14.胸の火
男はいつになっても
王城の一角、少し大きめなスペースに国軍本部が設置されている。国の各地に設置されている国軍駐在所からの情報や他国との摩擦による被害など軍が関連するさまざまな状況を対応する場である。本部の周りには兵舎や訓練所も用意されて、王城の警護にあたる兵士たちが日夜、仕事と訓練に励んでいる。
そして現在、その訓練所にて先ほどまで会議をしていた人物たちが全員集まっていた。
中央に二人の影、レオとジャヴァである。
他の者たちは観戦するため、彼らから程よく距離を取り二人を見ていた。その中でもマナキスだけ見るというより睨んでいる。
「マナキスよ、まだ納得いかないのか?」
「・・・いえ、ジャヴァ殿が相手をするというならば私が出る幕はありません。ですがそれでもあの男には対して怒りにも似た何かを感じるのです。」
「そうか・・・、お主の魔法に対する熱意がどれほどのものか知らないわけではない。だが今回はジャヴァに任せてみるとしよう。
それにその感情の正体、この戦いで何かわかるやも知れぬぞ?」
マナキスと王の会話と同時刻、ノレズはジャヴァのもとに向かう。
「ガルバ、いろいろ聞きたいことがあるが・・・
先に聞きたい、なぜお前が志願した?」
「どうした我が友ノレズ、不機嫌そうに?
またマナキスがエリカのことを蔑ろにでもしたのか?
貴様もまだまだ娘に甘い父親だな、わははは。」
「ガルバ、おふざけはその辺にしてくれ。
真剣に聞いてるんだ。なぜお前が試してやる必要がある?
確かに報告は聞いた。オーガを8体、サイクロプス1体を倒したとな。普通に考えれば一連隊とまでは言わないが1大隊の力を持っていることになる。しかし実際はオーガもサイクロプスも第3戦士団との攻戦後であり、疲弊していたはずだ。」
「だから勝つことができたと?
違うな。何せあやつは我にこう言ったのだぞ?
【なかなか】強い、とな。
この年になって我自身の訓練より他者への指導の方が多くなり、その事事態を当たり前になっていた。心のどこかで【今が完成形】と思っていたのだろうな・・・
だがあやつの言葉を聞いて心の中で火が点いたのを感じたわ。
レオ殿が我より強いならば、あやつと戦うことで我は今以上に強くなれるならば・・・それに挑みたくなるのは仕方ないことだ。
男はいつでも【最強】を追い求める愚か者だからの、わははは。」
「・・・はぁ~」
ノレズはガルバの言葉を黙って聞いていた。そしてそこに決意を見つけたことで説得を諦めていた。自身で決めたことに関して簡単には曲げない頑固者であることを知っているためだ。
それでも最後に一言、一言だけでも言葉を送るために口を開く。
「あぁわかったよ、ガルバ。だがこれだけは・・・」
「我は・・・久々に感じた。
本能が無意識に警報を鳴らすほどの人間にな。戦うな、とな。」
「ガルバ、それはつまり・・・?」
ノレズがガルバに問いただす前にツリナが中央により対戦者二人を呼ぶ。
「始まるか。さてお前もさっさと戻れ。」
ガルバは苦笑いをしながらノレズを送り出す。
ガルバへの問いの答えを聞く間も無くノレズは不穏な表情を隠しもせず、他の者たちのもとへ向かう。
現在、中央には3人いる。対戦者であるレオ、ジャヴァ。
そして審判としてツリナがいる。
「勝利条件は2つ。
相手を気絶させること。相手が降参すること。
それ以外のルールは特にはない。ただし降参した相手に故意に攻撃をすることは禁止だよ。
質問はあるかい?」
「特にはないけど、ホントにそれでいいのか?
最悪、腕や足が消し飛ぶことになりそうだけど?」
「大丈夫、ここはギルドの闘技場と同じく攻撃をすべて精神ダメージに変換するようになっているからね。」
「なら問題ないな」
レオはツリナの答えに納得した様子で、レオの方にはもう疑問はないようだ。ツリナがジャヴァの方にも目線で確認をとる。
ジャヴァに取っては使いなれた場所であり、いつも通りのルールであるために質問する必要はなく、小さく頷き問題ないことを示す。
「では二人とも中央から左右でそれぞれを初めの陣地します。
その枠内であればどこから初めても構いません。」
その言葉を聞きレオが移動を始めようとしたときジャヴァは直ぐ様にレオに話しかける。
「レオ殿! 遠慮はいらない。
殺す気で来てはくれまいか?
そなたの実力を知るためにも必要なことだ。」
この場において誰もがレオの実力を知りたがっている。だが一番知りたいのは間違いなくジャヴァ本人である。
だからこそジャヴァはレオに手を抜くなと釘を刺したのだ。
ジャヴァの問いにレオの表情が変わる。真意を理解しているかどうかは分からないが、その雰囲気がのんびりしたものから真剣な者に変わっている。
「あぁわかった。本気で相手するよ。 『・・・』」
一言そう伝えると再び自分の定位置へ向かう。
その答えにツリナが一瞬驚き、ジャヴァが再び好戦的な笑みを見せ、自分も位置を定めに動く。
だがレオが最後に小さく呟いた言葉が耳に届いたものはいなかった。
双方が初めの位置を決め、構える。二人ともそれぞれの陣地中央。
ジャヴァは愛用の剣を抜き軽く振るい、いつもの感触を確かめる。
逆にレオは『次元収納』→『部位装換』にて鉄ナイフを腰に装備、さらに両手両足に着けている銀の防具のうち、両手だけを別の防具に換える。同じように籠手のような形の防具であるが、見た目はガラスのような半透明な金属が大半を占めてはいるが手の甲の位置には一部銀が使われておりそこには魔方陣のような物が刻まれている。
二人の準備が済むのを確認してからツリナは最後に双方に確認に意味を込め確認に意味を込め一度目配せをする。
二人の返事を確認できると腕をあげ勢いよくふりおろす。
開始の合図である。