108.まだ奥へ
二度あることは・・・
本日三度目の落下を経験したレオたちは、もうさすがに馴れたのか皆何事もなく起き上がってくる。
「あらら・・・」
レオは何かを見て残念そうに呟く。
そこにはエリカ、クレイとレオ、レイに分断する瓦礫の山ができていた。
「皆さん無事ですかぁ~」
山向こうからエリカの声がレオ側に届く。
「問題ないぞ。そっちはどうだ?」
「こっちも大丈夫です。ジンチュさんたちも無事ですよ」
どうやらジンチュとハイズーも向こう側で無事のようだ。
「レオさん、どうしましょうか?」
「俺たちがそっちに向かう」
レオは瓦礫の山を見ながら答える、
「対して高さではありませんから、私とレオ様だけなら余裕ですね」
「じゃ、行くか」
レオは肉体強化の魔法を足にかけるとそのままジャンプする。
それだけでレオの身体は3mほどの跳躍を見せ、軽々山を越えていく。
「到着、と」
「ただいま戻りましたよ」
山を越えてすぐエリカたちの姿を見つけそこに降りる。
レオたちがいた場所から2mほど上、つまり山頂と対して変わらない位置にエリカは居たようだ。
「ん?クレイはどうした?」
「レオ様、あちらに」
レオより先に見つけたレイがクレイの場所を指差す。
そこには何やら瓦礫の下を懸命に堀続けているクレイがいた。
「クレイは何をしてるんだ?」
「私にもよく分からないんですが、二度目の崩落前にクレイさんが何かに気がついていたみたいで、それを確かめようとして・・・」
「あぁ、風の通り道があるとか言っていた話か」
「つまりクレちゃんはそれ知るために床(瓦礫)を破壊した訳ですね」
あははぁと苦笑いを見せるエリカ。
「クレイ、何か見つけたのか?」
「主様」
レオの声にすぐに作業を止めてレオに一礼する。
「こちらを見ていただけますか?」
クレイが案内するのはさっきからクレイが掘り返していた場所だ。
「何かあるのか?」
「おそらく主様なら見ていただければ分かると思います」
レオはよく分からないままそこを覗く。
「ほぉ~」
そこにあったのは半透明の薄いオレンジ色の幕であった。
その膜の下には下り階段が見える。
さらにこの幕は半ドーム状に張られているようでそれに沿うように瓦礫が押し退けられていた。
「強力な結界だな。この階段を破壊する恐れのあるものすべてを弾いている」
覗いたままの体勢から起き上がると、レオはすぐにクレイの一部に目を向ける。
その視線に気づいたクレイは咄嗟に両手を背へ隠す。
仕草だけ見たら子供が怒られないように隠そうとして隠しきれていない、そんな感じである。
「おまけに、害意を持って攻撃する相手に対して、炎のお返しまであるみたいだな」
レオの言葉をすでに肌で味わっていたクレイはレオから視線を逸らしていた。
「レイ! 少しクレイを診てあげてくれ」
「はいはい」
ふよふよと近づいてきたレイにクレイを任せ、レオは再び結界を見る。
「(壊すのは簡単なんだが・・・)」
横目でチラチラと周りに目を向ける。
「(瓦礫を、このままにしていると階段が塞がりそうだな)」
「何を悩んでるんですか?」
クレイの治療を済ましたレイが合流すると、レイも結界に気づく。
「ふむ、つまり瓦礫を退かせればいいんですよね?」
「まぁな」
「なら、ざっくり落としてしまいしょう。
ちょうど良くレオ様と私がいた場所は結界の範囲外みたいですから」
レオが手をポンと叩く。
「そっか、それでいいな」
ならば、とレオが魔法の選別を始める。
「エリカさん、クレちゃん! こちらに避難してくださぁい」
「え、あ、はい」
「御意」
何の事か分かりはしないが嫌な予感だけはしっかり感じたエリカたちは未だに目を覚まさないジンチュを背負ってレオの元に集まる。
「よし、一気に蹴散らすか。『弾空』でいく」
『空絶』は自身を中心に風の結界を作りあげ、それに触れたものを周りへ弾き飛ばす。
それだけの魔法で、主に対飛び道具様に用いられる。
レオが選別を終了した辺りでエリカたちもレオの近くまで来ていた。
「よし、みんないるな、とまだハイズーがいたか」
みんなの後を追うように最後に蛇龍が避難していた。
「じゃあ行くぞ。『弾くぅ━━━
魔法の発動とほぼ同時にレオたちの足元が光る。
エリカたちは初め、これがレオの使った魔法だと思っていたのだがレオの様子から違うことにすぐさま気づいた。
そして足元の光が消えると同時に浮遊感を全員が感じることになる。
「(何度めでしょうか・・・)」
内心涙めになりながらエリカは考えた。
そう思うほどに次の事態が予測可能だったからだ。
「クレイ!」
レオが強く声を発するとクレイは言葉もなく行動に移す。
予測外の事態であったが『空絶』は発動済みである。
否応なしに風が瓦礫を吹き飛ばしていくのだが、選んだのが風を使う魔法であるため、足場がない現状では全員が壁まで吹き飛ばされる可能性があった。
「こちらへ!」
クレイは体を変化させ、壁や瓦礫に触手を伸ばし自身の体を固定すると同時にエリカとハイズーの足元にも触手を伸ばし足場に見立てる。
さらに自身の体で壁を作りあげ、誘導する。
間一髪で間に合い強風が吹き荒れる。エリカたちへ届かないように踏ん張り続けたクレイはどうにか役目を果たした。
だが、そこでクレイは力尽きる。
結局そのまま三度目の床の崩落に巻き込まれるのであった。
さすがにもうこれ以上はないです(キッパリ