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【物語】明里と隼士のおとぎばなし  作者: ヤマトミチカ
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【物語】明里と隼士のおとぎばなし~恋人もサンタクロース~

 一話読みきりの現代童話です。

 これは、ほんのちょっと昔のこと。

 クリスマスデコレーションケーキと言えば、バタークリームケーキだった頃のおはなし。


 町に近い山村。その春の竹林で、悟士と弟の崇士はタケノコ掘りをしておった。うららかな陽気の中、二十代の彼らは意気揚々と鍬をふるう。その近くに腰掛けた悟士の妻、桃子は赤子を背負い、摘みとった山菜をのんびりと、より分けておった。


 その時、銀色の丸い光がみんなの前にふんわりっどっこい、チカチカグルグルしながら竹林に降りてきたではないか。


 巫覡である悟士と崇士もさすがに目を丸くする中、ジャングルジム位の大きさの玉が、パカっと開いた。


 そこから出てきたのは、紅白の……奇妙な衣装を纏った黒髪の若い女性だった。


「サンタさんみたいだわ……!」町から村に嫁ぎ男の子を産んだ桃子は、その姿に瞳を輝かせた。そうして、桃子は凡人ながら臆することなく、可愛らしくも困り果てた様子のサンタクロースに歩み寄り、彼女の手を取った。

「何か、手伝えることはあるかしら?」



 あれから年月は過ぎ、クリスマスも終わった十二月下旬の夜。

「集~合~!」

 ここは、街に近い山村。

 人間と妖たちは隼士母の呼び声を受け、ぞろぞろと座敷に登場してきた。今回はみんなで隼士宅を大掃除していたのだ。

 そのメンバーは隼士と明里、隼士母の桃子、隼士父の悟士、じいちゃんとばあちゃん、それに守神白狼の彗玲と、同じく守神である烏の千剣破・千歳・千茅。加えておたまじゃくしのタマ、古狸の作兵衛、猫又の喜八。今秋、ハロウィンに参加した狐の金雀児エニシダは『師走の狐蕎麦連合会』に出かけて不在だ。


 そんな総勢十三名が、みっつ繋げた平卓に輪座し、卓上コンロでぐつぐつと良い匂いをさせるちゃんこ鍋や、ずらりと並べられた大皿料理たちに手を叩く。


 桃子は赤いエプロン姿でにこやかに「みなさん、お掃除ありがとうございました。お陰できれいになりました」熱々の鶏唐揚げを超激盛りで運んできた。「待ってましたっ!桃ピー!」狸の作兵衛が鼻息も荒くガッツポーズをする。みんなも歓声を上げ、場は騒がしさを増した。

「これで明後日の餅つきも滞りなく、行える」豊櫛原家の長、小柄ながらもがっしりした鷹幸じいちゃんが白い太眉を下げ、あぐら姿でゆったりと挨拶を始めた。みんなは静かになり、じいちゃんの話に耳を傾ける。「久しぶりに明里も帰って賑やかだ。明里よ、街でがんばってケーキをたくさん作ったの。崇士とチカも喜んどるじゃろ」

 明里は「うん」と頬を染める。「クリスマスはみんなにケーキを渡そうと思っていたんだけど……」

「いいのっ!明里はのんびりして!」喜八とタマが朗らかに割って入る。「ケーキ屋さんの明里みたいにはできないけどさ、うちらでクレープをたっくさん焼いたよ!みんなでくるくる巻いて食べようよ!」「いつもありがとう!だいすき!」

 ばあちゃんのサエも、顔を綻ばせる明里に頷き「隼士も嬉しかろう?」二十歳の孫を横目でにんまりと見た。

 隼士も白狼を撫で「はい、おっしゃるとおりでございます」と、のんびり返す。

「では、みんなお疲れ様!かんぱーい!」立ち上がった悟士の合図で、宴会は開始された。

 相撲部屋並みに用意された大鍋ちゃんこや大量の料理を、物の怪たちはガッツガツと『吸収』していく。

「桃ピー!おいしいよ!肉もしいたけも、最高だ!」作兵衛が箸を動かす手を止めずに嬉しい悲鳴を上げる。

「こら!作兵衛、彗玲!みんなの分も考えながら食え!」三羽烏が暴食の妖達にギャアギャア喚く。しかし、彼らも食べる速度を落としはしない!負けないのだっ!

