105.赤の乱入
エレベタガール「お客様、何階へ参りますか?」
「まぁそんな訳で今回選ばれた総長が自分だったわけです」
未だに複雑な表情を浮かべているジンチュである。
そんな彼よりもレオは【バイシィー】が気になって仕方なかった。
「(ベールマ・イントロスを作り上げた本人の愛用具か・・・)」
150~160cmはありそうな身の丈ほどの大槌。
どう見ても鍛冶道具にしては大きすぎる。
「(目的が別に? だが愛用してたってことは普段使いしてた?)」
それでも疑問は尽きない。
何故こんな大きな金槌を使う必要があったのか。
何故武器に意思を持たせたのか。
何故選ばれたドワーフがその姿を変えるのか。
何故これらの説明を後世へ残さなかったのか。
何故、何故?
「(気になって仕方ないなぁ)」
ベールマ・イントロスの製作者。
ならば、ベールマ・イントロスが魔力を流すことでその性質を理解できたように、バイシィーもまた同じような機能があるのではないか。
「(でもそれだと意味がないよな・・・)」
ドワーフは元来魔法が使えない。
魔法の才能がない、のではない。
魔力そのものが乏しく、Ⅰ界式呪文ですら発動させられない程の乏しい魔力なのだ。
「あ、あのぉ、そんなに気になりますか?」
バイシィーをじっと食い入るように見続け、ブツブツ喋るレオにジンチュは恐る恐る聞いてみる。
「おっ、ごめんごめん。でもかなり気にはなるな」
「なら、少し見てみますか?」
「え、いいのか?」
「えぇ、大丈夫、だと思います」
ジンチュは自信なさげな受け答えをしながらもバイシィーをレオに渡し、受け取ろうとした。だがそれは叶わなかった。
ドンッという爆発音と共に、先程蛇龍【ハイズー】が溶かして出来た小さな洞窟から粉々に砕け散った岩や石、砂ぼこりが吹き出してきた。
「な、なんだ?」
「何か来ます・・・」
ジンチュは困惑し、エリカは直ぐ様剣に手を添え戦闘体勢を取る。
ハイズーもグルゥゥゥゥゥと威嚇と共に喉を鳴らしジンチュの前に出る。
━━━ガンッ!ガンッ! ゴリ、ゴリ、ガキン!━━━
初めに聞こえてきたのは、石や岩どうしがぶつかるような音。
今度は何か重いものが地面を這いずるような音。
最後に金属がぶつかるような音が響く。
それはまるで足音のように次第にその音を大きくさせ近づいてくる。
「まさか・・・」
誰もが何が起きているのかと経過を見守る中、ジンチュだけがある可能性を導きだした。
「逃げましょう!」
ジンチュイはレオたちに向かって叫ぶ。
「何か分かったのか?」
「とにかく早く!」
レオがジンチュに問うが本人は軽いパニック状態にはなっている。
「時間切れ、みたいですね」
そんなジンチュにエリカから無惨な結果報告が上げられる。
ギギギっと音が響きそうな動きと共に首を動かし、音の鳴る方へ視線を向ける。
そこにいたのは真っ赤な岩石で出来た人型の魔物。
大きさは3~4m、その周囲には魔物と同じ赤岩が下から持ち上げられたようにフワフワと幾つか浮いていた。
「さっき聞いた特徴と合致してますね」
「あれがそうか?」
「は、はい、そうです」
人型と聞いていたレオやエリカはゴーレムのような姿をイメージしていたが、実際は違った。
デカイ岩岩を無理やり張り付けただけの、人とは到底言えない姿だ。
どうにか腕や足、胴体や頭のような部分が見えなくもない。
だが、実際は右足に位置するであろう部分は大岩二つがくっつき、反対側は石が積み上がり出来ている。
そのためが右足をゴリゴリと引きずるようにして移動している。
腕なんてもっとひどい。
片や体の半分を占めるような大岩が右腕となり、片や左腕は石が連なる先にそれより一回り大きな丸い石がぶら下がっている。
「右側だけが大岩で作られているせいか、かなり比重が偏っているな」
「動きは鈍そうですね」
「油断してはいけませんよ、エリカさん」
「お? 完全復活か?」
レオとエリカのもとにふよふよと浮かび上がってきたのはレイだ。
「こんな状況ですからね」
「だな。それに・・・」
レオの声の高さが一段下がる。
「かなりヤバそうだ」
おちゃらけた雰囲気を消し去り真面目モードに切り替えたレオがいた。
ジンチュからすれば一見普通に映ったレオの姿だが、エリカやクレイからすれば驚きである。
それはまさに、目の前にいる存在が蛇龍と同格以上であると教えているのと動議なのだから。
「ここは撤退しましょう!」
ジンチュは未だに撤退を支持していた。
「ハイズーがいるとはいえ、皆さんボロボロじゃないですか!
ここは一旦引きましょう。見た通りあいつは動きは鈍いです。
今ならまだ間に合います。さぁ早く!」
先程のハイズーとの戦闘でレオたちの身体は完全な状態とは言えない。
その中でもレオに至っては魔力を練ることも苦しいのは事実である。
「分かった。撤た━━━」
レオが少し考えて答えを口にする。
それを聞き、皆が一瞬、敵から意思を離した。
それが大きな過ちとなる。
━━━グガギギググガガガガ━━━
歪な音を響かせた赤岩人がその巨体から想像も出来ない跳躍を見せる。
10m以上はあったであろう距離を一気に詰め、レオたちの頭上へと到達する。
両腕を振り上げ、あとは自身の重さを兼ね合わせた重量級の叩きつけを披露し、ドゴンッ!!と鳴り響き、地面とぶつかる。
「あぶねぇ~」
「危機一髪でした」
どうにか全員の寸でのところで回避に成功したようだ。
だが、そこで終わらなかった。
━━━ビキビキ、バキ、バリバリバリバリ━━━
と、今度は足元から響き渡る。
全員が足元を見ると、地面に大きなヒビが入り全員が地面が崩れ落ちた。
「「「うわあああああああ」」」
そのまま全員、底見えぬ闇へと落ちていくのだった。
お客「ちょっと底まで」