長かった初日
ソルの町、西区の中心部ワードナー村長宅、大きな二階建ての建物。
セインがここに到着したのは、夜の10時半、村長は独身で、自衛団長の家族とメイドのダスキンさんで暮らしている。
自衛団長の名はマクガイア、年配だが鍛え上げられた身体と鋭い眼光を持つ、かなり厳つい大男だ。
嫁のメアリーと長男のジョン、次男のジョンツー、犬のジョンスリーが家族で、村長宅の警護兼任でここに住んでいる。
セインが到着するとメイドのダスキンさんが、大広間に案内してくれ、食事を出してくれた。
村長は気を利かせて、セインが食事を済ませるまで別室で待ってくれ、大広間には今、セイン1人だけだ。
主食はパンらしく、塩味が程よくセインはかなり気に入った。
後は、怪しげな色の豆のスープと、妙に生臭い焼き魚、炭酸の抜けたコーラ味の飲み物がメニューだった。
空腹のセインにとっては、かなり美味しく頂けたようだ。
食べ終わるのを見計らった様に現れたダスキンさんが、食器を下げるのと入れ替わりに、ワードナー村長が部屋に入って来て向かいの椅子に座る。
「ご馳走様でした、今日は泊めて頂けるそうでありがとうございます」
「そうかしこまらなくても良い、すべては決まっていた事じゃ」
おかしな事を言う村長。
「決まっていた事?」
何をおっしゃっているんだ?と怪訝顏のセイン。
「まぁ、今は詳しくは言えんでな、すまん、時がきたら必ず説明するから、とにかく今は詮索しないでくれ」
もともとセインも転生の事とか、話せない事がたくさんある、余計な詮索はヤブヘビだろう。
あえて自分から話題を変える事にした。
「ところで、ギルドの受付ウーケさんに村長から私あての指名依頼があると伺いましたが…。」
「そうじゃった‼︎ 忘れるところじゃった、セイン殿はマウンテンワニを一人で倒すほどの凄腕、そこを見込んで探索してほしい魔物がおるんじゃ」
ありがちな展開ではある…。
「探索なら新参者の私より、ランクセカンドの赤斧アクスのパーティーの方が、確実なのではありませんか?」
セインは当然の疑問をぶつける。
しかし、村長の話ではセインの前に赤斧に指名依頼を出したが討伐失敗、村の唯一のランクファーストのパーティーは、遠方の依頼に出ていて不在、困り果てているらしい。
探索対象の魔物は、キャプテンゴブリン、単体ではマウンテンワニに劣るが、ゴブリンを従えた群れで襲ってくる為、危険度はマウンテンワニより高い。
最近よくソルの森にあらわれて、狩人や冒険者を襲うので、ウサギや猪などの狩りが出来ず、村では深刻な肉不足に陥っているとの事だ。
「お困りでしたら努力はしますが、群れとなると……」
不安げに答えるセイン。
「先ずはキャプテンゴブリンの、寝床を見つけて欲しいのじゃ、場所が分かれば自衛団に討伐させる、赤斧の様にパーティーメンバーだけで戦うのは無謀じゃ」
赤斧はパーティーメンバーだけで、群れに突っ込んで行ったらしい……、脳筋である。
セインは納得し、依頼を受ける事にした。
とりあえず明日は装備を整えよう、筋肉質な神から貰った10万コインと、マウンテンワニの代金でかなり良い装備が変えるかもしれない。
村長宅の一室を好きに使って良い、と言ってもらえたので家賃はかからない。
少し今後の計画を立て寝る事にした、長い転生初日であった。
人助けも、決闘もしたし、転生前の生活とは全然違うハードな一日だった。
しかし、一日中、寝間着という、ニートの変わらない格好で過ごした転生初日でもあった。