111.過去と今
巡り会う
ジンチュはレオから何の説明のないまま、レオたちが見つけた壁画のある場所まで連れてこられていた。
「ここは、いったい・・・」
部屋一面に描かれた壁画を見て、ジンチュはすぐさま自国、ボルバック諸島を連想する。
そして描かれた暗雲と大槌を持つドワーフ、赤岩人と龍を見つけると息をのんだ。
ハイズーもジンチュと同じく壁画に目を奪われている。
「おーい、ジンチュ! こっちこっち」
急に声をかけられたジンチュは咄嗟に声の主であるレオに顔を向ける。
そこにはいつの間にやら祭壇の上がっているレオの姿があった。
その後を追うように、レイと気絶したままのクレイを背負ったエリカも続いている。
「あぁ・・・」
壁画がどうしても気になるジンチュであったが、惹かれる思いを突き放しレオたちのいる祭壇へと歩き出す。
「行こうハイズー」
「ギャウ」
ハイズーもジンチュ同様に名残惜しさを捨て去りジンチュにつづく。
「来たな。よし、始めるか」
ジンチュが来るや否や、レオが動き出す。
「ま、待って待って!」
「早い早い!」
だが、そこにジンチュとエリカのストップが掛かる。
「説明してないですよね!?」
「そ、そうです。何をするんですか?」
「え? 始まればわかるよ」
適当な返事をしながら再び動かし出すレオの手をエリカが掴む。
「せめて軽くだけでも、ね? お願いしますからぁ」
「わかったわかった。わかったから手を離してくれ」
しぶしぶ了承したレオにふぅと小さく息をはいたエリカは、レオから安心して手を離す。
が、その安心を簡単に裏切る奴もいた。
「はい、開始」
「ちょっ!?」
素早い動きでレオは祭壇の四角い溝に手を入れる。
先ほど大きく弾かれたレオの手であったが今度は弾かれることない。その代わりに溝とレオの手から同時に同質の魔方陣が現れる。
二つの魔方陣は、ダイヤル式の鍵のように、カクカクと互いにズレながら回り互いの良い関係を探し出す。
それを見つけ出すと同時に、二つの魔方陣は重なり合い、パリンと弾けるように消滅する。
「何が起きてるんだ?」
魔法の知識に乏しいジンチュにとって今のやり取りの意味が全く理解できていなかった。
まぁ実際、今の魔方陣の意味を理解できたのはたった一人なのだが・・・
━━━ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!━━━━━
何かの仕掛けが発動し、音ともに祭壇がゆっくりと地面へと沈んでいき、完全に祭壇と床が一体化する。
“これは驚いたな”
壁画とは逆側、入り口の方から聞きなれない若い男の声が聞こえる。
その場にいた全員は瞬時に声に反応し、振り返る。
「だ、誰?」
「エルフ、いやドワーフ?」
そこには一人の男が立っていた。
見た目は20代ほどで、顔には立派な銀色の顎髭がある。長い銀髪は後ろで一つに括られポニーテールになっている。
だが、それでも肩より下まで尾が来ているほどに長い。
また前髪はオールバックに仕上がっていた。
普段見るドワーフのむさ苦しさとは違い、どちらかと言えばエルフに髭が生えているようにも見えなくない。
また、エルフに見える要因を作りあげているのは耳の形である。
ドワーフのように全体的に大きくした耳ではなく、長く尖った耳をしているのだ。
身長は170cmほどで、細身ではあるがしっかりと筋肉が付いているのも見てとれる。
“まさか僕の仕掛けた【刻印】を無理やり起動させるなんて、驚いたよ!”
子供がはしゃぐように嬉しそうな声で語る謎の人物は手を広げてクルリと一回りする。
“でも【役者】は揃っているみたいだからいいけどね。
初めまして皆さん、僕の名前はリィウォン・シズイ。
よろしく~”
リィウォン・シズイと名乗る人物にエリカとジンチュが目を丸くする。
「「ええええええええええ!?」」
二人の驚き声が重なりこの場で小さな反響を生む。
“あれ? なんか反応がおかしい?”
「シズイって、まさかあのシズイ様!?」
「ジンチュさんが言ってた職神さんですか!?」
二人は詰め寄るようにシズイに近づく。
“職神? そ、そんな扱いされてるの?
まぁ当時ですらかなりヤバイ進行者、もとい狂信者が居たにはいたけど・・・”
詰め寄られたシズイは苦い思い出を頭に浮かべながら苦笑いをする。
“あれから数百年?千年きたか?ぐらいは経ってるし、仕方ない?のかな~
なんか尾ひれはひれがついてそうな気もするけど・・・”
まぁいっかと諦めるかのように付け加える。
「そ、そうだ。色んな話を聞かせてください。
実際に行った偉業の数々を!」
「わ、私も私も聞きたいことが! この鎧について」
“ん? 鎧?”
シズイがエリカの言葉に反応したと同時に二人から「グエッ!」と声漏れる。
よくよく見れば二人の襟を後ろから掴み無理やり引き離そうとするレオの姿があった。
「なぁシズイ。お前はエルフとドワーフのハーフだよな?
だから、こんな手の込んだ【仕掛け】を作れたんだろ?」
二人を押さえた上で自らの質問を押し通すレオに、先の二人と変わらないなと思いながらも質問に答える。
“ドワーフは当たりだけどエルフじゃないよ。
ハイエルフさ、それも当時精霊王のお墨付きだったハイエルフ。
それが僕の母さまだ”
ハイエルフとはエルフの上位互換というものではなく、まったく別の種族だと言える。
見た目こそ、エルフとハイエルフには大きな差はない。
だがハイエルフの本質は、芸術家である。
ドワーフが武器や武具などの戦いに必要な物理的な強さやカッコよさを示すならば、ハイエルフは装飾品が絵画など魔法的な機能と魅力を示す物を作り上げる。
本来のエルフは自然を愛するため、自然から産まれたものに無理やり手を加えることを良しとしない。
そこからして違いがあり、まさにドワーフよりのエルフである。
また、ハイエルフ自体は魔法が得意であるが体は非力なため肉体労働には合わない。
そこもハイエルフが武具ではなく、装飾品をメインに据える云われでもあったりする。
「なるほどな。 だからこんな【仕掛け】が出来るわけだ。
歴代最高の職人も納得したわ」
レオは嬉しそうに仕掛けとシズイを交互に見ている。
“それは何より。さて、なら本題に入っていいかい?”
シズイは先ほどまでの軽い雰囲気を捨て、真面目な口調に変わる。
そんな雰囲気にエリカは静かに息をのむ。
その雰囲気はレオが真面目モードに入った時に酷似しており、大概この手の場合は決まって良くない話をするときだと理解できていたからだ。
全員も真面目な空気に口を閉ざし、言葉を待つ。
静まり返った洞窟の中で、シズイの声が響き出すのだった。
その口から何を語る




