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― 柒 ―

 準と律が零係の部屋に戻ったときには、時計の針が午後の3時を指していた。


「いや~、久々の肉体労働やったから、ホンマに疲れたで~。もう、歩き回って足がパンパンや!」


 椅子に座るなりデスクの上に脚を投げ出し、律は大きく伸びをしながら言った。だが、見た目よりもしなやかな足先よりも、準はその態度と、なによりも大袈裟な物言いが気になって仕方がなかった。


 早朝から犬を連れて街中を歩き回れば、疲れるのは仕方のないことだろう。だが、そもそもあんな競歩のような歩き方をしなければ、こうまで疲労することもなかったはずだ。


「な~、ウチ、マジで疲れたんやで~。新人君、悪いけどウチの脚揉んでくれへんか?」


「えぇっ!? な、なんで、僕がそんなことを……」


 既に靴まで放り投げて、律は完全に女を捨てていた。あまりのことに、準はそれっきり何も返せなかったが、律は悪戯っぽい笑みを浮かべて茶化すように迫って来た。


「なんや~、新人君。もしかして、照れとるんか? 直々に女体を触られるチャンスやってのに、勿体ないで~」


 男なら、据え膳食わねばなんとやら。そんな言葉を吐きながら準の方に脚を伸ばしてくる律だったが、見兼ねた氷川がとうとう割って入った。


「そこまでですよ、印藤さん。あまり新人で遊ぶと、また香取さんから怒られますよ?」


「はぁ……。氷川クンといい、雄作ちゃんといい、どうしてこう零係はギャグの解る連中がおらんのや。どうせなら上も、もっと笑いも取れて捜査もできて、おまけにイケメンでスポーツマンなパーフェクト超人でも寄越したらええねん」


「申し訳ないですが、それは聞き入れられないと思います。第一、イケメンやスポーツマン云々は、心霊捜査に何ら関係ありません」


 律のぼやきを、氷川は淡々とした口調で返す。この辺り、準と比べても、やはり付き合いが長いからこそ慣れているのだろうか。


「それよりも……二人とも、少しよろしいですか? 例の警察官が殺害された事件なんですが……調べていたら、面白いものが見つかりましたよ」


 眼鏡の奥で、氷川の眼光が鋭く輝いた。それが意味するものが何かを知り、律は先の砕けた口調から一転して、氷川の話に食い付いて来た。


「面白いもん? なんや、新しい物証でも見つけたんかいな?」


「さあ、どうでしょうね? とりあえず、自分の目で見た方が早いですよ」


 それだけ言って、氷川は律と準にパソコンの画面を見るように促した。そこに映し出されていたのは、なにやら個人の管理する日記のようなページ。大手の運営しているものとは異なるが、誰かのブログか何かだろうか。


 氷川に言われるままに、二人はそこに書かれていた文字の列を目で追った。書かれているのは、どこぞの公園で捨てられていた猫を拾っただの、保健所で殺される野良犬が可哀想だのといった、動物愛護に通じるようなものが多い。


 その一方で、これは人種差別を扱った内容の話だろうか。国内外を問わず様々な話を扱っているが、その大半は差別される側を過剰に擁護する一方で、差別する側に対しては必要以上に攻撃的な姿勢を見せるような文体で書かれていた。


 個人の思想。そう言ってしまえば、そこまでだろう。ネットには、時に過激な意見が書き込まれることも少なくない。これもまた、そんな物の一つなのではないか。そう、初めの内は思っていたが、あるところまで読み進めると、二人の目線が同時に止まった。


「これは……僕達が調べていた、巡査殺害事件のことじゃないですか?」


「こっちには、パトカーをブッ壊したっちゅう方の事件についても載ってるで。しかも、動画のオマケ付きや」


 律が息を飲む。滅多なことでは動じない彼女でさえも、そこに映し出されていたものを見た瞬間、自分の目を疑わずにはいられなかった。同じく準も、目の前の動画の内容に、何の言葉も返せなかった。


