夢を見たその後で 2話 「手紙」 その2
「結構遅い時間になってもたなぁ」
「そうやね、そろそろ帰ろうか?」
「もう十分羊は満喫したしそろそろ閉園の時間やからね」
「いまからどうする?」
「祐希は向こうに戻るんやったら時間そろそろヤバいんとちがう?」
「明日も休みとってるから今日は何時になっても大丈夫やで」
「それなら、もう少し車で走ろか?」
1時間ほど車を走らせて夜景で有名な山に到着した。明日も休みを取ってあるので疲れたら適当にホテルに泊まればいいだろう。
まぁ、大人の恋愛ってそんなもんだ。
「夜景なんか見に行くのって久しぶりやなぁ」
「付き合いだした頃はよく来てたけど、祐希が転勤してからはなかなか時間がなかったもんね」
「確かにそうやなぁ。ほんまはもっと時間を作りたいんやけど、自分の店をほったらかす訳にもいかんし、仕事辞めて実家に帰るのもしんどい事から逃げるみたいで癪に障るしなぁ」
「仕事やっぱりしんどい?」
「ただ単にパン焼くだけなら 何もしんどい事はないけど、俺以外みんな女の子やからやりにくいわ。俺から見たら”どうでもいいやん!”って事でもめるし、学生連中はすぐに休むだの帰るだのやる気ないしな」
「学生は生活がかかってない子が多いから、どうしても”遊ぶための小遣い稼ぎ”の感覚なんやね」
「そう、実際に小遣い稼ぎに来てる奴に店長と同じレベルを求めるのが間違ってるんは解ってるけど。正直、そういうのを見るのもうんざりしてるわ」
「......そう言って実は、お気に入りの子でもいるんとちゃうの?」
「よくやってくれる子もいるけど、その子の事を好きとかそんな感覚で見た事ないなぁ。まぁ、かわいいし気も利くから彼氏くらいはいるやろうし、いなくても言い寄ってくる男はいるやろうけどな」
「ちょっと、その子誰なん?祐希がそこまで褒めるのって怪しいわぁ!」
「そんなムキになるなって、そうじゃなくても普段から店で女同士のバトルに頭を痛めてるのに」
「わかった.....でも、祐希って自分でも知らない間に女の子から誤解を受けてること多いと思うで」
「どういうこと?」
「簡単に言えば、その気がないんなら優しくしないほうがいいって事」
「そんな、少なくとも店では誰かを特別扱いしてる気はないぞ。よくやってくれる子には素直によくやってるって言ってるだけやし」
「もし、その子が祐希の気を引くためによくやっているんやとしたら?」
「まさか!!んなこたぁないでしょ。みんな、俺が女いるって知ってるのに」
「女って祐希が考えてる以上に怖い生き物やで。かわいい顔して普通に男奪い取るもんやねん」
「わかった、俺も気をつけるわ」
「わかったらよろしい!!」
「人間関係って難しいなぁ......」
「ふふっ」
「せっかくここまで来たんやから、夜景見ようや」
「それもそうやね。こんなに綺麗な夜景見るんも久しぶりやもんね」
転勤で地元を離れて3年。はじめは嫌な事の連続だったがいろんな経験をして、俺も大人になったもんだなと思うようになってきた。
実際、もう30歳も目前になりそろそろ自分の力で生きたいと思うようになってきた。
自分の力で自分の道を歩く。そこには出来るなら はるかが一緒にいてほしいと思う。
付き合って5年、もう十分お互いの事はわかっているし年齢的にもそろそろ頃合じゃないだろうか?
だから今、心の中に思ってる一つの事をはるかに伝えようと思う。