかっているのだろう。キューレを見てその呆気なさに少し放心していたがすぐに意識を取り戻すと、埋め尽くされていた意思が再び浮き上がる。


「(こ、ここで殺さなくては、いつかは殺される。

や、殺らねば、殺らねば・・・ 今ならあいつを殺せる!)」


デュラハンは無防備なキューレの背に向かい剣を構える。無意識に震える身体ではあったが、なんとか音をたてないように身を押さえる。

手に持つ顔には、まさに必死と表現するに相応しい形相に変わっており、死人でありながら生への執着すら読み取れる。

デュラハンは元来、死を予言する者である。たが騎士の姿を模した者は騎士道の魂も持ち得え、自ら戦う場合は正々堂々と正面からの一騎討ちを望むものが多い。

このデュラハンもそんな騎士道精神を持ち得ていた。だが生を持っているからこそ、そんな精神は単純な理由にて簡単に崩れ去ることもある。抵抗すら許されないほどに圧倒的な力を持った敵の前では、いくらかの恐怖を呑み込むほどの意思程度では無力である。

故に生きるために卑怯といわれる手でさえ使うのも仕方ないのだろう。ただ・・・そんな不意討ちが聞く相手ではなかった。


デュラハンがキューレに迫り剣をふり下ろす直前に自身の全力を乗せる。さきほどの比ではない邪気による威圧により自身の部下たちですら畏怖し恐怖に怯えだす。

勢いよくふり下ろした剣に重なるキューレを見てデュラハンの中に「(これでいいのだ・・・)」と安堵が生まれる。デュラハンの目に切り裂かれ倒れるキューレの姿が映り無意識に笑みが浮かぶが、幸せから地獄に叩き落とす声が響く。


「残念だったな。じゃあ、死ねよ。」


後ろすら振り返らずデュラハンの剣を素手で掴み、完全に押さえたままでキューレが呟く。キュッ!と音がなりそうなほどの高速ターンをし、その勢いで廻し蹴りをする。


「《魔王の断罪》」


死神の鎌のように半弧を描く一撃が後ろに控える魔物諸とも呑み込む。すべてのものが跡形も残さず消え去り存在した形跡すら残ってはいない。

キューレはそんな虚空を軽く眺めたあとには興味を無くしたように一度も振り返ることなくこの場を後にした。

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