「この動画……。少年達が、パトカーを襲ってるのか!?」


「それだけやないで。ちょいと前の……ほら、ここや! この部分見てみい! パトカーから片手で大人を引き摺り出して、おまけにバイクで引っ張り回した挙句に放り投げよったで!」


 常人離れした怪力を振るう少年の姿を、律が両目を見開いて捉えていた。果たして、これは本当に現実を記録した映像なのか。趣味の悪いB級映画の宣伝かなにかで、どこかにトリックが仕掛けられているのではあるまいか。


「ど、どうなってるんですか、これ? それに、僕達も知らない事件に関する詳細が、こうも簡単にネットで流されているなんて……」


 未だ自分の見たものが信じられず、準は完全に頭が回らなくなっていた。それでも、律の方はなんとか気持ちを落ち着けたのか、いつもの彼女らしからぬ冷静な口調になっていた。


「自分の力を誇示したいだけの愉快犯……。否、そないな理由だけで、こんなアホなことしよるなんて考えとうないわ。考えとうないねんけど……」


 最近は、そんな大人の理屈を無視し、実に馬鹿馬鹿しく下らない事件を起こす若者達も数多い。だが、それを抜きに考えても、この動画に映し出されていた少年達の怪力は、それだけで十分に異常と言えたが。


「動画の方は、こちらで別に保存しておきました。こういうものは、時間が経つと直ぐに消されてしまうことが多いですからね。もっとも、本当に拙い動画の場合、我々の手を回して『なかったこと』にしてしまうことが大半ですけど……」


 今回ばかりは、単に動画を消すだけでは済まないと氷川は締め括った。


 世の中に溢れている霊だのUMAだの宇宙人だのといった関係の写真や動画は、その殆どがトリックに過ぎない。映像技術の発達に伴い、最近は特に精巧な偽物が出回ることも多くなった。


 だが、その一方で、稀に『本物』の写真や映像が世の中に出回ってしまうこともある。そういう場合、情報を察知した零係の手で、世間の記録から抹消されるのが常である。


 本物の超常現象を映し出した映像。そんな物の存在を、零係としては世に出させるわけにはいかなかった。しかも、今回の物に至っては、彼らが掴んでさえいない未知の画像、一連の警察官殺害事件の全貌が、事細かに映し出されている代物だ。


「こんなもんをサイトにアップしよるなんて……。このサイトの管理人、何者やねん?」


 眉間に皺を寄せながら、律はまじまじとパソコンの画面の細部にまで目を凝らした。


「サイトの管理人は、『アール』というハンドルネームを使っているようです。本人曰く、『Revolutionary』……革命家という意味でのRらしいですけど」


 そこまで答えて、氷川は一瞬だけ言葉を切る。それが何か別の意味を持っているのか、それとも単に格好をつけているだけなのかは、さすがに解らないと。その上で、サイトの隅にあったリンクの一つをクリックし、別のページを開いて見せた。


「そのサイトのトップページが、これですよ。一見、雑多な記事を載せているだけの、個人用ブログですけどね。既存のブログサービスを用いたものではなく、完全に個人作成によるページというのが興味深いです」


 ちなみに、サイトのサーバーを調べたところ、これは海外に設置された物を使用しているようだと氷川は続けた。サーバーの場所は南米。中国や北朝鮮などのサーバーにも言えることだが、中にはアングラなサイトの摘発を逃れる隠れ蓑として使用する者も多いと聞く。


「海外のサーバー使うて、こんな動画を流しよる……。管理人、どこかで違法に近いことしよるっちゅうのも、解っとるんやろな」


「ええ、そうでしょうね。まあ、何が違法なのかと言われれば、なかなか難しいことなんですけど……」


 再び画面を切り替える氷川。トップのページから移り、続けて開かれたのは掲示板のような場所だった。


「なんだ、これ? フリーの掲示板みたいだな」


 首を傾げる準。一見しただけでは、何らおかしなところは見当たらない。ただ、妙に攻撃的な書き込みや、それに合わせて煽るような書き込みが目立ったのは気になったが。



――ポリ公弱っ! 雑魚のくせに、マジで調子乗ってんじゃね?