 そんな中、クレープを頬張るおたまじゃくしのタマが、近くに座す明里に尋ねる。「崇士とチカって?」

 明里は「私のお父さんと、お母さん」と微笑む。「お母さんは宇宙から来たサンタクロースなの」

「ええっ!?ロックだぜ……!」タマは目を丸くし「その話、聞きたいっ」彼女の膝に飛び乗った。

 狸の作兵衛がその会話に気が付き「千剣破よ。主が話すといい」守神に声をかけた。

「チカは村に漂着した時『宇宙船のメルヘンエンジンが故障して、帰れない』と泣いておった」烏が目を細める。

「その迷子のチカに、崇士が一目惚れしてな」千歳が破顔し、小躍りする。「チカと祝言を挙げ、生まれたのが明里ぞ」

 タマが「そのふたりは今、どこにいるの?」と、周りを見渡す。

「チカと崇士は宇宙にいる」隼士の頭に乗った千茅が「隼士が十二の時だ。ふたりは直った宇宙船で『世界にメルヘンを配る旅』に出かけていった」隼士の隣にいる明里を見下ろす。

 タマが「明里はどうして一緒に行かなかったの?」彼女にやわらかく抱かれながら首を傾げる。

「隼士が、明里を引き留めた」彗玲が珍しく真面目な表情で、唐揚げを飲み込みながら言った。

「『明里をとらないで』って、崇ちゃんとチカちゃんにすがりついたのよね」

 みんなに海苔巻きを配りに来た桃子が、そっと会話に入り込む。「明里ちゃんも隼士と抱き合って、わんわん泣くから、もう……。みんなでたくさん話し合って、明里ちゃんは残った。隼士は約束通りに、ね」母はふたりの子に笑みを向けた。

「私はとっても、しあわせ」明里は桃子から海苔巻きを受け取り、隼士に微笑む。

「お菓子のコックさんになって、家族が作った野菜やお米でお菓子を作る。それをみんなが食べてくれる。夢が叶ったわ」そう話す彼女の目が潤み出す。隼士もほんのちょっと心の奥を滲ませた。「会いたくなったら俺と彗玲で、いつでも宇宙船へ連れていく。明里だけでは迷子になるから」

「隼士!宇宙にワープできるの!?オイラも行きたい!」おたまじゃくしが飛び跳ね出す。

「おお、うちも久しぶりにチカに会いたいもんじゃ。のう、作兵衛?」猫又の提案に、古狸も手を挙げた。「喜八!いい案じゃ。儂も崇士と踊りたい。隼士、頼む!」

 

 物の怪達に囲まれた隼士は彗玲と顔を合わせ、頷き、明里の顔を覗き込む。「みんなで行くのも楽しそう。いい?」

「みんな、ありがとう!お父さんとお母さんに会いに行く!そして、また戻ってくる!」

 笑顔で万歳する明里を、みんなが拍手で包んだ。

 そんな賑やかな様子を、鷹幸は顔の皺を増やし見守り、共白髪の妻と、静かに酒を酌み交わした。


「では、いってきます」

 宴会の片付けを終えた家族らは玄関前に並び、明里と隼士と妖達の『ドライブ一行』を見送る。

 きらきら星に転じたこどもらはのびのびと天へ上昇し、あっという間に見えなくなった。


「明里は『ホームシック』にならんとええが……」悟士が腕組みをする。それに対し桃子は「あら、大丈夫よ」不敵な笑みを浮かべた。「隼士が絶対に明里ちゃんを離さないわ」

「そうか」互いに四十路の夫婦は、ため息ともつかない笑みを交わす。「うちの子がいちばん!根性のあるわがまま、だな」「のんきに見えて、ね」



 月のうさぎも照れ笑う、あたたかい夜。

 よっこい、ふんわり、きらきら らん♪

 



(了)


 拙作をご覧くださりありがとうございます。



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