【物語】暴風天女 Venus-Hurricane
一話読み切りの現代童話です。
碧い球体が大きな弧を描く眺めを舞台に天女は歌う。腰に手を当てて仁王立ちの様は勇ましきことよ。
眼下には巨大な台風。嗚呼、絶景かな絶景かな!
淡い羽衣をひらめかせ、笑む彼女は舞い散る桜の花びらが如くこころの向くまま、圧倒的なエネルギーを巡らせる巨大渦に突入した。
黒雲や幾重にも生まれる雷撃と遊ぶ。
荒れ狂う気圧と組んずほぐれつモッシュ・アンド・ダイブ!セットリストはお気に入りのエンドレスリピートだっ!!
彼女は黒髪乱れるのも構わずに超爆音ライブを心ゆくまで愉しむ。
そうしながら、巨大な塊のベクトルをほんのちょっとずらしてみる。
かなり暴れて歌いまくったので、天女は本当に気分が爽快になった。
「あれ?ローリングしすぎて……。どっちから来たっけな?」
彼女の黒く大きな瞳は渦の上、宇宙空間に向けられた。
勘でワープしたら、そこは月面だった。思わぬ事態にも天女の顔は輝く。
ふと、遠くに星の色に輝く龍が、糸の様にするり、とみえた。
目が覚めて、シャワーを浴びた明里は隼士に『ただいま!ありがとう♪』とメールした。
直ぐさま携帯に彼からの着信が入る。ひたすら平謝りの明里であったとさ。
めでたしめでたし。
(了)