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【物語】明里と隼士のおとぎばなし  作者: ヤマトミチカ
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【物語】狐の子

一話読み切りです。

【物語】狐の子


 隼士はとある街に近い山村に住む若者だ。

 田植えも終わった6月の雨の日のこと。彼は気晴らしに地元の城跡に行ってみた。


 地方の城跡ながら石垣は立派で、幕府直轄領の名残を感じさせる。

 舗装されてはいるが、山と一体となった昔の道を辿ると、薄暗い木々の中で自分もその面影と一体となれるような気分になる。

 自分は結局、樹が好きで大樹になりたいのだと彼は改めて自覚する。傘を差し、パラパラと鳴る雨音も愉しみつつ進む中、彼はふと後ろを振り向いた。


 狐と目が合ってしまった。


 その子狐は二足で立ち、赤いチョッキを着ている。

 こどもの絵本に出るような狐の子。


「なにか、用か?」

 その瞳が潤んでいるので、隼士は柔らかく声をかけた。

 狐の子は何も言わず、とある木の枝を指し示す。

 隼士が目をこらすと柿の実がひとつ、みえた。


おまえ、あの柿が食いたいのか?


 隼士は尋ねた。

 その子はやっと頷いた。

「ああ、ちょっと待て」隼士は雨の中、傘を畳んで地面に置き、濡れるのも構わず無為の位をとり、目を閉じた。

 黒い翼がたくさんはためき、地面から彼の身体をすり抜けて上昇する。

 浄い風が舞う。


 狐の子が目を丸くして、ひと瞬きする間に、隼士の手にはその柿の実が置かれていた。


ほら、食え。


 隼士は目を細めながら、それを狐の子にそっと差し出す。

 狐の子は、それをうまそうに食った。


おまえのうちに連れていこう。おいで。


 隼士は傘をさし、元来た道を歩き始めた。

 もう道に狐の子はいないが、隼士の右肩があったかいからそのまま進む。


 そうして近くの墓地に向かう。もう苔むして、誰の墓ともわからない小さな丸石の前で立ち止まり、彼は跪いた。


 涙が止まらない。

 隼士はひとしきり涙を流すと、自分の家に帰ることにした。

 彼の肩から、あったかさは消えていた。


 ああ、よばれたんだな。

 

 隼士は城跡のある山を眺める。

 明里と話したくなった彼は、携帯で彼女に『元気?』とメールをした。


 雨は静かに降り続ける。


(了)



http://koebu.com/topic/【物語】狐の子

『こえ部』

https://note.mu/ururiharuka/n/n3923f22ee7e8

『note ウルリハルカ』


に今作の朗読をアップしております。世界観が伝われば幸いです。

 ありがとうございます。

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