107.一度だけとは限らない
時には大胆さもいる
全員の無事を確認できた後、気絶した 一人とそれに寄り添う一匹を除いて現在地の探索を開始する。
「エリカ、クレイ。そっちに何かあったか?」
レオたちが落ちた場所は縦穴のような場所である。
「周りが床の瓦礫で埋もれてて退かしてみないとなんとも・・・」
「微かに風の通り道があるようですが、場所までは分かりません」
レオからの問いかけにエリカもクレイも声を張るようにして答える。
レオとエリカたちの距離は10m程離れている。つまり、崩れた足場の端から端、互いに対角の位置にいるのだ。
「了解。とりあえず、二次崩落が起きない程度には瓦礫をいじってみてくれ」
「わかりました!」
レオの指示に元気な声で返ってきた返事に若干の不安を感じながらも任せることにする。
「どう思います、レオ様?」
「そうだなぁ~」
レイとレオは再び自分が落ちてきた場所を見上げていた。
レイの言葉の意味は【どうして赤岩人が見逃したのか】という一点である。
レオの見立てでは瓦礫が多すぎるために、完全に下まで降りているわけではないらしい。
少なからず、今レオたちがいる場所から安定した床まで2、3mはあるようだ。
「確かに見逃した理由も分からないが、あいつが離れていった理由になら仮説は立てれるぞ」
「あの大槌ですよね?」
レイもレオと同じ意見らしい。
「なんの因縁かは知らないけどあの大槌を壊すことが狙いだったなら、目的を達成したかは去っただけ」
「ですが、それならそれで不思議な話ですけどね」
「確かにな。もしこの仮説が正しいならあいつは昔からそれを知っていたことになるよな」
「加えていうならば、我々を一網打尽にする以上の価値をあの者が見いだしていた、という話にもなりますね」
こんな身動きが取りづらい穴の中、岩岩を落とすだけでまとめて始末するのは難しくない。
赤岩人が、レオやレイの実力を読み取れていたかどうかまでは本人でなければ分からないが少なくとも白蛇龍を排除しようと動いたとしても可笑しくないのだが、現実はそれすらなかったのだ。
「あの大槌とかに関してはおいおいでいいか。それよりも・・・」
レオは見上げていた視線を元の高さまで戻し、辺りを今一度眺める。
「やっぱ出口はあそこだけかなぁ~」
瓦礫と岩肌しか見えないこの場所で唯一の出口は起きてきた場所のようだ。
「俺たちはどうでもなるが、あっち組は大丈夫じゃないよな」
レオが言う【あっち組】とは、現在絶賛気絶中のドワーフ側である。
「ドワーフさんの方はまだやりようがありますが、あの龍は少し手間ですね」
「しょうがないな。
最悪は重力魔法でどうにかするかなぁ?」
この後の脱出を考える上でどうしてもぶち当たる問題を二人で考えていると、ドカン!と不穏な音が響く。
すると、それと同時に瓦礫の床がぐらつき始める。
「ん? なんですか?」
「ま・さ・か・・・?」
浮いているレイは軽く首をかしげているだけだが、今ので再度崩落を予感させる床を若干の不安そうにレオが見つめる。
そしてその視線は音の軌跡をなぞるかのように犯人二人へ向けられた。
「く、クレイさん・・・」
「う、うむ。どうやらやってしまったようだ」
レオの視線の先にはもちろんエリカとクレイがいた。
そんな二人は、二人して【やっちまったなぁ】という表情である。
その原因はデカデカと床(という名の瓦礫)に空いた大穴。
「まさかここまで脆いとは・・・な」
「だからダメだって言ったのにぃ」
そんな二人を他所に再び床全体からピキピキと音が響く。
薄膜に凍った湖に立って遊ぶかのような状態だ。
そして崩落は待ったなしでいきなり訪れた。
「「「あっ」」」
そんな情けない声が三ヶ所から響くと同時に、レオの見立て通りそのまま2、3m下へ全員また落ちていくのだった。
ただし物事には限度がある