夢を見たその後で 最終話 「夢を見たその後で....」その1
俺はある日の夢を見ていた......。
それは遠い昔の出来事だったような気もするし
つい最近の出来事だったような気がする.........。
美香との別れの日の事.....
現実とは少し違う夢を見た......。
6月のある日の事....。
美香は深々と一礼して.....
そして....まっすぐに俺の方を見て話し始めた....。
「松本祐希さんへ......伝えたい事があります」
「祐ちゃんは何をする為に生まれてきたと思いますか?」
黙っている俺に美香が突然 聞いてきた
「..............................!?」
俺には美香の言ってる事の意味がわからなかった。
「人は、何かするべき事があって生まれてきたのだと信じたい.......。
そして、私が生まれてきた理由は....
祐ちゃん、あなたに出会う為だと思います....」
「だったら......!!!」
「でもね、私が生まれてきた理由はそれだけじゃないって
最近わかったような気がするの」
「えっ!?」
「私が生まれてきたもう一つの理由.......」
何か嫌な予感がする。美香の口からこの先の言葉を聞くのは正直......怖い。
そんなにあらたまって.....。
美香は俺に何を言おうとしてるんだ?
たのむ、その先は言わないでくれ!!
「私が生まれてきたもう一つの理由.......それは出会いがあれば.....必ず別れが.....あるって事を伝える為。きっとそんな気がします.......」
「人は生きていたらいつか別れの時が来るの!
どんなに辛くても避けられない事なの!!
私に言われなくても、祐ちゃんにはわかっているハズだから.....。」
「いつか乗り越えなければいけない事だから!
どんなに私が祐ちゃんの事を愛していても.......
私は祐ちゃんの横にはいられない.......」
俺には何も言い返す事が出来なかった。
全ての理由を知ってしまってるから.......。
美香はこの頃には自分が長くは生きられないと知っていたのだ!
何も知らなかった10年前なら言い返しただろう。
だが、あの時の俺なら彼女の言っている事の10分の1も理解していなかった。
だから、別れたくないと必死になって
「そんな事ない!!」なんて弁明したのだろうが、 全てを知ってしまっている今 とても言葉なんて出てこない。
「別れが.......必ず......?」
頭の中が真っ白になってわかっているハズの事を思わずつぶやいていた。
「そう、”別れる”の本当の意味を祐ちゃんに伝える為 私は今ここにいるの...........。
別れって悲しい事.......寂しい事........。
でも、本当の”さよなら”が出来たら必ずよかったって思える日が来ると.........信じてます」
俺は美香の言っている一語一句を聞き逃さないように静かに目を閉じた。
「私、祐ちゃんに出会えて本当に良かったって思います。
初めて好きになった人があなたで本当に良かったって思います。
だから、本当にあなたと出会うために生まれてきたんだなって
思っているのはホントの事です。
だから、そんな祐ちゃんには心から幸せになって欲しい!!」
「...........................」
10年前と違う理由で泣いている自分がいる。
正直、あの頃は「奇麗事を並べやがって」と思っていた。
正直、「自分だけで勝手に答えを出しやがって」
と思っていた。
でも、それは間違いだという事に改めて気が付いた
美香は俺の事をそこまで想っていてくれていたのか!!
しかし、運命とは皮肉なもので.......そこまで想ってくれている人とは一緒にはなれないように出来ているのかもしれない。
未来がないから別れるんじゃない!
本当に愛しているから別れるんだ!!
夢の中の俺は返事をする代わりに美香をおもいっきり抱きしめた。
全てを知ってしまっても.....いや、全てを知ってしまっているからこそ
本当は最後の最後まで美香のそばにいてやりたい。
きっと美香もそれを望んでるものと思っていたから全てを話して繋ぎ止めようと思っていた。
でも、夢の中で俺に語りかけてくる美香は......そんな俺の姿を望んではいなかった。
さよならから生まれてくるモノもあるのだと思う。
どうあがいても美香との未来はやっぱりこの結末以外はあり得ないのかもしれないが、これでいいのかもしれない。
「祐ちゃんが生まれてきた理由は、さよならから生まれてくるものもあるのだと気付かせてくれた事......。
さよならは悲しいだけじゃない。切ないだけじゃない。そう気付かせてくれた」
「..........................」
「美香.......」
腕の中にいる美香に話しかけた。
「お母さんから聞いたかもしれないけど.....俺は美香の体がどんな状態なんかを知ってしまってるねん。それでも、俺は美香の隣にいてやりたいと思ってここに来たねん」
美香は 少し驚いた顔をしたが、少し間をおいて
「好きになった人が本当に祐ちゃんでよかった........」
と言って大粒の涙をこぼした。
「祐ちゃん?私の体の事をわかっててそこまで言ってくれるのは嬉しいけど、でも..........やっぱりここで.........さよならしよ?
もし、祐ちゃんじゃなかったら最期まで側にいてほしかったかもしれない。
でも、やっぱり祐ちゃんの生まれてきた理由は.......
私にさよならの意味を教えてくれる事......
そして、やっぱり私の役目はそんな祐ちゃんと
きちんとさよならする事なんじゃないかな?」
そう言ってそっと俺の体から離した。
「.................................」
俺は、美香の体が離れてしまう前にどうしても伝えておきたい事がある...........
「ただひとつ言わせて欲しい!!
俺は......美香の事を心の底から尊敬する。
そして、そんな女と過ごせた時間を一生忘れない。
絶対に..............」
「私も忘れない.........だから最後まで笑っていたいな」
「うん、そうやな」
2人は体を離して................。
手と手を差し出した。
「それじゃ.........これで......さよならやな」
「うん............今度どこかで出会えた時はお互い幸せでいようね」
「大丈夫!それはうけあうから」
そういって握手をした...............。
お互い背を向けた。
そして、ゆっくりと歩き出した。
決して振り返らない。
決して後悔しない。
これが、2人にとって一番いい選択なのだと信じたいから。
2人は別々の道へゆっくりと歩き出す.........。
夢の中の2人はもうすぐ夜明けを迎える.....。
夜明け前は一番闇が深いが
その闇の向こうには
明るい未来が待ってると信じたい
この先、いなくなってしまう美香の元にも
あかるい光がどうか届きますように......。
そして、朝を迎えた......。




