106.目指す先
ゆ、幽霊!?
「うっ、うぅぅ・・・」
呻き声を上げながらジンチュがうっすら目を開ける。
周りは先程の明るい場所とはうって変わり真っ暗である。
上から指す微かな光によってどうにかわずかに壁や物の輪郭がわかる程度だ。
「ここは・・・?」
身体中に痛みを感じながら、現状の整理を始めようと頭を働かせる。
「あの赤い奴にまた襲われて、それから・・・」
そこまで考えて、自身が最後に床の崩落に巻き込まれたことを思い出す。
ハッと体を起こすと、そこには誰一人欠けることなく全員がその場にいた。
何人かはジンチュと同じく受け身を取れなかったのか未だに寝転んでいるが、命の危機に関わりそうな重傷者は見受けられない。
そんな中、ただ一人だけ怪我をした様子がなく、立ったまま上を見上げ続けている者がいた。
数mほど上、自分達が元いたフロアを、さらに言うならばそこに唯一止まり続けている赤岩人を睨み続けているのはレオだった。
「あいつ、何なんだ?」
独りボツりと呟いた声。
その意味をジンチュは理解できないままレオの視線の先を見つめ、その意を理解した。
「う、浮いている? あの巨体が?」
レオとジンチュが見たのは崩落したはずの床の中央で、どうやってかその巨体を浮かし続け、こちらを観察している赤岩人の姿だった。
まるでそこに見えない床でもあるかのようにピッタリと空中に固定されているのだ。
「な、なんで・・・ あ、あれは!?」
ジンチュは空中居続ける赤岩人のトリックを暴くために隅々まで観察をしていた。
そんな時、別の何かに気づく。
「なっ、う、嘘だ。 ない、ない、ない!」
何か気づいてすぐジンチュは自身の周りを見渡し、手探りで何かを探し始めた。
そして直ぐ様、近くにそれがないことを理解すると青ざめた顔で再び赤岩人を見て叫ぶ。
「【バイシィー】を返せ!!」
ジンチュの叫びに反応したのか、赤岩人がゆっくりと動き出す。
それと同時に崩落前にジンチュが持っていたはずの大槌【バイシィー】が赤岩人の周りに侍る岩岩と同様に浮かび、赤岩人の正面へと運ばれる。
「まさか・・・ やめてくれ!!」
嫌な予感を感じたジンチュが再び叫び声をあげる。
だが、聞き耳持たずか、それとも言葉が通じないのか、いずれにしても赤岩人は待ってはくれなかった。
床を破壊した時と同じように、その姿からは想像も出来ない速さで腕を振り上げたかと思うと次の瞬間にはバイシィーは粉々に砕け散っていた。
「あ、あぁぁ」
目の前でドワーフの種宝を壊されたジンチュはショックのあまりに気絶する。
そんなジンチュを横目に見つつも、レオは一人、赤岩人の行動に意識を向けていた。
赤岩人にもそれが理解できていたためか、一度レオの方に視線を向けたかと思えばふよふよと浮いたまま来た道を戻るように消えていった。
「レオさん、ご無事ですか?」
「あぁ、俺は大丈夫。他のやつらは?」
「皆さん大丈夫みたいです」
赤岩人が見えなくなってからエリカがレオの元へと近寄る。
レオも赤岩人の気配が遠ざかるのを感じとると、エリカを見るついでに周りを見渡す。
「よっ、と・・・」
「はぁ~、最近ひどい目にしかあってませんね」
クレイは瓦礫を退け、レイは羽を繕っていた。
エリカの言葉通り、クレイもレイも何事もなく起き上がる。
「クレイ、大丈夫か?」
「はい、多少瓦礫の下敷きになりましたがこの程度ならば問題ありません」
「まぁ、それは心配してない、してない」
レオの問いかけに問題ないと答えるクレイに対し、レオは遠回しに意味が違うと言いつつ、クレイの前に立つ。
「ここ。 ここは大丈夫か?」
レオがクレイの胸に握りこぶしを当てながら再度問う。
「・・・どういう意味ですか、主様?」
少し困った顔をしながらクレイは質問を質問で返す。
「ふふ、あんまり気負うなってことさ」
軽い笑みを浮かべてそれだけ言うとレオはクレイから離れ、辺りを調べ始める。
「・・・」
「ズルいですよね」
レオの手の感覚を感じつつクレイが沈黙していると今度はレイがクレイの前に現れる。
「こんな時ばっかりなんでも知っているように、こっちの心を見透かしたかのような言葉を掛けてくるんですから。
それもキチンと的を射た言葉で・・・」
「奥方様」
「クレちゃん、私は神という立場にあっても根底は人のそれと変わりません。
どんなに力が強くとも、心まではそうとは限りません」
自身の弱さをさらけ出し、確認するようにレイは言葉を吐き続ける。
「私も、もちろんキューレもまだまだ未熟者なんです。
だからクレちゃんも、今の自分が不甲斐ないと思うならば一緒に強くなりましょう?
あの人の横に並び立てるように、ね?」
最後に笑みを浮かべたレイに、クレイもつられて笑みを見せる。
「そう、ですね。頑張ります、奥方様」
一般人とは隔絶した立ち位置の二人である。だが、人と変わらない物を知った瞬間だった。
「おーぃ、れいさーん!クレイさーん!」
遠くからエリカの声が響く。
その明るさから、レイもクレイも再び二人して笑みを見せた。
今度の笑みは二人して自然と出てきた心からのものだった。
メンタルお化けがそこにいた