0.プロローグ
とある深き森<シルヴェの森>と呼ばれる強力な魔物を生み出すその場所を阻むように作られた外壁の中央、森にたいして正面に埋め込まれるような形で小さめな砦が存在している。本来であれば魔物と戦う最前線の位置であり死と隣り合わせの場所であるはずの場所。
「いつまでここでぐうたらしているつもりなんですか!」
砦の中から怒っているのにかわいらしく思える声が外まで聞こえてくる。
砦の中には2人の男女がいた。黒髪藍眼で黒をメインにした服装で両手両足には銀の篭手のような装備をしている男が砦の中央に位置する一番広い部屋のベッドで仰向けに寝転んでいる。
「はぁ~うるさいな・・・別にいいだろ?特にやることもないんだから。」
「だからと言って部屋でぐうたら寝転んでそんな役に立たない書物ばかり読んでも言い訳ではありません!」
「役に立たないとはなんだ、ここに書いてあるのはすばらしいものばかりだぞ!
オリハルコン・アダマンタイト・ミスリルなどなど!!あぁ~なんとすばらしい金属だろうかぁ・・・
これがあればもっと強くなれるのになぁ、そう思うだろ、レイ?」
「そんな実在しないものばかりを眺めてもどうにもならないでしょ?」
レイと呼ばれた少女は薄い紫髪赤い目をしていてかわいらしい童顔をしている、一番の特徴は身長が手のひらサイズの大きさほどの妖精であることだ。だがその雰囲気からはどこか母親のような雰囲気を感じるられる。
「まったく・・・これが人類の頂点<臨界者>、Lv.100への到達者とは・・・はぁ~」
この世界には<レベル>というものが存在しレベルが世界の全てである。
一般人(非戦闘民) Lv. 1~10
兵士・冒険者(下位)Lv.11~20
騎士・冒険者(中位)Lv.21~30
戦士長・王直属近衛兵Lv.31~40
冒険者(高位) Lv.31~
冒険者の100分の1が高位になれずに引退、または死亡する。そしてLv.50に届くものは高位の中でも少なく、冒険者の中で大きな壁になる。人間の常識をなんらかの方法で超えた者だけが壁を壊してすすめる道である。そこまで行けば次の壁Lv90まではそこまで難しいことではない。とは言ってもあくまで人間の常識を超えた者たちの言い分である。
だがその者たちでもけっして追いつけず届かない高み世界に10人しかいないLv.90以上の存在。<覚醒者>、人間としての存在を、力を、全てを超えた者に与えられる称号。そしてこれは同時に死への招待状と同義である。なぜなら<神の暇つぶし>と呼ばれる神々の遊戯への招待状が届いたのち強制的に召喚され降臨した神との一騎打ちとなる。力量は互角になるようになっているようだ。これはあくまで<暇つぶし>なのである。勝てば神々のアーティファクトを、負ければ死を与えるのだ。
そんなことを改めて心に思いながらレオはベッドから起き上がりレイを見ながら少しいたずらっぽく笑い
「本来なら神との一騎打ちは1人1度までという決まり?みたいのがあるはずなのにどこかの誰さんが2度目の招待状を送ってきたせいで俺はすでに人生2回分は動き回った気がするんだよなぁ~
なぁどう思うレイ?」
「うっ、そ、それは私が悪いというわけでは・・・悪いのはもう1人のほうであってですね・・・」
「それにほとんどただ働きに近い形になったしな~」
「うっ、それに関しては私にもなぜだかわからないって言ったじゃないですかぁ~
それに今の私はあなたへのことでの罰で天界から下ろされたんですからぁ
ですからこうして今、レオ様のお世話役として仕えているのに・・・」
レオはすでに1度<神の暇つぶし>に勝利し神々の叡智というアーティファクトを受け取っているのだがここにいるレイに2度目の戦いを挑まれたのである。本来なら2度目の戦いは起きないはずだった。だがそれが起き、生き残ったのだがなぜかもらえるはずのアーティファクトがもらえない。それどころか倒した神が消えずにその場に残り仕方ないので一緒にいるという有様なのだが、彼らは気づいていない・・・これこそが2つ目のアーティファクトである。魂の直結により神すらも従えるアーティファクトである。ただし発動は自動であり、発動条件は相手が心のそこから術者の実力を認めることにより気づかぬうちに従えるのである。なのでレイは天界に戻れないのではなく戻らないだけなのだがそれすらも本人は気づいてない。
「さてこれ以上からかって泣かれても困るしとりあえず外のうるさい魔物でも一旦黙らせるかな」
「この程度じゃ泣きませんよ!ってやっとその気になってくれたんですね!
