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夢を見たその後で 1話 「日常」 その5

「ぐずっ.......ひっく.....」

「ママぁー......どこいったのぉ??」

「マぁマぁー!」

俺のいる場所から少し離れた所で迷子になった男の子が泣いている。

「どうしたの?」

「ママとはぐれちゃったの?」

その男の子に女の人が優しく話しかていた。


よくある事である。

いつもなら、その女の人に「どうかされましたか?」とでも声をかけて、それから男の子をインフォメーションに連れて行って店内放送で保護者を呼び出してもらって終わる事。



.........のはずなんだが。


男の子に声をかけていた女の人。

ひどく懐かしい光景......。

学生時代、迷子になった子供を見かけると声をかけていた、とある女の子の姿とダブる。


その女の子とは10年前に別れた昔の恋人の事だ。

当然、ここにいるはずがないと思っていたその人が何故かここにいる。


見間違いかとも思った。

あれからもう10年も経っている。

時間的な事だけじゃなく

当然、住んでいる場所も当時とは全然違う。

物理的に普通に考えても、もう2度と会う事はないと思っていた。

というか偶然どこかで見かけたとしても

もう、今は当然のように忘れてしまっているものだと思っていた。


実際、当然のように忘れていた.....。

ただ、この目の前の光景を見るまでは。

声をかけるべきかと考えていたら、向こうから声をかけてきた。


「すみません...」

「はい」


「男の子が迷子になったみたいなんでインフォメーションに連れて行ってあげたいんですが、どこにあるか教えて頂けませんか?」


「............」


彼女は、俺の事を忘れてしまってるみたいだ。

まぁ、当然の事だろう。

実際、俺自身も今さっきまで当然のように忘れていたんだから。

むしろ、このまま忘れていて欲しい。

俺自身、若かった時の思い出にしてしまいたい。


このままインフォメーションまでこの男の子を連れて行って、そしてもう2度と会う事はないだろう.....。


「わかりました。インフォメーションまでは私が連れて行きますので、大丈夫ですよ」


 無難にそう答えて男の子に「お兄さんと一緒にママを探しに行こうねー」

と、男の子の手を引いた。

「............」

「............」


これで終わるはずだった。

心のどこかでは何か期待はしているのかもしれないが、今さらどうこうとは思わない。

だが、運命というモノはそう簡単に切り離せないものだと思わずにはいられない出来事が起きるのだ。


 

今から起きるいくつかの出来事は誰にでも起こりえる事だし、実際誰に起こっても不思議ではないと俺は思う。


ただ、みんな気が付かないまま通り過ぎていってるだけなのかもしれない。



「おねえさんも一緒に来て!」

男の子が突然言い出した。

頼むから俺をこの場所から離れさせてくれよ...。

「お客様にご迷惑をお掛けする訳にはいきませんので........。

男の子やもんな、お兄さんと2人で大丈夫だね?」

「いやだぁー、お姉さんも一緒に来て欲しいぃ」

駄々をこねだした.....。


「私なら構いませんよ。その子もこう言っている訳ですし、私もインフォメーションまで付いていきますよ」

「わかりました。おねがいします」

そう答えるのが精一杯だった。

........そうしてインフォメーションまでやってきた。



「たっくん!!探したのよ!」

「ありがとうございます」

「たっくんも、お兄さんとお姉さんにありがとうを言いなさいね」

「おにいさん、おねえさんありがとう!!」

「それじゃあ、ばいばい」


「本当にありがとうございます。それでは失礼しますね」

受付で店内放送をしてもらい、すぐに母親らしき人がインフォメーションまでやってきた。

男の子、たっくんはお母さんと手をつないでもう一方の手でこちらに向かって大きく手を振りながら帰っていった。


やがて、その姿も見えなくなったので俺もそろそろ仕事場に戻ることにした。


「それでは、私も仕事に戻りますので失礼します」

彼女は何か言いたげだったが俺はあえて気にせずに仕事場に戻っていった。


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