長い夜
急いで鎧を身に付けると、私は枕元に置いた名剣ヤエガシを掴み小屋から出る。
マギーニャさんは杖を持ち右側、ラルラさんは両手持ちの大剣クレイモアを持ち左側、私の両どなりに待機した。
魔力結晶は半径1キロの魔物を感知する。
けたたましい音を立て、今も魔物の襲来を知らせ続けている。
まだ目視できる範囲にはいないはず、私はそう思いながらも辺りを注意深く観察する。
月明かりのおかげで、かなり遠くまで見えそうだ、暗闇の中で襲われる最悪の事態は免れた。
小屋の約半径10メートル四方は、私の膝下丈の草原、その先は密林、東側には今日歩いてきた細道が南北に草原を横切る形で続いている。
相手は魔物、細道を通ってくるとは限らない。
「セイン、西側の林がゆれてるわ」
マギーニャさんの声に、私とラルラさんも西側の林の方に向く。
ガサガサ、三人の視線の先の木々がゆれる。
「ゆれてる範囲が広すぎるます、風?では無いようですし、敵は1匹や2匹じゃ無いですよ」
ラルラが、クレイモアを正眼に構え直しながら判断する。
群れ?村長宅や冒険者ギルドで事前調査した限りでは、ソルの森において群れをなす魔物は2種類、コボルトとか言う犬と人間の合いの子みたいな小人。
あと1種類は、そう今回の探索対象であるゴブリンだ。
突然、林から錆びた片手剣と、おなじく錆びた片手斧をもった、身長140ぐらいの人型の魔物が、私達めがけて走り出してくる。
最初に反応できたのはラルラさんだ。
前に出て、大剣クレイモアの重さを活かした剣舞で、文字通り踊るように2匹の魔物の首を斬りとばす。
強い‼︎ ゆっくりだが無駄がなく、そのため隙もない、優雅ささえ感じる剣舞だった。
「ラルラさん、前に出過ぎないて‼︎ 」
私が声を掛けた刹那、林からから更に3匹の魔物が、ラルラさんめがけ襲いかかる‼︎
三匹のうち錆びた片手斧を持った2匹は、ラルラさんが流れるような剣筋で返り討ちにし、ラルラさんを背後から襲った錆びた片手剣を持つ魔物は、私が走り込んだ勢のまま首を斬り飛ばした。
……あれっ⁉︎切れてないな、しかし首の骨が折れたのか魔物は泡を吹いて悶死した。
やはり、人型の魔物を殺すと気が滅入るな…。
「ありがとうございます、セインさんっ」
こんな時でも、会心の笑顔で礼を言うラルラ。
セインに助けられるのが、そうとう嬉しいようだ……。
「まだまだ来るわよ、こんな時にデレるなラルラ‼︎ 」
マギーニャは怒りながらも、更に林から飛び出て来た2匹の魔物を、ストーンパレットの魔法で仕留める。
ストーンパレットは、こぶしくらいの石を魔力で具現化し、高速で敵を撃つ土属性の魔法である。
マギーニャは火属性が得意だが、林に燃え広がるのを考慮し、ストーンパレットを選択した。
セイン達は、一旦後退し体制を立て直した。
「ゴブリンは夜目がきくから、夜戦は不利ですね」
ラルラは林を睨みながら言う。
あれがゴブリンなのかぁ〜、今更ながら気付くセイン。
彼はいったい、今まで何を探索していたのだろうか?
「ゴブリンにしては、統制が取れすぎてるわ、奴がいるのかも?」
マギーニャが感想を漏らす。
奴って誰だよ???悩むセイン。
「そうですね、戦力を小出しにして此方の戦闘力を測ってるみたい……こんな知能があるのはキャプテンゴブリンしかいないでしょうね」
ラルラがマギーニャの考えに同意する。
あっ‼︎ 奴ってキャプテンゴブリンの事か、今更ながら納得する残念なセイン……。
「何匹いるか分からない、夜戦は不利、消耗戦になってる今の状況も不利……追い払うしかないよね」
なんとか、それらしい意見を言い、会話に参加出来たセイン。
「「 どうやって⁉︎」」
2人にハモられるセイン。
「やってみるさ」
と言い放ち、林に向かって走り出すセイン。
「延‼︎」
遅延魔法を発動、
「私にも撃てるはず‼︎ ストーンパレット‼︎」
何も根拠は無いが、なんとか土属性の魔法を発動するセイン。
がっしかし、当然のように小石が飛んでいく……彼は膨大な魔力を持ちながら何故?遅延魔法以外の魔法はショボイのか?
「計算済みさ、いけぇ〜‼︎ 新技ストーンパレット乱れ打ち‼︎」
何故に計算済みなのか……。
とにかく、セインは林めがけて、大量の小石を発射する。
林の中は、木に跳ね返り、小石が縦横無尽に飛び回る。
セインは情け容赦なく小石を発射し続ける……何千発、いや何万発も撃ち込む。
これだけの膨大な魔力を持ちながら、何故?どうして?デカイ魔法が撃てないのか……?
林はかなりの範囲、石垣の様に小石が積み重なっていった。
ゴブリンもかなりの数が生き埋めになったようだ。
「普」
満足したのか、遅延魔法を解除するセイン。
生き残ったゴブリン達は混乱し、統制が取れず我先にと森の奥に逃げ散る。
「セイン⁉︎何したの⁉︎どうやったらこんな事になるの……」
毎度の事ながら、呆然とするマギーニャ。
「えっ、セインさんが消えたと思ったら、次の瞬間、林めがけて両手から小石を噴水の様に発射してて、また消えて……えっ?えっ?、えっ???」
無茶苦茶混乱するラルラ。
その時、ガラガラと音を立てながら、セインの作った石垣の上に1匹の魔物が現れる。
ゴブリンに似ているが他の者より一回り大きく、ギラギラと輝く両目には何処か高い知性を感じさせる。
魔物の名はキャプテンゴブリン、悔しそうに暫くセインをにらんだ後、森の奥に去って行った。
探索対象と討伐者……2人の間に特別な運命を感じさせる対面だった……。
「何あいつ、なんか他のよりデカくない?」
「何言ってるのよ?あいつがキャプテンゴブリンよ‼︎」
今更ながら気付く残念なセインであった。