では早速行きましょう、レオ様」
レオが立ち上がりレイが体を浮遊させレオの肩に並ぶ。と、そのとき2人に脳に強烈な痛みが一瞬走りその後には声が響く、-招待状を受信、展開、術式発動・・・転移しますー
「おいおい、これは・・・まさかの3回目がなんてあるってんじゃないだろうなぁ・・・」
「まさか、そんなはず・・・ですがこの現象は間違いなく<神の暇つぶし>への招待です。
いつもと違うのは本来、招待状と召喚転移には数日の期間をあけるのを同時に行っていることですか」
「どんな短気な神様だよ。」
その言葉を最後に場所は砦から宇宙にも似た場所にいた。暗さが目立つ場所ではありながら上下左右には無数の星々のようなものが見えそこから発せられてるだろう光によって回りを視認することができる。息が普通にできることや浮遊感は感じられずまるで見えない地面でもあるかのようにしっかりと立っていられる。
そしてレオとレイの目の前には真っ白な存在がいた。大きさ的には3mほどの大きさにもなるそれは、白一色に染め上げられてはいるが女性の形をしており、まるでシスターのような姿を思い描いたようである。しかしそこから感じられる巨大な魔力とも威圧とも似た力は彼らでなければ耐えられないほどのものであった。
「ここは・・・初めて見る場所だな。というかまさかこんな場所に転移させられるとはな。今までなら普通に草原だったり海辺の近くだったりと最低でも地面がある場所だったはずなんだがな・・・」
「レオ様、気をつけてください。私はあの神を知りません。いえ、もっとはっきりと言うならあの神は私と同じ世界の神ではありません。」
「(はぁ?どういう意味だそれ?)まぁよくわからんが相当やばそうなのは見てわかる。今まで見てきた中で一番とも言えるほどの威圧感だしな。
『次元収納』 →『一式装着』」
次の瞬間レオの左右の腰には2対の剣、そして剣に並ぶように腰の周りにナイフが計6本装備される。両手の指にはそれぞれ3つずつ指輪がはまり、赤・青・紫色の宝石がついている。
「さてとりあえずはこれでいいだろう。何が悲しくて3回も神と戦わないといけないのか知らないが死にたくはないからな、全力でい・・」
と、そのときレオの言葉を遮るように真っ白な神から声が聞こえてくる。大きな声ではないが透き通るような声で響きわたる。
-私は戦うためにあなたを呼んだのではない。あなたへの新たな旅立ちの祝福を言うためにここに・・-
「新たな旅立ち?祝福?何のことだ!きちんと説明してくれ」
-あなたは神殺しを2度なしえたことにより神に近しいものになった。ゆえに祝福と旅立ちを-
「おいおい、だからどうして旅立つんだよ!説明になってないだろ!」
「レオ様、まずいです。先ほどとは比べ物にならないほどの転移魔法が展開しています。範囲はこの場所すべてです。」
「!? これはさすがにやばいな。魔法工程が多すぎて解除どころか解析すらできない。レイ!あとどれくらいでこれは完成するんだ!?」
「あと数秒もないで、・・・・」
-さぁ共に新たな世界へ-
そして世界が切り替わる。