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【物語】明里と隼士のおとぎばなし  作者: ヤマトミチカ
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【物語】おたまじゃくしと蛍池

一話読み切りです。

 仕事の帰りに、おたまじゃくしから声をかけられた。


「お願いだ。蛍池まで送ってほしいんだ」

 ドラッグストア横の田んぼからジャンプして、私に駆けてきた彼は丸い顔をシリアスにして言ってきた。

 蛍池はここからなら車で国道沿いを行けば1時間ほどで行ける。

「いいわよ」と私はおたまじゃくしを助手席に乗せると、久しぶりのドライブにウキウキした。

 夜の田舎の国道は、車もまばらだ。私のかわいい赤い車は古いタイプなので、キーを差し込んでエンジンスタート。BGMのボリュームを10から15に上げ、窓を全開にして走り出す。

 「風が気持ちいいね~!」と、おたまじゃくしも爆音リズムにスイングしながらニコニコしている。私は「あ。君は風を当てると乾燥しちゃう?」と運転しながら横目で尋ねた。

「へっちゃらだよ。陸にいる時点で問題ナッシング」彼は本当におかしそうに笑った。

 私も安心し、おたまじゃくしに構わず音楽に合わせて大声で熱唱する。おたまじゃくしはそんな私を笑ったり、時々ちらりと見える遠くの夜景を眺め、バッグの中のお菓子を勝手に食べてのんびりしている。

 やがて国道から、蛍池のある村に向かう山道に入る。道に外灯はほぼ無い。深い木々に覆われた冥道は車のライトだけが頼り。私は身体が覚えたレコードラインを元に車を走らせる。

 「あ、今瓜坊がいたよ!」おたまじゃくしが林のそばにいたイノシシの親子に気が付いて大はしゃぎだ。私も笑い、そのまま突き進む。

 村の家屋が立ち並ぶ脇道を通りすぎ、目的地に付いた。近くに車を停め、おたまじゃくしと歩いて蛍池を目指す。


 池にはちょうど、蛍たちが青白い光をぽつ、ぽつ、とゆったりと瞬かせ、思い思いに舞っていた。毎年眺めるが、何回見てもこの光景にはうっとりとする。

 目を輝かせたおたまじゃくしは「ありがとう。とても来たかった場所なんだ。ここで暮らすよ」私に満面の笑みを見せ、そのまま池に飛び込んでいった。彼は2,3回ほど小さく水面から跳ねると後は水面の下に消えていった。


 「明里、ひさしぶり」その声に振り向くと、村に住み続ける隼士がいた。

 彼は「聞き慣れたエンジン音とBGMとお前の歌声が聞こえたら来てしまった」と星夜の明るさでもわかる笑みを見せた。

「今日は新しい住人を連れてきたの」私も笑った。彼は蛍池の方を向き、しばらく青白い光と虫の声にこころを向けていた。が、懐中電灯を点し「冷えてくるから戻ろう」と先に車の方へ歩き出した。私もその後を付いていく。

「家には?」彼の問いに私は「明日は早番なの。家に帰るとホームシックになるからこのまま街に戻る。来週は帰省する」と答えた。それに頷いた彼は「ホームシック結構。いつでも戻っておいで」と穏やかに言い、またね、と軽バンで帰っていった。

 私も愛車に乗り、BGMのボリュームを10に戻す。

 山の清らかな風を感じながら、愛車と共に街への道を降っていった。


(了)


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