夢を見たその後で 2話 「手紙」 その1
第2話 手紙
休みを利用して地元に帰ってきた。
今の彼女に会いに帰ってきたのだ。
転勤で離れ離れになってる上に仕事柄平日しか休みが取れないから、仕方のない事なんだが彼女とはなかなか会えないのだ。
........10年前に何が起ころうとも、今は今なりの生活があり、そして今の彼女にとってみればそんな事は全く関係のない事。
ただ、10年経った今も全てに納得した訳ではない。
大人になるための課題を渡されたまま、これが正解だという答えは10年経った今も見つかっていない。そんな感じだ。
しかし、少なくとも今は、今の彼女のことを一番大事に想っているし、そろそろ真面目に結婚も考えている。
俺は俺なりに成長し大人になって、そして今があると思っている。
あの頃ままではなり得なかった自分になっていると思っているし、これで良かったと思っている。
いつもの公園についた。
5年前から待ち合わせはいつもここだから時間だけを決めてここでいつも待つ事にしている。
彼女はいつも10分くらい遅れてやってくる。
付き合って5年になる彼女。
藤本 はるか
俺より4つ年下の24歳。付き合いだした頃はまだ短大生で、子供だなと思う言動が多々あったが今ではもう年齢差は全然感じなくなってきた。
最近では俺なんかより大人だと思う時もあるし、実際周りの人からも頼られる事も多いみたいだ。
ただ、本当は気弱な所があったり面倒見のよい自分を作っているような所があって、周りが思っている自分とのギャップに少し苛立ってる時もあるように見える。
彼氏としてはそんな彼女をなるだけわかっていてあげたいし支えてあげたい。
実際のところはそう大した事は何一つしてあげられていないけど、それでもそう想う事が大事なような気がする。
約束の時間を10分ほど過ぎていつも通り彼女がやってきた。
「ごめーん!!待たせた?」
「いや、大丈夫やで」
「祐希は今日行きたい所とかある? ないなら田舎のほうに行ってみよか?」
「そうやなぁ、なら今日は静かな所にでも行ってのんびり過ごそか」
天気のいい日に田舎道を車でゆっくりと走り続けるのは気持ちがいいもんだ。
若い時ならひたすらに早く飛ばしまわっていたもんだがこの歳にもなるとさすがにそんなことはする気にはなれないよなぁ。
見渡す限りの田んぼ。そして、木々や菜の花のにおい。田舎独特のにおいがなぜか懐かしく感じる。
眼下には清流のせせらぎが聞こえてきそうだ。
数10kmしか走っていないのに同じ日本だとは思えない風景だ。
心安らぐ風景だがここに住むとなれば大変なんだろうな.......。
「こういう所がいいなと思えるようになってきたらもう歳かもしれんなぁ」
「でも、祐希は前から人の多いところよりは静かな所のほうが好きやったやん。まぁ私も人の多い所は人間に酔うから大阪よりはこっちの方が好きねんけどなぁ」
「まぁ、住むとなれば大阪になるやろうけどな。いや、俺はやっぱり都会は嫌やなぁ。神戸でも限界やな」
「祐希らしいね。祐希ならそう言うと思った」
山頂の牧場に着いた。
「さて、と。ご到着~!!」
「おなかがすいたから、とりあえずご飯でも食べへん?」
「そうやな、じゃぁ、適当に座れる所を探しますか」
木陰になっている場所を探しビニールシートを広げて来るときに買ってきたお弁当を広げた。
こういう時は彼女がお弁当を作ってくる......っていうのが王道パターンなんだが、残念ながら付き合って5年はるかのお弁当なるものを食べたことがない。
少し寂しいと思うこともなくはないが、お弁当とか、お菓子とかで男の気を引くという小細工は出来ないししたくない性格なのだ。
いや、単に料理が苦手なのだが.....。
俺は、一人暮らし暦が長いので「それなり」の事はこなすけど最近の女の子は俺よりも料理が出来ない事が多い。親は何を教えているんだ!?
何だかんだで料理の出来る女に男は弱いので、やっておいて損はないと思うのだがねぇ。
男で言うなら仕事の出来ない男よりも当然出来るほうが女にモテるという理屈と同じことだと思うし、仕事も出来ない男に女は寄ってこない。
まぁ、今はどうでもいい話か。
「羊がこっち来よるー」
「俺らのメシでも狙っとんかなぁ?」
「羊って草食やん!!」
「確かにそうやなぁ.....。じゃぁ、何を狙うとるねん」
「.......この紙かな??」
「..............」
「..............」
「.......あり得る」
「わわわわわっっ!!!!」
「こいつら一斉に包装紙に群がってきた!!はるか、早く隠せ!」
「今度は、祐希のパンフレットに群がってきたで!!早くしまって」
「.............」
「.............」
「とりあえずやりすごしたなぁ」
「ご飯食べるだけでこんなに苦労するとは、でもなんかあいつら残念そうな顔してたよなぁ」
「言えてる」
「............」
「............」
昼ごはんも食べ終わり少し散歩していたら、バーベキューをしているカップルやら親子連れがたくさんいた。
「あそこでバーベキューしてる」
「あっちでもやっとるで」
「ほんまやぁ」
「それにしても、信じられんよなぁ?こんなんゆうたら偽善者みたいやけど羊や牛とたわむれとる横で焼肉やらジンギスカンを食べるなんか俺にはようせんわぁ」
「わたしも無理やな。結局家に帰ったら食べるから一緒やねんけど、ここでは食べたくないなぁ」
「ちょっと移動しますか?」
「賛成~」