【物語】星狩
一話読み切りの現代童話です。
銀河は元気な少年だ。
白狼を駆り、弓矢を使う。
「彗玲!いくぞ!」
彼は稲妻の性を持つ獣に跨り、天の川に挑む!
天の川には雪白のたくさんのカササギが羽ばたいている。一羽一羽が朧月の様にぼんやり輝いているものだから、それが群れなして連なる姿は、誠に霧中の大橋として壮観である。
今回の織姫と彦星の星合は、天の川の氾濫で遮られようとしていた。
銀河は白鳥の羽の矢を竹弓につがえ、静かにそれを引き絞り、放つ。
溢れ出る金銀の星たちを根気良く射止め、弾き飛ばすのだ。
星は銀河の矢により光を煌めかせ宙に四散していく。
年に一度の恋の行方を見守る周りのものたちは、天の川やカササギ大橋とともに、大花火の様に、しかし静かに七色に弾ける光の大群に歓声をあげた。
彗玲の跳ね回る背の上で、銀河は眼差しに黎明を湛え、星々をいよいよ澄み渡る光に変えていく。
こうして、天の川は穏やかさを取り戻した。
周りのものは静まり返り、カササギ大橋の中央で寄り添うふたりの仲睦まじい姿を優しく見守った。
銀河もその光景に微笑むと彗玲の耳を掻き、その活躍を労った。
彗玲は尻尾を振ると再び稲妻と化し、銀河と楽しい遊びに戻ることにした。銀河も笑う。
戻る途中、銀河は星を一掴みして愛しい者への髪飾りを作ることにした。
この光なら、あの美しい黒髪にさぞや似合うことだろう。彼は目を細め、その名を呟く。
「寝ぼけてないで、起きる起きる!」
元気な明里の声で、隼人は目を覚ました。
部屋の窓は開け放たれ、爽やかな朝の光と風が入り込んでいる。
「あ……そうか。今日は七夕祭りに行くんだっけ……」彼は思いつつ、左手を見た。
その手には色とりどりの金平糖と、小粒のエメラルドやサファイヤ、ダイヤモンドが握られていた。
寝ぼけ眼で黒髪をもしゃもしゃ掻きつつ、隼人は明里に「散歩してきたから」とそれらを手渡す。
明里はそれを両手に広げて目を細めひとしきり眺め、彼に微笑んだ。
「どんな散歩だったか聴きたいな。今日は私が運転する!隼人は寝てもいいよ!」
「いや、いい。お前が迷子になるとアンドロメダまで行ってしまうから」
彼は車のキーを持つと、明里の腕を引き寄せた。
(了)