――あ、ヤベェ、俺も暴れたくなって来たわ。



――おいおい、さすがにヤベェんじゃねぇの、これ?



――合成だろ? 演技に決まってんじゃん。頭グチャッ! とか、ありえねぇよ。



――でも、最後のシーンとか、マジで本物っぽくね?



 散見されるのは、とりとめもない下らない書き込み。先程の動画に対する感想なのだろうか。文体からして、どうにも程度の低い者達が書き込んでいるようだったが、その中に一つだけ、妙に異彩を放っている一文があった。



――時は満ちた。決起せよ、我らと共に。



 たったそれだけの書き込みだったが、今までの粗暴な文章と比べ、落ち着いた様子が却って目立った。


「あれ? この書き込みって、管理人が書き込んだやつか?」


 書き込み主の名前を見て、準が気付いた。他の書き込みは名前の欄が全て『匿名の同志』となっているのに対し、例の書き込みだけは、『管理人』と記されていた。


「なんやこれ? ハンドルネームのまんま、革命家でも気取っとるつもりかいな?」


 律も怪訝そうな表情で画面を凝視する。その間にも氷川はページをスクロールさせると、更に別の書き込みがされた場所で止めて見せた。



――同志よ、立ち上がれ。次の満月、新たなる革命の狼煙は上がる。



 そこにあったのは、やはり管理人による書き込みだった。今度は言葉を包むこともなく、明確に『革命』と記されている。


 革命家。管理人のハンドルネームは、単なる仮称に留まらないのか。しかし、彼、もしくは彼女かもしれないが、とにかくサイトの製作者が、何に対して革命を起こそうとしているのかは不明のままだ。


「しっかし、こんなん、よく見つけよったなぁ、氷川クン。ウチらが適当にネットサーフィンしても、絶対に見つけられへんで」


 感心したように零す律。準も無言のまま頷くが、氷川は軽く眼鏡の位置を直しただけで、取り立てて変わった様子も見せなかった


「サイバー犯罪対策課の知り合いに、少し手伝ってもらいましたけどね。それに、今回はサイトの設定にも救われました。一見、アングラっぽく見えるんですけど……意外と目に付き易いように細工されていましたから」


 そう言って、氷川は更にページを切り替えると、いくつかの検索ワードを空欄に打ち込んだ。様々な検索エンジンで試してみたが、どれも同じように、かなり上の方に先のページへのリンクが来るようになっていた。


 準や律に、パソコンやインターネットの細かい話は解らない。しかし、特定の検索ワードで探せば直ぐにページへと行き着けるという事実が、既に先の映像が様々な者の目に留まり、場合によっては流出している可能性も示唆していた。


