122.魔の王
2話同時投稿です。
話数間違えに注意してください。
マグマに照らされた空洞内に打撃音が響き渡る。
「シュッ、シュッ!」
小さく息を切るように発しながらキューレは攻撃を続けていた。
金的、目潰し、鳩尾、急所という急所を容赦なく狙い続ける。
「・・・」
そんなキューレの攻撃を軽くステップでも踏むかのように軽々と風神が避ける。
「『風刀』」
さすがの風神も避けるだけではない。
とこどころに風の刃を固定設置し、罠兼カウンターを狙う。
「フッ!」
だがキューレとて後れをとってはいない。
【集の極地】を発動している現状において、微かな体の動き、魔力の流れの変化を瞬時に読み取り処理できる。
そこにキューレが持つ【野性の勘】を合わせることで―――――
バンッ!!!!
キューレの拳が風刀を打ち払う。
発動された魔法は無惨にもその形を為す前に潰されて消滅してしまう。
「これでは無意味か・・・」
静かに風神が呟く。
背筋が凍るような冷たい呟きでありながら、その目にはしっかりとした殺意が沸々と沸いていた。
「ここ」
キューレは気にした様子もなく、風神がステップの返しに少しばかり足を止めた隙を突き、鳩尾目掛けて抜き手を放つ。
ドンピシャのタイミング。
誰もが風神に一撃入ると思った瞬間、キューレの体が硬直する。
「残念だったな」
一人嘲笑うように声をあげたのは風神である。
キューレは腕を突き出したまま完全に制止していた。
「なんだ、これ? う、動かねぇ・・・」
突然の事態にキューレは【集の極地】を解く。
力任せに体を動かそうとするが、まるで前後左右から壁で押し付けられたようにピタリと固定されていた。
「うむ・・・この程度か?」
そんなキューレの周りを悠々と風神が歩き回り、じっくりとキューレを観察し出す。
「どうやら君の神力はその【邪気】のみで肉体やその他の部分には大きく影響を及ぼせないようだな」
「この野郎! ジロジロ見てんじゃねぇぞ!!」
今現在でもどうにか拘束を解こうと必死に体を動かしているキューレであるが一向に兆しは見えてこない。
「確かに力は強い。体術や身体能力だけを見るならば貴様は並の人類を遥かに凌駕しているだろう。
だが・・・」
風神の手に竜巻を纏わせる。
そのまま勢力を保ったまま薄く、細く、鋭く伸び、嵐の槍を形成する。
先程見せた『嵐槍・裂斬』である。
「頭が足りていない。そんな者に神の力は過ぎた力だ。
バカはバカのまま惨めに死ぬがよい」
至近距離から放たれた『嵐槍・裂斬』はキューレの心臓を貫く。
「跡形もなく消え去れ」
嵐槍に内包された激風が無数の刃となりキューレを体内から、そしてそれでも有り余る勢いで外側からも同時に切り刻まれる。
傷が一つ付くたびに夥しい量の血が辺りに飛び散る。
「一人目・・・」
未だに切り刻まれ続けるキューレに興味を無くした風神はレオたちへと視線を向けた。
「まだ私の邪魔をするならば・・・次は貴様らが【あれ】と同じ目に遭うぞ?」
風神は親指で自身の後ろを指差す。
そう切り刻まれたキューレを指しながら。
「それが嫌なら道を開けろ」
完全な脅しを前にレオたちからの反応はない。
「こいつらも同じバカか」とため息一つ吐きながら風神がレオたちを睨み付け、まとめて吹き飛ばそうと魔力を練り始める。
そんな時、ふと風神の目に飛び込んできたのはレオたちの表情だった。
本来、キューレの無惨な姿を見た以上、風神に対して怒りや恐怖などが表情が出るはずである。
だが、レオたちに表れたのは驚愕であった。
彼らは何かに対して驚いていた。
そしてそれは風神ではなく、その後ろへと向けらていることが視線から読み取れる。
「・・・まさか!?」
嫌な予感を感じた風神が振り向こうとするよりも早く、風神は後ろから力強く肩を握られた。
メキメキと音を立てる肩に痛みを感じながらも風神はその正体へと目を向けた。
「テメェはあたしの獲物だ!」
そこには目を血の色に染め上げ、全身から禍々しい邪気を放つキューレがいた。
さらに受けた傷は消え失せている。
加えて邪気はその濃さを増し、キューレの体に纏う姿は怪物じみた形をなしていた。
体に纏う邪気は衣のような姿に代わり、肩には漆黒のマントが生まれる。頭には双黒角が出現し、両手足には黒龍の爪をモチーフにしたような装備が填められていた。
「キューレ、お前ってやつは・・・」
ここに来て一番驚いているのはレオである。
今のキューレの姿は【第2式】、つまり《魔王君臨》。
「無理やり制約を抉じ開けて発動しやがったな」
普段であればレオがキューレとレイの力を自身との契約の元で制限している。
だが、今のキューレはそれを強引に破棄した上で使用しているのだ。
「エリカ、クレイ、少し離れるぞ」
「え? あ、はい」
「御意」
レオと共にエリカもクレイもその場を瞬時に退避する。
「レオさん、キューレさんは一体どうしたんですか!?」
「あれは《魔王君臨》」
「ですが、私が姉御に見せていただいたものとは明らかに違います」
エリカの質問に答えたレオであるが、クレイはそれに納得できていないようである。
「あれは真の《魔王君臨》だ。
いつもはキューレが戦いを楽しむために無意識に力をセーブしているんだ。
前にキューレが見せたことがある【聖喰】は、今の魔王の力を部分的に抽出した力」
話をしている間に三人はキューレからさらに10m以上の距離を離す。
「キューレが真価を発揮する時、それはつまり手加減抜きで、遊びも抜きで、決めた相手をただただ消し去ろうとするときだけ。
つまり、今のキューレは今までの倍は強い」
エリカとクレイは再度キューレを見つめる。
空気が死んでいる。それがキューレを見た二人の感想だ。
邪気により生まれた武具や衣装からは死すら生ぬるい地獄が幻覚として見えてしまうほどの狂気を放つ。
キューレの紫色の髪ですら邪気と合わさり漆黒へと変わっている。
今のキューレから受けるすべてが生を諦めさせるほどに死の臭いを、存在を漂わせている。
それはまさに魔の王と呼べる存在の君臨を意味していた。
キレたら怖い(キレなくても怖い