夢を見たその後で 1話 「日常」 その1
第1話 日常
何も変わらない毎日。
こんなにも平和でいいのかと時々思う。
俺は、何を求めているのか?
何になりたいのか?
未来への展望なんか何一つないけど....。
何かはしないといけないと
気持ちだけは焦ってる。
何に焦ってるのかもわからないままに....。
zizizi....
ガチャ......
目覚ましがなる。時間はまだ午前4時30分。
遠くで鳴く犬の遠吠えとたまに通りがかる車の音、そして新聞配達の音が聞こえてくる以外は真っ暗な静寂の世界。
田舎というほどでもないがさして大きくないこの街の中心から少し離れたこの場所。
普通の街のどこにでもあるマンションの一室。
仕事柄、普通の人よりは若干朝が早いくらいでどこにでもいる普通のサラリーマン。
そんな普通の生活が嫌いというわけではないが、どこか物足りなさは感じてる。
才能がない
資格がない
環境が悪い
先立つお金がない......
様々な言い訳をしてみるけど結局一番足りてないのは努力だとは解ってる。
でも、どんな努力をしたらいいか解らない。
そして、何がしたいか解らない。
そうやってまた自分自身に言い訳をしながらも「普通」の一日が今日も始まる。
早朝のショッピングモール。小雨が降っているせいか靄かかっている。
街の中心に程近いどこにでもある大型のショッピングモール。
その中の一角にある「Scott」というベーカリー喫茶が今の俺の仕事場である。
自分の店というわけではないのだが一応は店長という役職がついている........まぁ、言ってしまえば雇われ店長って訳だ。
「おはようございます」
........
「っても、誰もいやしねぇんだな」
店長だから当たり前の事なんだが朝一番誰よりも早く出勤する。誰もいないと解っているがふと独り言をつぶやく回数が増えてきたなぁって最近よく思う。
「もう、ここに来て1年になるんやなぁ
早いもんや...」
俺、”松本祐希”は関西から転勤でこの街に来た28歳のサラリーマン。
まぁ、そこそこは会社に期待されているらしく会社の系列の色々なお店を何店舗か任された後、今のお店でとりあえずは落ち着いている。
おそらく、1年もしないうちにまた転勤があるんだろう。
出世コースと喜ぶべきか、いいように扱われてると嘆くべきか、どちらとも取れるんだが、結局のところ世の中に起きるすべての事は本人の気持ちの持ちようでどんな色にでも変わる......。
どうせならいい色で世の中を見たいもんだ。
「いろんな角度で物を見ないといけない」
昔そう教えてくれた人がいた。
もう、会う事はないだろうけど今となっては感謝している。
そんな独り言をつぶやいてるうちにパンが焼けてきた。
そろそろアルバイトの女の子も来るころだし気持ちを切り替えないとな。