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【物語】明里と隼士のおとぎばなし  作者: ヤマトミチカ
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【物語】白鬼夜光

 一話読み切りの現代童話です。

 隼士は街に近い山村に住む若者だ。


 彼は実家の農業を手伝いながら、絵を描いている。その絵は世間から『まるで現代に実存する様な、幻想的風景』と評される。


 ほんとは そうなのだが それはもう いわないことにしている。


 隼士は小さい頃から『何でもみえるし、きこえるし、はなせる』子供だった。

 代々の家系が、太古の巫覡の力を含む。彼はその歴代の中でもかなり『みえる』子だ。

 彼の父は『ちょっと霊感が強い』程度、母は村外から嫁いできた『ごく普通のおおらかな人』だ。

 隼士が生まれた頃から、『代々、家に使える』三羽烏や白狼が彼を可愛がり、彼もそれに喜んできた。


しかし、隼士が小学校に入る頃から『みえすぎる』故の難題にぶつかった。

「どれが、みんなにみえて、どれが、みえないか、わからない」


 六歳の隼士は山村の、春が近い野や田畑で『いろんなもの』と遊びながら首をかしげる。

「隼士。ひとまず、彗玲と烏と妖怪は見えないみたい」

 のんきに彗玲を撫でる彼に、幼なじみの明里は自信満々に教えた。

「妖怪は漫画の中にしかいない!と図書館で会った子が言っていた!」

「ということは……」隼士は「さわれるのに『いない』って事?」子供なりに、途方に暮れた顔を見せた。

 明里はそれに、腕組みをした。こういう時の隼士は、彼が思う以上に困っているからだ。少女はすぐに、隼士のばあちゃんに相談をした。

 ばあちゃんは小さな明里を撫でながら、頷き「よくわかったよ。わたしらで特訓じゃ」と、皺だらけの顔に微笑みを浮かべた。


 それからのばあちゃんと、じいちゃんは、暇を作っては隼士と明里の手を取り『これは、みえる』『これは、みえない』と、その名を教えるが如く、ひとつひとつ、精霊や植物、虹や日や空、物の怪を指し示しながら口伝していった。ふたりも巫覡の言うことを、子供なりに真剣に聴き、記憶していった。

 ふたりは大先輩のお陰で、大体の分類は付く様になり「またちょっとずつ、覚えればええよ」と、ばあちゃんから満面の笑みでお墨付きをもらった。


 小学校の入学式前日の夜。


 隼士は寝ていたが、真夜中にトイレに起きた。その途中、居間から母とばあちゃんの話し声が聞こえたので、ふすまの隙間からそっと、聞き耳を立てた。

「あの子が笑顔で、学校に行くことができれば、それだけで、ええのです」

 母のしんみりした話し声に、隼士は驚いた。彼が知っているのは、朗らかな母だけだったからだ。その母を、ばあちゃんが柔らかい声で励ましている。

 隼士は暗い廊下で静かに佇み、ちょっと目をこすった。

「ほれ。泣き虫、喰ってやるぞ」彼の肩に、そよ風の如くとまった千剣破が、そっとささやく。隼士も静かに、烏を抱きしめた。


 「いってきま~す」

 翌朝、隼士は笑顔でランドセルを背負い、両親と入学式へ出かけた。

 もちろん、三羽烏と白狼も三人の乗る車の後ろから悠々と付き添ったのは言うまでもないか。

 学校の校庭では、明里も新品の赤いランドセルを嬉しそうに背負い、隼士を見つけると飛び付いた。

「隼士!学校楽しいね!」

 幼なじみの天真爛漫な笑顔に、隼士はいろんなことを安心した。


 それから隼士と明里は、小学校でいろんな冒険をする。が、それはまた別の物語で。


 三羽烏、白狼と明里、まわりの皆のお陰で、隼士はのんきな青年になることができた。

 農作業の合間に山村の風景や、彗玲や三羽烏をモデルに絵を描く。

 彗玲の絵は人気だ。白狼の、光に乱反射する毛並みはとても美しい。『みたままを描く』のだが、隼士は、昼寝をして微動だにしない彗玲を、そっと撫でる様に、丁寧にキャンバスへ写し取っていく。時間はかかるが、そういう絵が彼もいちばん愉しい。


 八月上旬の夜。

 隼士は、彗玲に乗り宙で遊んでいた。

 「隼士。白鬼だ」

 彗玲がふと停まり、とある方向を向く。隼士もそちらを向くと、天の川方面に白光の粒子が集まり、水族館の鰯の群れの様に、絶えず変化するかたちをみつけた。

 「光?」

 「そう。我の大本」

 「彗玲は宙からきたのか」

 「そんなものだ」

 「群れに行かなくていいの?」

 「行ってみるか」

 彗玲はそう言うと同時に光速に転じ、隼士を白鬼大群の眼前に案内した。

 その大群は、ひとつの光の様で、龍や白狼、鬼の形、人のかたち、いろんないきものの形を一瞬表しながらもうねうねとうねり、変動している。それらが彗玲の毛並みのように白と虹色の乱反射で煌めいている。

「綺麗だなあ」

 隼士もその美しさにため息を漏らした。彗玲も口も少し広げて笑う。「光の雲、みたいなものか?他にもいろいろいるのだが」

「彗玲は群れに戻りたい?」

 隼士の素直な質問に、白狼は「お前といる方が愉しいからよ」笑って答える。「明里のおてんばも、見ていて飽きないしな」

 彼は白狼の背を撫でる。

「明里が早く『かふぇ』の『ぱてぃしえ』になり、旨い菓子を喰わせてくれればいい」甘い物に目がない彗玲は、真剣な顔で言う。

「なるほど。それは重要だ」隼士も腕組みして答える。

「今度、『ほっとけーき』を喰わせろ。『ほいっぷくりーむ』大盛りで。お前は『抹茶白玉あいす』を作ればいい」

「ええっ、みんなの分も合わせると……九名……」隼士が烏の分も数える。

「あと、ふたり、も加えてやれ。明里が喜ぶ」

「そうだな……ありがとう」隼士も微笑む。「盆休みは明里も帰るだろうし」

 隼士は白鬼の光溢れる渦を眺め、祖霊はどこから来るのかを、そっと思う。

「希人は、光と共に闇に浮く」彗玲は唄う。

「その行く末は誰が知るべし」隼士も応じる。


「迎え火は美しく焚こうぞ」

 彗玲は目を細め、再び光速と化し、隼士と共に家路についた。


(了)


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