118. 害意の神
着々と成長している
赤々と光るマグマの泡がボワンと弾ける。
弾けたマグマを灯りとし、5つの影が写し出される。
「無、意味だ・・・」
レオたちに挟み撃ちにされた風神は、再び岩岩を投擲する。
「芸が無さすぎ」
レオの一言と同時に飛来する岩が地面に強制的に落とされる。
「『重下』、単純な魔法だけど今なら効果テキメンだろ?」
「ふ、ん」
『重下』を不快に感じたのか風神の意識がレオに向けられた。
「余所見ですか?」
「こちらだ」
その隙をエリカとクレイが再び二人で同時に仕掛ける。
「『金剛一閃』」
「《魔人の打槌》」
エリカの剣に魔力が集中する。
はち切れんばかりの魔力を、より【圧縮】し高めると剣からギチギチと音が響く。
また、クレイの右腕には漆黒の炎が纏われる。
そのまま右手を抜き手の形に変えて中腰で構える。
「無、駄だ」
風神が急接近した二人に対して先ほど同様に障壁を三重に展開する。
それを見計らったようにエリカとクレイの攻撃が放たれた。
エリカの剣撃が一枚目の障壁にぶつかる。
バチバチと火花を散らし、刃が障壁を切り裂く。
そこに透かさずクレイが二枚目の障壁に打ち込む。
バンっと一つ音が鳴る。それから間を置かず、同じ音が響く。
それと同時に障壁に衝撃が走る。
バン!バン!バン!バン! パリンッ!!!
のち、四度の衝撃と共に二枚目の障壁が砕けきった。
「二枚目!」
「いただきです」
二人は「してやったり」と口元に笑みを浮かべる。
その笑みに風神は再び不快を顕にする。
風神からすればまだ一枚の障壁が残っている。
故に二人の攻撃などどんなに誇ろうとも無意味の産物なのだ。
なのに、自分に勝ったかのように笑う。
それが不快でしょうがなかった。
「吹き飛、べ」
吹き飛べなどと口にはしているが実際に放たれた魔法は、風神を中心に風の濁流を生み出す。
エリカもクレイも足に魔力を集め、地面と体を固定する。
だが、風の濁流に呑まれた瞬間に体が浮き上がる感覚を覚えたエリカは直ぐ様剣を突き刺しささえ棒にする。
クレイも真似するように自らの腕を突き刺しさらに体を固定した。
「うくっ」
「ぐぐっ」
どうにか濁流に抗うことができた二人だが、身体中に切り傷がみるみるうちに増えていく。
だが、二人には耐えるしかなかった。
少しでも気を抜くと明確な死が待っているからだ。
二人の背、風が押し飛ばそうとする先にはマグマ溜まりが待っていた。
「不、愉快な、笑みを消して、やる」
さらに強度を増した濁流はエリカたちを持ち上げ始める。
「あ・・・」
情けないエリカの声が漏れる。
「諦めてはいけませんよ?」
絶望したエリカの目に再び光が宿る。
「『微風』」
単語の意とは裏腹に濁流を真っ向から向かい打つ逆風が巻き上がる。
エリカたちには一切の害がないよう調節された逆風は、最後には濁流を呑み込み風神へと返す。
「愚、か」
風神は自身の魔法よりも強力になった風を岩腕の一振りで意とも容易く書き消した。
「やはり、風に関しては【全域耐性】を持っていますね」
「だけどあの岩のお陰か、未だに全力全開じゃなさそうだな」
レオとレイは風神の動きを確認する。
「俺の『視認解析』でもまだ魔力の限界値が見えてない」
「まぁあの岩も特殊なのでしょうね。何せ火の神力を帯びていますから」
神力。
神が作り上げた神器に残る魔力の痕跡であり、神器たらしめる神の魔力を指す。
これがあるからこそ、擬似的に神の力を扱うことが出来るのだ。
「貴、様は・・・」
風神の鋭い眼光がレイを貫く。
先ほどまでのエリカたちには向けていた視線とは明かに違う。
害意を示すその目に、風神自身も無意識のうちに魔力を高めていく。
その影響か、周りに浮遊していた岩だけでなく、自身の身にまとわりつく赤岩すらピシピシと悲鳴をあげていた。
「ただの、妖精では、ない、な」
風神がレイに狙いを変えたのはレイが口にした【神力】がきっかけである。
神力を見抜ける者が居ないわけではない。
実質、レオであれば神力の有無を見抜けていただろうからだ。
だが風神が気にしたのはその前に出た言葉。
【火の】の部分である。
「神、力が見える、ことはある。
だ、が、その神の属、性、資質を見ること、が、出来る訳がない。
それ、も1000年も、経てばさらに、な」
事実、レイも初めから赤岩が神力を帯びていることを見抜けていた訳ではなかった。
実際に確認できたのは、たった今である。
シズイの話から予測された仮定があったからこそ、確認できたに過ぎない。
だが、ここでレイの神としての格が、赤岩の神力に影響を与えてしまった。
赤岩に帯びた神力がレイに反応し、レイの元へと集まろうとしたのだ。
そのため、長年隠れていた火の属精霊がレイに見えたしまった。
だからこそ、【火の】と口にしたのだ。
「只者、ではな、い」
風神は、赤岩の神力が誰のものか理解していた。
故に、それを言い当てたレイは風神の中で現在最大級の警戒対象者へと変わっていったのだった。
風神 VS ???神