19.小休憩
戦士の休息
王の依頼授与の後、念のためと王に勧められレオとジャヴァは医務室で身体検査をすることとなり、キューレ、エリカ、ノレズはそれについていく。王は暗い表情のままでいるマナキスを宥めながら魔法師の部隊編成と配置について話すために室内へと戻る。
訓練所から次々と離れて最後に第1戦士長であるツリナだけが残る。
全員が居なくなったのを確認するように何もないところから見知らぬ女性が姿を表す。もっと正確にいうならばさっきまで透明にでもなっていたかのようにその場に浮き出てきたのである。
淡い青い色をした長髪には癖毛一つなくキレイなほどにストレートであり、髪飾りがわりにレースを着けている。
彼女自身の服装が極めて白に近い黄色のドレスを来ているため、ウェディングドレスに身を包む新婦に見えるほどだ。
両肩周りには1つリング状の金具がついている。
「ねぇ、ツリナ。彼ら、私に気づいてたみたいだよ」
「そう? おそらく君自身にはまだ気づいてなかったとはおもうけど?」
「レオとかいう男の子の方はそうかもだけど、あのキューレ?とかいう女には気づかれたと思うわ。確証はないけども・・・」
「凄い二人だよね。何にせよ、君に気づけたんだから。」
「ツリナ、彼らは危険だわ。今は味方でも敵になれば私でも敵わないかも・・・」
「君でも敵わないのか・・・」
「ツリナ、さっきから、【君】【君】って!
ちゃんと名前を呼んでよ!」
「あぁ~ごめんごめん、【マテリス】。」
「もぅ・・・」
「でもマテリス、もし彼らが僕らの邪魔をするならば・・・」
「わかってる。そのときは・・・」
静かになった訓練所に小さく響く二人の声には暗い決意が込められていた。
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レオたちは医務室に向かってエリカの案内で進む。エリカの案内というよりただ単にエリカが先頭を歩いているだけである。
レオの隣に並んで歩くキューレがレオにだけ聞こえるように話しかける。
「なぁレオ、気づいてたか? あの審判したやつの違和感に」
「まぁな、レベルが表示されなかったから何かあるんだろうな~ぐらいはな。」
「あいつ、おそらく【精霊憑き】だぜ。あいつ自身に加護の力を感じたし。」
「へぇ、珍しいじゃん。ならステータスの隠蔽はそいつのせいだろうなぁ。しかもその言い方からすれば【お前が見えなかった】のか。」
その言葉に一瞬、きょとんとした表情を見せたと思えば、何度目になるやらニヤァと笑みを作り獲物を見据える獣の顔つきになる。
その顔にレオは嫌な予感を感じ、顔がひきつる。
「面白そうだろ? 戦ってみたいんだよなぁ」
「頼むからやめてくれよ。別に敵対したい訳じゃないんだから。」
「わかってるわかってる。ただ今回あたしだけ好き勝手暴れられてないんだから、【この後】のはいいだろ? 」
「そのための前振りかよ・・・ 仕方ないな。
【第2式】までだ、いいな?」
「そこは久々に【最終式】まで使わせてくれてもいいんだぜ?」
「ダ・メ・だ! 後が大変になるだろうが・・・」
「チッ! 仕方ないな。ならそれでいいや。」
気づけば医務室に到着し、レオとジャヴァは身体検査を受ける。
魔法による検査のため対して時間が掛からず終了する。互いに異常はなく特に問題なしという結果が出る。
検査も終わり二人が戻って来たのを確認し、ノレズがジャヴァを含め全員に聞こえるように話す。
「ガルバ、今更な質問だがエリネアはどうなった?
お前がここにいるから問題ないんだろうがな。」
「あぁ問題ない。森の異変をすぐに察知してくれた部下たちのおかげでな。
今は周辺の村々への避難勧告をしながらエリネアの人たちと王都へ向かっているはずだ。」
「そうなんですね・・・よかった。」
「実際に魔物は確認してないのか?」
「我はしていないが、数は相当数居るはずだ。我の部隊だけでは相手に出来ぬと斥候部隊の者らが判断したほどだからな。」
ジャヴァの話から村人たちや近隣に人的被害が無いことに安堵しながらもレオの話しに出た【魔物同士の縄張り争い】に真実味が出てきたことがさらに緊張感を走らせる。
そんな緊張を、いい意味か悪い意味か、壊すのはいつもの奴である。
「なぁ聞きたかったんだが、あんたらの見立てで接敵予想は何時になるんだ? 明日ぐらいか?」
「・・・あぁ、取り敢えずエリの森からの魔物はまだ余裕があるだろう。少なからず明日、明後日で王都まで来るとは考えづらい。
問題は、ナカディア国、つまりバナラ山からの魔物は、早ければ明日の朝には山頂を越えて国内に侵入するだろう。進行次第では夕方には敵を目視できる可能性すらある。」
「ふぅん、なら明日までは余裕があるんだな。
なら今日は、このあとのんびりして明日に備えるか。」
「お、おい、ちょっとまt・・・」
「キューレ、お前が山側に行ってくれ。
俺はエリの森から来るやつらを殺る。」
「そうなるか。まぁいいぜ、久々に暴れられるならどっちでもな。」
「てな訳で、明日に備えて俺らは一旦宿に帰ります。
じゃ、また!」
「な、お、おい!」
レオとキューレはノレズの声に振り向きもせず医務室から出ていく。それをエリカが「ま、待ってください。出口わかるんですか!?」と慌てて追いかける。
ノレズはポカンとしたままドアを眺めていると不意に肩を叩かれる。
「愉快で豪胆なやつだろ? まるで意に留めていない。
お前も魔物もな、わははは。」
「あぁ一周回って頼もしく思えてきたよ・・・」
ノレズは疲れた顔をしながら未だにドアを眺めていた。