18.決着
長いようで短い戦いが今終わる!
黒い魔力を放ちながらレオは折れた大剣を新たな武器に作りかえる。形は同じく剣を保っているが、片刃で細く鍔付きの刀に。
今までと違うのは半透明な見た目ではなく、まるでレオの魔力を取り込んだように真っ黒に染まる。刀身だけは闇が溢れだし完全に覆い隠す。
「『解除』・・・さて、次で終わりにしようぜ?」
「ふはははは! やはり力を隠していたか~
いや、我に合わせていたのだな?」
「あぁあんたが【思ったより】強かったからな。
最後ぐらい、小さなアドバイスを・・・と思ってな。」
「貰えるというなら、頂こう」
最後の一撃を放つため、互いの武器に力を込め出す。相反する力が相対する。片や神聖な光を、片やすべてを飲み込む闇を限界まで高め纏わせる。
高まる双方の力には自然と大気が震え始め、緊張が走る。
「スキルってのはまさに【個の極み】だ。実際に存在するスキルを他者が扱える実例は存在せず、継承させようにも覚えれない。
だからこそ【切り札】になりえる。
でも・・・それは弱点でもある。」
「よくわからんが・・・いや、これから分かるのだろうな。
行くぞ!」
「『黒刀燃蝕』」
レオが魔法の名を口にした瞬間、刀身に集められた闇がまるで燃え上がるように膨れ上がる。燃え上がる闇は見ているだけで意識すら吸い込まれそうなほど深い。刀身からさらに広がり最後には刀全体が闇に染まる。
ジャヴァはすでに迷いを捨て「何が来ても叩き斬る」と心で呟き、今まで以上の速さを持って接近する。その姿は、周囲の闇と自身の光と相まって周りからは光の一閃に見えるほどである。
互いの武器がぶつかり合い凄まじい衝撃波を生み、広がる。
闇と光、黒と白、ぶつかり合う中心は色が混ざりあったかのように灰色に見える。そして少しずつではあるがレオが押され始める。威力はジャヴァのほうが強く、押さえきれていない。だが色だけは逆の結果を示していた。
黒が灰色を呑み込み、黒に染め上げながら白に近づく、黒と白がぶつかれば再び灰色が表れるが、黒は容赦なく進行を続ける。
観戦していたノレズが堪らず叫ぶ。
「な、なぜ!? 押してるのはガルバのはずだ!
しかも《破魔の聖》を発動しているはずなのに魔法を消すどころか呑まれている・・・のか?」
浸食続けた闇はジャヴァの剣の光まで呑み込もうと突き進む。
みるみるうちに剣はレオの刀と同じように黒に染まっていく。ジャヴァも負けじと《破魔の聖》を強めるが焼け石に水であり、抵抗虚しく剣は完全に染まり、さらに先へと進み、手にまでその力が及ぶと咄嗟に剣を放し距離を取ろうとするが、力が入らず足が縺れ倒れる。
「な、ま、魔力が・・・ それにスキルまで・・・」
自分の体に起きた異変に関して瞬時に理解したジャヴァは、自分の目の前にいる男を見上げる。さっきまで纏っていた闇はキレイさっぱり晴れ、顔つきも戦いによる厳しいものからまるで仕事終わりのサラリーマンのような疲れていながらも解放感に喜ぶ顔をしていた。さっきまで死闘を繰り広げていたなどと思えないほど気が抜けており、終いには「う~ん」と声を漏らし、伸びまでしていた。
一段落させたあと未だ倒れたままのジャヴァに向かって話しかける。
「さてと、大丈夫か?」
「あぁ問題はない。だが最後のあれは・・・?」
「あれは闇の魔法を通してあんたの体内に直接、俺の魔力を送っただけださ。」
ジャヴァはレオから差し出された手に掴まり立ち上がる。
「闇魔法とは凄まじいな。それだけで我のスキルを封じるとは・・」
「闇魔法は実際関係ないんだよなぁ。あの魔法はただ単に【呑み込んだ相手の魔法を中和する】だけの魔法だよ。」
「それ自体に封じる能力はないと?
だが我はさっきまで間違いなく、魔力もスキルも使えなかったぞ?」
「それがスキルの弱点って訳だ。言ったろ?
スキルは【個の極み】、実際に存在するスキルを他者が扱える実例は存在せず、継承させようにも覚えれないってさ。
つまり言い換えると【本人しか使えない】。
で、【ちょっとでも本人じゃない動きや力が入れば使えなくなる】とも言えるよな?」
「まさか・・・だから我に魔力を送ったのか!」
レオの話を簡単にするならば、レオの魔力という異物により本人の動き(ここでは魔力の流れ)が阻害されたことによりスキルの発動条件を満たせなくなり使用できなくなったのだ。
「スキルを手にいれたやつに立ちはだかる高い壁の一つ。
スキルなんていういわば最終兵器を手にいれて舞い上がり自分の強さを過信したやつが、それが通用しない相手に絶望する。
高位冒険者の中ではよくある話なんだよなぁ~。
まぁ壁を越えるか壊すか出来てやっとスタートラインだしな。
(そこまでが人間の範囲になるだけだけど・・・)」
「そうか、そこからがスタートラインか・・・わはは!
(まだ我はレオ殿から見てスタートラインにすら立っていなかったか・・・。 ふはっ!それでこそ目指しがいがある!)」
二人の会話が終わるのを見計らいツリナは宣言をする。
「この勝負、レオの勝ち!」
勝敗の宣言を聞き終わると観戦組が全員、二人の側へ集まり、勝負の内容について話を始め、1人遅れる形で王が二人の元に到着する。
「二人とも見事な戦いであっぞ。途中、何が起きているのか分からぬこともあったが・・・勝負は、見事そなたの、レオの勝利。
ジャヴァ戦士長に勝ったのだ、もう誰も文句は言わぬだろう。
今から正式にエール王国国王からの依頼として君達を雇わせて貰おう。」
「毎度あり。
それで、報酬の件はどうするんだ?」
「君たちの出来次第ということにしよう。先の戦いを見て強いのは理解したが君達二人で魔物全てを倒せるとは思ってはいない。故に軍の準備が出来まで最低限の足止めが出来れば、オリハルコンは約束しよう。それが叶わずともいくらか戦力を削いでくれればミスリルぐらいは用意する。
まぁどちらにせよ、まずは魔物を退いてからにはなる。」
「わかった、交渉成立ってことで。」
レオは自ら手を差し、王が応えるように握手をしたのだった。
本当の戦いは・・・これからだ!