104.偉大な名は━━━
ため息を一つで幸せ一つお亡くなり
はぁ~、と小さなため息をジンチュがつく。
あんまり乗り気でない、というか出来れば話したくないという雰囲気である。
「【儀式】についてでしたよね?」
分かってはいても再度確認をとる。
「そう、聞かせてくれ」
ジンチュの雰囲気など気にせずレオはいつもの調子で答える。
再び小さくため息をついた後、ジンチュは口を開き出す。
「【儀式】の前に、一つ話をしないといけないです。
ドワーフという種族には高位の存在に多大なる敬意を示す特性?というか風潮?というかが、あります」
「それは神や仏といった類いの相手を信仰しているって話か?」
質問を口にしながらレオは頭の中でドワーフの町並みを思い出していた。だが、レオの記憶の中にそれらしき物を見た記憶はない。
「いえ、その手のモノは信じない人が大多数ですね」
「ん? なら何を信仰するんだ?」
「信仰している訳ではありませんが・・・
我々は祖先、その中でもドワーフの歴史に名を残した偉大なる職人たちを職神として、絶やすことなく名を代々伝えていっています」
「職人気質のドワーフの皆さんを考えると普通って気がしますね」
エリカの言葉に、言われてみればそうだなと、レオ自身も思う。
「それで? それがどうしたんだ?」
「貴方たちはドワーフの中で一番有名な職神が誰か知っていますか?」
ジンチュの問いにレオとエリカは顔を見合わせる。
二人して、何処かでそれらしい何かを知っているような、そんな気がするがハッキリせず頭を悩ませる。
「刻印のドワーフ、ですか?」
「「あ!」」
誰かの呟きにレオとエリカの二人は奥に仕舞いこんでいた記憶を引っ張り出すことに成功する。
それと同時に、二人は声の主に目を向けた。
そこにいたのは、どこか居心地の悪そうにしているレイであった。
「違い、ますか?」
「いえ、合っています。
その人の名はシズイ。過去から現在に至るまで唯一自身の刻印の刻んだドワーフです」
エルフの国で見たベールマ・イントロス、その作成者の名前をレオたちはこの時はじめて知ったことになる。
「あの【刻印】か・・・」
レオが語り合いと思ったほどの偉人である。
「伝説も多く、逸話も多い。ですが、まぁ実際に何処までが事実かは分かりませんけどね」
そうは口にするジンチュだが、その目にはその大多数を信じているようだ。
そして逸話を知らぬレオ自身も多くは真実なのだろうと思えた。
「(守護領地にあった【刻印】、あれがシズイによるものだとすれば、な)」
レオの魔力、さらには【神界式】の魔法を駆使したからといえ守護領地を元通りと以上の状態には出来ない。
それが出来たのは守護領地の原案を練り込み、修復できる用意を備えた刻印あってこそである。
「あのぅ、結局それが何か?」
男子二人が思い思いにふける中、エリカがそれをブッたぎって入ってくる。
「ゴ、ゴホン。それでこの大槌が出てるわけです。
これが誰のものか、話の流れからわかると思います」
「まさか・・・」
今ジンチュが持つこれもシズィ作である。
「しかもこれはシズイ様が愛用された物なのです!」
「総長の証としては申し分ない価値って訳か」
「それを【手にいれる】ことが儀式というわけですか~」
「いえいえ、違います違います」
ジンチュは手を横に振りながら否定する。
「これは総長が不在の際は頭領治館で管理されますし、催事がない場合は展示もされてます」
「なら、何が?」
「この大槌には【意志がある】んです」
「はい?」
急に意味不明なことを言い出したジンチュにエリカの頭が追い付いていなかった。
「ドワーフには他種属にある成人式のようなものはないのですが、【見習い】から【職人補佐】に上がる時に、この大槌に【触れる】ことが許されています。
それが偉人式という式典で行われる【受感の会合】。
偉人たちの恩恵にあやかろうというものがメインですが、数年に一度、この大槌【バイシィー】がその中から選び総長に任命するというわけです」
淡々と話すジンチュだったが三度目のため息をつく。
「任命される条件はわかりませんが、総長の全員の特徴があります。
それが今の自分と同じような背格好になるというものです。
正直これが一番辛いです・・・」
ドワーフの全体身長から見て、大きすぎる身体は私生活にもしづらい上に、否が応にも目立つ。そのため、すぐに総長バレるため休まる時間もないという。
「苦労してたんだな・・・」
「でもそれならどうして他国にその話が流れてないんですか?
かなりの騒ぎになりそうですけど・・・?」
「外交に総長が出ないから当たり前だな」
「え?なぜ?」
「エリカ、自分の姿形がエルフになったとしてその姿で【私は人間の代表です】って言えるか?」
あからさまに見た目が違うものは他から簡単に受け入れらるものではない。つまりはそういうことである。
「だから嬉しさ反面、悲しさ反面なんですよね」
シズイの武器を持てる嬉しさと、ドワーフらしさを消された悲しさがジンチュを襲っていたからこそ苦い顔をしていたのだった。
見た目を気にするのは誰だって同じ