「ったく、よう解らんやっちゃなぁ。目立ちたいんか、コソコソしたいんか、どっちやねん!」


 苛立ちを隠しきれず、律が机を叩いた。自分の知らない、理解できない世界の中で、勝手に事件が進んでいるのが気にくわないようだった。


「どちらかと言われれば……たぶん、目立ちたいんでしょうね」


 ただし、それは単なる自己顕示欲に留まらない。必ず、もっと別の思惑があると氷川は続けた。


 単に人目を惹きたいだけなら、動画だけをどこぞの投稿サイトにでも載せればよい。敢えて面倒な手段を用い、自分用のサイトを作る必要もない。


 こいつはプロだ。言葉には出さなかったが、氷川は確信していた。


 要所に稚拙な個所が残るものの、単なる愉快犯として片付けることのできない手腕。間違いなく、一般の人間よりはインターネットという物の扱い方を知っている。


「それにしても……ここに書き込まれた『決起』とか『革命の狼煙』って、なんなんだ?」


 少しばかり不安そうに、準が制止した画面を見つめて言った。相手の顔はおろか、正体さえ掴めないという現状が、その存在の不気味さを否応なしに引き立てていた。


「単純に考えれば、何らかの暴動を画策しているという線が濃厚でしょうね。ただ、それにしては、随分と大っぴらに宣言しているのが気になりますが……」


「ハッタリとちゃうんか? ほら、よくネットの掲示板であるやろ。何曜日の何時何分に、どこそこを爆破するとか、誰それを殺すなんていう悪戯」


 慎重な態度を崩さない氷川と、未だ半信半疑な律。しかし、掲載されている映像が映像だけに、やはり単なる悪戯とも思えない。


「管理人の身元特定と、それから掲示板に書き込んでいた者達についての情報は、こちらでも可能な限り追い続けます。お二人も、引き続き新しい情報がないか、改めて捜査を続けて下さい」


 最後に、氷川はそれだけ言ってブラウザを閉じた。掲示板へ書き込んだ者達の所在は、IPアドレスを辿れば直ぐに解る。ネットカフェを使って書き込まれた物もあるだろうが、それが全てではない。


 問題なのは、やはりサイトの管理人だ。一連の事件の裏で、このサイトを設立した者が糸を引いているのは間違いない。では、いったい誰が、何の目的で、こんな事件を起こしているのだろうか。


 常軌を逸した力を持って、警察官を殺して回る不良達。謎のサイトを運営する管理人と、そこに掲載された動画。そして、掲示板に書き込まれた、人々を暴動へと扇動するような文面。


 月齢から計算すると、次の満月までは、後二日。人々の預かり知らぬところで、しかし悪魔の足音は、着実に現実を蝕まんと迫っていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 夕日に染まった街の一角に、その建物は忘れられたように鎮座していた。


 錆びついた尖塔と、薄汚れた壁。重たい鉄扉は半開きのまま固まっており、複雑に絡み合った剥き出しのパイプは未知なる生き物の内臓を思わせる。


 昭和の残滓。誰もいなくなった廃工場の姿は、沈没した軍艦の成れの果てにも似ていた。夕陽の赤が壁面に付着した赤錆びの色と重なって、主を失った鋼鉄の城を、どす黒い血を想像させる色に塗り上げていた。


「い、嫌だ! これ以上は、マジでやってられねぇぜ!」


 突然、誰もいないはずの工場内から、誰かの叫ぶ声がした。無人のはずの工場は、しかし今や地元の不良達の間でも有名となり、彼らの根城と化していた。


 廃材とドラム缶が山のように積まれた大きな部屋で、一人の少年が周りを別の少年達に囲まれている。かつては互いに仲間だったのだろう。どちらも髪を派手な色に染め上げ、衣服もだらしなく着崩していたが、誰の目から見ても対立しているのは明白だった。


 金属バットに鉄パイプ、そして歪んだバールのような代物。周りを囲んでいる少年達は、その誰もが手に手に物騒な獲物を構えている。一方で、輪の中心にいる赤髪の少年は、こちらは丸腰の状態だ。


 このまま集団でリンチでも行うつもりか。そう思われた矢先、少年達の後ろから声がした。


「やれやれ……。ここまで来て、我儘はよくないなぁ。今更、引き返せるとでも思っているのかい?」


 声の主は、フードのついた地味なパーカーを羽織った少年だった。周りの不良達とは異なり、随分と小柄だ。薄暗い工場内ではフードに覆われた目元の様子までは解らなかったが、それだけに薄笑いと浮かべる口元が却って目立っていた。


「時間はないんだよ。次の満月が、決起の狼煙を上げるときなんだ。それなのに……まさか、怖気づいたのかい?」


 フードの少年が、他の不良達の間を分け入って、取り囲まれている少年の前に歩み出た。色白で貧弱そうな相手に不良が本気で脅える様は異様の一言だったが、周りにいる者達は、誰も疑問を抱いてはいないようだった。


