120.赤岩人 → ??
むくりと登場
火山の最下層。
マグマすら見えるこの場であるが、空気だけは冷たく重い。
「分からぬ。何故だ・・・」
風神は小さく呟く。
どこまでも冷たい空気の中、鈍い打撃音とガラスが割れるようなパリンッという音が響き渡る。
「オラオラ!!」
楽しそうな声を上げてキューレは風神に単騎で襲いかかる。
両腕に邪気を纏わせ、強引に殴りかかっている。
そこには型なんていうものはなく、風神からの反撃すら意にもしていないのだ。
初めはキューレの攻撃に風神も対応して好機を探っていた。
だが、ちまちました攻撃では状況を打破できず、攻め手に出ようとすれば先に封じられキッチリと対処され続けている。
そのため、今では攻めと守りがハッキリと別れてしまっているのだ。
「「・・・」」
そんな無茶苦茶な戦いを半ばぼんやりと眺めているのはエリカとクレイである。
端から見ればハイレベルな攻防戦ではあるが、二人からすればルールすらない残虐ファイトである。
「ぐおっ!」
キューレの拳が障壁を越えて風神の体を抉り、岩を砕く。
そんな光景を見るたびに、味方のはずのキューレよりも風神への声援が自然と心から溢れでいた。
さすがに二人とも口に出すことはなかったが、こんな気持ちを抱えてしまうこの状況を苦笑うことしか出来ないでいた。
「チッ!」
突然キューレの口から舌打ちが聞こえたかと思えば、超接近戦の打ち込みを終らせる特大の一撃を放つ。
ドンッとけたたましい音と共に風神は壁に大の字でめり込んでいた。
「何だ何だ、あぁん? いつまで手ぇ抜いてるつもりだ!」
キューレの怒鳴り声に、無意識に魔力を乗り威嚇する。
声だけでそんぞそこらの魔物ならば意識を刈り取られ、最悪ショック死すら起きるレベルだ。
「・・・」
そんなキューレの威嚇を無視して、風神はむくりと壁から這い出てくる。
その体からは赤岩が多く剥がれ落ち、風神自らの肉体が見えていた。
赤岩人の頃からでは想像できないほどに、細くすらりとした手足。細身の体にはうっすらと筋肉が浮き出ている。
臼緑の長髪は肩より先まで延び、背の半分を隠していた。
キリッとした目は深き緑眼で、見ているだけで吸い込まれそうになる。
「貴様は誰だ」
キューレの問いには答えない風神。
その代わりに風神からキューレに問う。
「何故この赤岩を砕ける?」
キューレへの問いは続く。
「何故その身でありながら俺と相対できる?
貴様は誰だ? 何者だ? 俺は貴様を知らない」
途中からキューレへの問いなのか、はたまた自問自答なのか、分からなくなりそうである。
「答えろ、神の内包者!」
最後の一言に明らかな怒気を孕ませる。
だがキューレの時とは違い、答えを聞きたいためでの怒りではない。もっと違う、別のことへの怒りが顕になったかのようである。
「はんっ! そこまで分かってるんならいいじゃねぇか。
それ以上が必要なのか?」
キューレが心底どうでもよさそうに振る舞う。
「神格を砕いたあたしを神力の保持者と理解した。
ならその意味さえ分かってりゃ他の事なんざオマケみたいなもんだろ」
今度こそキューレは構えを作る。
それはドワーフの国に訪れる前にレオとの模擬戦で見せたものと同じである。
両手をだらんと下げたまま肩幅より少し広めに足を開き、軽く腰を落とすような姿勢。まるで自然体な構え、動物のそれに似た構え。表情すら削ぎ落とし、キューレの顔は能面のようである。
そう、【集の極地】を発動したのだ。
臨戦態勢を整えたキューレに風神は怒りの目を向けている。
「レオさん!」
そんな二人に巻き込まれまいと、エリカとクレイは挟み撃ちの状態を解きレオの側までやって来たのだ。
「面倒なことになったな・・・」
「何故ですか?」
独り言としてレオがポロリと溢した言葉をエリカが急かさず拾い上げる。
「たぶん、ないとは思うが・・・
最悪、キューレが風神を殺すかもしれない」
「ですが、神は死んでも復活されるのはずですが?」
レオの心配事が、なぜ心配なのかクレイも分かっていなかった。
「神は確かに殺されたぐらいでは【消滅】まではしない。
だけどそれは人などが神を倒した場合だ。
もし神と神が本気で戦った場合、最悪負けた方は【消滅】してしまう」
神同士の争いの際、互いは互いの神格の奪い合う。つまり神力のぶつかりが起きれば、神は【名】も【肉体】も気付けあい、終いには力尽きた方の力を呑み込み糧にする。
「より強い力を得るために神が神を食らう。
そんなことが起きることもあるんだよな」
「神様の世界も弱肉強食なんですね・・・」
ちなみに神が死ぬことがある場合、弱肉強食が原因になるのは
だいたい半数だとか。
「今回の目的は風神を殺すことじゃない」
「はい、わかってます」
「理解しております」
二人は然りと頭を縦に振る。
「てなわけでキューレが無茶しないように見とかないとな。
(あとはお前たち次第だからな)」
レオは今ここに居ないやつらへと思いを託す。
そう今ここに居ない、ジンチュとハイズーへと。
彼は今何処に!?