初戦闘
セインが意識を取り戻したのは、筋肉質な神の宣言通り森だった。
季節は秋、落葉のベットで寝転がりながらセインは考える。
今は朝だろうか?背の高い木々が多いわりには明るいな。
これからどうしよう、筋肉質な神は混沌なる地を幸福な混沌の地に変えろと言った。
混沌なままでいいのか?と疑問は残るが、どうやら力はくれたようだ。
神の使徒……になるのかな、今朝までは生きる希望を失った、言わば生ける屍。
今の状況が夢だとしても、筋肉質な神の使命を全力で全うするのも悪くない。
ふと、そう感じたセインはおもむろに立ち上がり、今朝着たままの寝間着に付いた落ち葉をはたく。
足元にあった巾着袋を拾い、何気に中を見ると1万コイン硬貨が10枚入っていた。
筋肉質な神がくれた軍資金だろう、ソルとか言う町に行ってとりあえずは着る物と食料、宿を確保しないと…。
転生前は、やる気が無かったセインが不思議と前向きな考えを持つ。
ソルの町は何方の方角だろうと見渡すと、坂を下った所に細い街道を見つける。
とりあえず道に出るかぁ、とセインが歩き始めると
「助けてくれ〜‼︎」
と突然大きな声、街道の方からだ、寝間着のセインは巾着袋しか持たない丸腰だ。
声の主が何かに襲われていても助ける事など出来まい、しかしセインは声の方に走った。
「どうしましたかぁー‼︎」
セインは大声で叫びながら街道まで一気に駆け下りる。
「マウンテンワニに襲われてる、助けてくれぇ〜‼︎」
確かに、40歳位の皮鎧を着た男が、ワニに追いかけられている。
「山にワニ⁉︎今はどうで良い、どうする?私は丸腰だ‼︎」
セインは叫ぶ。
「あんた何しに来たんだぁ〜‼︎、魔法とか使えないのかよ‼︎」
ワニに追いつかれそうな皮鎧男も叫ぶ。
「ライトニング‼︎」
セインは叫ぶが当然、魔法なんて出ない?‼︎、しかしマウンテンワニは一瞬ビビったのかビクッと動きが止まる。
でも、魔法がこないのが分かるとすぐ、再び皮鎧男に襲いかかる。
「やはり魔法は打てぬか、アッ‼︎遅延魔法使えるんだった、延っ?」
何故か疑問符で魔法を発動するセインだが、マウンテンワニはピシッと固まった。
「本当に効いたよ、おじさんっ今のうちに逃げて〜‼︎……って、おじさんも固まってる」
セインは急いで皮鎧男の所まで走る。
あくまでセインの魔法は遅延魔法、時間が止まるわけでは無い。
このままでは、ゆっくりと目の前でおじさんが食い殺されちまう。
焦るセインは、皮鎧男の肩をなんとか掴むと力の限りマウンテンワニの進行方向から引き離す。
間に合った〜、でも、遅延魔法って魔力切れでも解除されるだよな?早くワニをなんとかしないと…。
武器は?何か武器を見つけ無いと、皮鎧着てるぐらいだから、おじさん武器持ってるかも?
セインは皮鎧男を見る、セインに力任せにひっぱられた皮鎧男は地面に倒れ、それでも、ゆーっくりワニから逃げようとしている。
「おじさん借りるよっ」
セインは皮鎧男の腰に差していたロングソードを鞘から引き抜きマウンテンワニと対峙する。
「エイィ〜‼︎」
セインはマウンテンワニの顔にロングソードを振り下ろす。
カキーンッ、思いっきり弾かれる。
「駄目だぁ、勝てる気しないよ、こんなにゆっくりの奴に勝てない」
確かにマウンテンワニは分速1㎝も動けていない。
その時、ゆっくりワニの口が開く。
「口の中って、流石にワニでもやわらかいんじゃ無いかな?」
ゆっくり開いたワニの口にロングソードを差し込む、ずっとマウンテンワニの大きさを描写してこなかったが、全長1メートルほどの小ワニである。
プスッと刺さる手応えを感じたセインだか、そこから刺さらない。
それでも、ロングソードの持ち手を蹴りまくり、なんとかマウンテンワニを串刺しにした。
「普ッ」
セインは遅延魔法を解除する。
「うわぁーー!」
途端に暴れだすマウンテンワニ、慌てるセイン、⁇⁇な皮鎧男。
流石に強靭なマウンテンワニもロングソードが刺さった状態で暴れた為、次第に弱り、動かなくなった。
「ありがとう、助かったよ、俺はソルを拠点に冒険者をしているガイルだ、よろしく」
マウンテンワニが死んで安心したのか、皮鎧男がセインに自己紹介してくる。
さて、どうしよう?とりあえず助けてあげたけど、今のセインは寝間着を着た、丸腰の不審者だ。
愛想笑いを浮かべて、悩むセインであった。