夢を見たその後で 4話 「10年も前に......」 その3
美香との別れ際に感じた「いやな予感」は
後日、最悪の形で的中する事になった....。
それから、1ヶ月ほど過ぎたある日の事
pipipipipi......
pipipipipi......
pipipipipi......
朝から電話が鳴っている。
休みの日ぐらいはゆっくり寝させて欲しいものだ。
休みの日にかかってくる電話なんて大抵ロクなもんじゃない。
どうせ”○○さんが出られなくなったからどうしよう?”とか”苦情処理をお願いします”とかそんな類の事だろう。
ロクなもんじゃないと分かっているんだから出たくもないものだ。
また、後でかけ直すから今は無視しておこう。
pipipipipi..........
pipipipipi..........
また、電話だ........。
もういい加減にしてくれ!!
「...............」
これ以上無視するわけにもいかないので、仕方なく携帯に手を伸ばす。
どうせ、店からの電話なのだろう。
「もしもし?今度は何をトラぶったん!?」
「..........えっ...?」
「もしもし?」
店からにしては何かが違うと思ったのだが、電話の相手は俺が考えていたよりも遥かに予想外の人からだった。
「すみません。...松本 祐希さんでしょうか?」
「はい.....そうですがどちら様でしょうか?」
「突然のお電話すみません。私、田村と申します。美香の母です。お久しぶりです.......」
「えっっ!?......こちらこそお久しぶりです。今日は どうされたのですか?」
「娘の美香が1週間前に再入院しまして....。多分、もう長くは持たない状態なんです」
「.....................!!!」
「えっ!?......どういう事なんですか?」
「娘から何も聞いていませんでしたか?......美香は.......10年くらい前、脳腫瘍にかかりました。」
「その時は手術に成功して...投薬治療を何年か続けてその後、普通に生活出来るまでに回復しました。」
「でも、1週間前に突然 左半身が動かなくなってしまって.......病院に連れて行ったら癌が再発、進行してしまって...」
「もう....美香は...助からない状態なんです」
「................!!!」
あまりの驚きに声にならなかった
こんなに驚いたのは生まれて初めての事かもしれない。
「脳腫瘍.......ですか?」
まるで、意味が分からない。
「はい......もし、松本さんさえ宜しければ最期に......美香に......会ってあげてくれませんか......」
「..............」
「美香はあなたの事をずっと想っていました。あなたにとっては もう.......ずっと昔の事ですが、美香にとっては今でも続いてるんです.....」
「ご迷惑をお掛けしている事は承知しています。でも、娘の最期のわがままを聞いてあげて欲しいんです」
「美香さんはどこですか!?」
電話を切った後、すぐに走った。
脳腫瘍ってなんだ!?
助からないって........美香が死んでしまうとでも言うのか!?
美香は10年も前に癌にかかっていたのか?
そんなの俺は信じない!!!
そんな馬鹿げた事が信じられる訳がない!!
とにかく今は美香に会って確かめたい!
ただ、それだけしか考えられない.......
病院について美香の病室を探してみた。
「.............」
美香のお母さんに言われた部屋には......当然の事だが”田村 美香”と書いてあった。
この部屋に入ると信じたくない現実を見てしまう。
出来るならこのまま帰ってしまいたい。
いや、ここまで来て現実から目を逸らすな!!
俺は、覚悟を決めて中に入った。




