20.死を運ぶ者
死神登場!?
日時は昼過ぎ、太陽は最高点に近づきつつあるそんな時間に1人、山に登る女性の影がある。動きやすく普段着に近い服装をしており、荷物や装備などは一切していない。とはいえ大の男でもしんどいであろう山道を汗一つなく登り続ける。
「この辺りだな。」
口許には笑みを作り、なにかを待ち構える。間を置かずに参道の奥、木々を越えた先からガシャガシャと音が聞こえ始める。鎧を身に纏う兵士が行進しているような音がどんどん近づいてくる。さらに気か付くにつれ地響きすら聞こえ、音が山全体から響いてくることから百や二百十日は余裕で越えるであろうことが予想できる。
「いいねいいねぇ~。うじゃうじゃ居やがる。これなら親玉は期待できそうだ・・・。」
嬉しそうに、楽しそうに声を上げるキューレの先、100mほどにはすでに第一陣である魔物が姿を確認できていた。スケルトンやグール、レイスなど、まさにアンデッドを代表するような魔物がひしめき合っている。
その後方には各陣を束ねるためリッチがおり、その護衛という形でゾンビナイトが控えている。
「さて、どんなに楽しみでも雑魚に用はないしな。さっさと親玉に会いに行くか。」
そんな独り言を溢している間に魔物に見つかったようで数体のスケルトンが陣から飛び出してくる。それに合わせるようにリッチがキューレ目掛けて火の矢を飛ばす。
目の前まで迫ってきた矢をまるで虫でも払うように手を振るうだけで矢を消滅させる。
その姿に魔法を発動したリッチが驚きの表情を示すが、直ぐ様新たな魔法の発動に移る。火の矢を払ったタイミングでスケルトンがキューレの前に到着し、襲いかかろうとした瞬間、彼らは蒸発した。いや、蒸発したように見えた。少なくともリッチの目には。
スケルトンの攻撃が当たる直前、キューレは力を解放する。レオにより許可を得た【第2式】。つまり、エリカと組手をした時以上のスキルの発現である。
「《魔王君臨》」
身体中からねっとりと邪気が溢れだし、一気に膨れ上がると同時に迫り来るスケルトンに邪気が触れる。進行を拒むように邪気に触れたスケルトンは、その異様な濃さに一瞬の抵抗すら許されず、全身を汚染されを崩れ落ちる。
キューレはスケルトンを意にも介さず歩み始める。一歩、また一歩と進むキューレの周囲は纏う邪気により正の有無など関係なく屍に変える。
花や木々は触れもしないうちに朽ち果て、石や岩すらも崩れ、最後には砂へと変わる。
その光景に知性など本来、持ち得ていないはずのスケルトンやグールすら無意識に後退の意を示していた。この中で唯一、知性を持ち合わせるリッチの意識内ではけたたましい程のサイレンが鳴り響いていた。「ここから今すぐに逃げろ」と。
だが目の前の奴から逃げたとしても後ろに控える本陣にいる彼らのボスがそれを許してくれず筈がないと理解できているが故に「どちらにしても【死】が免れぬなら」と半ば投げやりになりながらも部下に指示を出す。
さっきまでの様子が嘘のように、リッチの指示に従いキューレに一斉に襲いかかる。その中には本来リッチの護衛であるはずのゾンビナイトも含まれていた。
「雑魚はお呼びじゃねぇんだよ!《魔王の進撃》!!」
キューレはスキルの発動と同時に立ち止まり、脚を直角にまで上げる。そこに纏っていた邪気の半分近くが集まり、禍々しいオーラを放つ。レオが作った闇とはまた違う、確実なる死を、絶望を与える力がそこにはあった。
上げていた脚を、そのまま迷いなく地面に叩きつける。ドォン!と激しい音と揺れが響けばそこから地面に注ぎ込まれた邪気が地面から次々と間欠泉のように噴き上がり、アンデッドに向かって波のように広がり迫る。
初めのスケルトンたち同様に触れたもの全てを消滅させていく。そこにスケルトンやリッチ、動物、植物などの概念など存在せず、気づけばキューレの目の前にはバナラ山の一部が邪気に犯され、死の大地と化した光景が広がっていた。
邪気の残りが漂うその場所は、またまた地面に降りた鳥が一瞬にして命を散らすほどである。近くに居た魔物は全て死に絶え、森すら消え去ったことにより後方に居たはずの本陣とそのボスであろう魔物の姿を見ることが出来る。
「あらら、やり過ぎたか? まぁいいか、別に」
この事態の元凶である人物は少しも悪びれた様子はなく、死の大地を当たり前のように敵本陣を目指し歩き出す。
「それにしてもアンデッドだから、てっきり吸血鬼とかだと思ったのに・・・ガッカリだよ。」
キューレはため息をつきながら敵の親玉を見る。
漆黒の騎士甲冑に身を包み、片手には黒々とした邪気を纏わせた剣を握り、その姿に合わせたように漆黒の馬に股がる。特徴を挙げるならばどちらも首がなく、騎士だけは片手に自らの首を抱えていることだ。
「ここまで来てデュラハンとかないよなぁ」
「き、貴様は何者だ! 邪魔するなら殺すまでだぞ!」
侮辱されたことに怒りを露にしたデュラハンは自らの剣に纏わせていた邪気を全身にまで膨れ上がらせる。ただの人間相手ならば恐怖し、最悪死すらあり得るほどの威圧と邪気である。
すべてを殺さんとするその力ではあるが、目の前の人物には効果はない。それどころか恐怖の顔も好戦的な顔も、喜怒哀楽すら存在せずただただ無機質な顔で敵を見ているだけであった。いや、相手からすれば敵とすら認識されていなかったのかもしれない。
「レオに言われたから仕方なく聞いてやる。
選べよ、デュラハン。ここで死ぬか、おとなしく引き下がり2度と自分の塒から出てこないか。」
そこに脅迫という概念はなくただ面倒くさそうに問いかけるだけであった。
あ、魔王でした(´・A・` )