「そ、そりゃ、ポリ公をブッ飛ばせるって聞いたときは、俺も最高だって思ったさ! けど……まさか、死んじまうなんて思わねぇだろ?」


 脅える声で、赤髪の少年がフードの少年に尋ねた。だが、返って来たのは冷たい微笑と、呆れるような溜息だけで。


「ああ、もういいよ。君は、僕達の同志としては不適格だ。今、この場で始末してあげるから、ありがたく思ってね」


 何の迷いも躊躇いもない、残酷な言葉が告げられた。俄かに周囲にいた少年達が騒ぎ出し、工場内が異様な熱気に包まれて行く。


「処刑だ! 処刑だぁっ!」


「裏切り者は、皆殺しだぁっ!!」


 獲物を掲げて叫ぶ少年達の瞳は、そのどれもが燐の燃えるような青白い色を宿していた。廃工場の闇の中、彼らの瞳の輝きは、まるで墓所を漂う人魂の如く。


「ひぃっ! た、助けてくれぇっ!!」


 このままでは殺される。赤髪の少年は、とうとう脇目も振らずに逃げ出した。が、周りを完全に包囲された状態では、それも敵わぬことだった。


「オラァッ! 逃げてんじゃねぇよ、腰ぬけが!」


「調子こいてんじゃねぇぞ! それとも、ビビって小便チビったのかよ!」


 瞬く間に組み伏せられ、殴られ、蹴られ、再び人の輪の中に引き摺り出された。髪が乱れ、切れた口元から血が流れ、バットで殴られた脚がおかしな方向に曲がっていた。


「……あ……あぁ……」


 もはや、自力で立つことさえもできず、赤髪の少年はその場に崩れ落ちた。そんな光景を見てもなお、フードの少年は口調だけでなく、口元に浮かべた笑みさえも変えることなく淡々と告げた。


「とりあえず、その辺で止めておこうか。こんな裏切り者でも、まだ役に立つことがあるからね」


 こちらに連れて来い。それだけ言って、フードの少年は赤髪の少年を廃工場の奥にある鉄柱の前に連行させた。既に抗う術も気力も失ったのか、赤髪の少年は顔を涙と鼻水で汚し、成されるがままとなっていた。


「さて、君も力を与えてあげよう。それも、ただの力じゃない。ここにいる誰よりも強く、誰よりも優れた、最高の力をね」


 赤髪の少年を鎖で柱に拘束させつつ、フードの少年は言い聞かせるようにして語る。いつしか、その手には廃工場の闇を静かに照らす、青白い光の塊が輝いていた。


「や……やめ……」


 赤髪の少年がもがくが、逃れる術など存在しない。解き放たれた青白い塊は四つ。それらは拘束された少年の口や鼻から滑り込むようにして、次々に彼の体内へと入り込んだ。


「……っ! おぐっ……! あがぁっ……!」


 瞬間、少年の身体が大きく震えたかと思うと、そのまま激しく嘔吐した。否、嘔吐したように見えただけで、実際には先の光と同じものが、彼の鼻と口、そして両目からも溢れ出していた。


「最初は苦しいかもしれないけど、直ぐに慣れるよ。まあ、そのときはもう、君は君でなくなっていると思うけど」


 無邪気な幼児のように、フードの少年は屈託もなく笑う。青白い燐光のような輝きが工場の壁を照らし、昼夜が逆転したかの如き錯覚に陥りそうになる。


 時間にして、数十分の出来事だった。赤髪の少年から溢れ出る光は、夕暮れ時の薄闇の中へと消えて行く。


 やがて、全てが闇に飲み込まれてしまうと、廃工場は元の静けさを取り戻していた。再び、それを破るようにして、獣の雄叫びの如き咆哮が轟いたが……それもまた、直ぐに漆黒の空へと昇り、誰に聞かれることもなく消え去ってしまった。


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