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あなたへ  作者: 深崎 香菜
31/35

後悔の渦

 

 

 

苦しくて息が上手く出来なかった。

俺は一瞬…いや、もしかしたら今もかもしれない。

親友の死を…喜んでしまった。

 

彼女にあんな簡単に触れることが出来て、

ずっと夢に見ていた彼女とのキスをして…

あいつがいたらそんなこと叶うはずなかったわけで…。

自分の残酷さが嫌になる。

けれど、喜んでしまう…。

「クソ…クソが…」

そんな自分に腹が立ち、悔しかった。

 

 

「…中尾君。」

顔を上げると今回全ての歯車を狂わせた張本人の登場だった。

「吉…田…さん。」

「何しているの?」

「なんでも…ないんだ」

「…そう。」

「君こそ何をしているんだ?」

「…別に。

 ただそこの病室の中に用があるだけよ。」

 

彼女は亮介の葬式にも顔を出さなかった。

あの事故の日以来、顔も見てなかったのだ。

そういえばさっき瀬戸さんが言っていた。

 

―亮ちゃんが事故したのって・・・―

 

吉田さんがきたと言っていた。

つまり話したのは…

 

「ねぇ、」

「何」

「吉田さん。瀬戸さんに事故の日の事…何か話したか?」

「えぇ。

 事故の理由とかね。」

「ど…どんな風に?」

「…田村君は私のせいで事故したの。私を助けたのよって言っただけだよ?」

この瞬間、俺の記憶は飛んでしまった。

気が付けば椅子に座っていて、

隣ではお母さんが何か言っていた。

 

 

 

 

「…わかった?」

「…すみません。

 なんか、ずっと、頭がボーっとなってて…」

「今正気に戻ったと?」

小さく頷く。

「何があったのかわからないけれど

 女の子に暴力を振るうのはよくないと思うの。いえ、良くないわ。」

「俺…何か…」

「同じ大学の子らしいけど。

 胸倉を掴んで何か言っていたわ。」

 

今まで女性だけには暴力を振るうことはなかったのに

何をしているんだろうと後悔した。

「あの子…どうかしてるのね」

「え?」

「あなたに何か怒鳴られていてもずっと笑ってた。

 何かをブツブツ言いながら。」

俺はその後お母さんに彼女の居場所を聞いたが

お母さんが俺たちを引き離した時、奇妙な笑い声をあげながら去っていったという。

「お母さん、彼女には要注意していてください。」

「どうして?」

「亮介の…死を知る人物の一人です。

 言いたくはなかったのですが…亮介の事故の原因でもあるんです。」

お母さんはキョトンとする。

そりゃそうだろうなぁ…。

「彼女と亮介が何か話した後、

 あの場で彼女は自殺行為を…

 それを助けようとして亮介は…事故に遭ったんです。」

「…そんな」

「あの日から彼女を見かけることはなかった。

 救急車に乗り込むときすでに姿が見えなかったんです」

 

 

あの日、俺が救急車に乗り込む時

彼女のことを思い出し辺りを見渡した。

しかし姿がなかったため亮介へと自分の注意を戻したのだ。

 

 

「つまり…

 あの子が亮介君の死を明日香に伝える可能性も…」

「あります。十分に。

 ここ最近、彼女は明日香さんの元へ訪れて

 『田村君は私のせいで事故したの。私を助けたのよ』と言っています。」

「明日香…」

「明日香さんとはそのことについてもう話はつきました。

 けれど…これからが怖い」

「そうね。

 あなたが亮介君の代わりになっていることも知られないほうがいいのね」

「はい」

俺とお母さんはその後話し合い、

先に帰る事になった。

部長に会いに行かなくてはならないのだ。

お母さんは頷き、手を振って別れた。

 

 

 

 

 

 

「んー…」

「難しいですか?」

「この間の撮影が中止になって

 結局数日間動けなかったろ?

 教会側も迷惑になるしって事でスタッフの中から選んで撮影したんだ…」

「そうですか…」

「明日香ちゃんはしたいって?」

「またできたらいいなって」

「お前とか」

「…亮介とでしょうね」

「…お前悲しくならないのか」

「なりますよ。

 俺がどんなに亮介になりきって彼女を愛しても

 彼女が好きと伝える相手は亮介一人だから…」

「複雑な」

俺は何も答えずに持っていたコーヒーを飲み干す。

それ以上は何も言えなかったのだ。

今日感じてしまったあの幸福感など、

誰にも話せないことだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「テガミ」

「そう、手紙。

 先生がねこういうリハビリもありだって話でね。

 で、きっと…読めないだろうけど…」

「アリガトウ。

 デモ ボクハ ヘンジ ドウシマショウ」

「…あ。

 そっかぁ…

 返事はいーや!!

 亮ちゃんは読んで?たくさん。私からのメッセージ」

「ハイ」

彼女はそう返事すると笑ってくれた。

俺はその場で手紙を開ける。

読みにくいものだったが読むことは出来た。

 

―はあい!

 てがみをかくのはあのひいらいですね゜

 これからたくさんかきたいとおもうから

 くろうするだろうけどよんて ゛くださいね

 

 

 きょうはここでおわることにします

 だいすきなりょうちゃんへ

 あすかより―

 

短い内容だったが実に微笑ましい物だった。

一文を除いて…だが。

 

「アリガトウ

 マイニチ タノシミニ シテマス」

「はい!」

俺はそっと彼女の頭を撫でながらキスをしようと唇を近づけた。

 

「…亮ちゃん…?

 え…違う…誰…誰!」

そう言って突き飛ばされる。

俺は唖然としてしまう。

「誰?ねぇだれよ!」

「…はは…」

思わず声に出してしまう。

「…中尾君?」

そしてバレル。

俺はゆっくりと立ち上がった。

「何…してるの」

「亮介がさ。気分が悪くなったからたまたま来た俺に代われって言ったの。

 バレルに決まってるのにね。」

「…でも・・どうして」

「ごめんね。

 最後にって思った」

「最後?」

「俺さ、ちょっくら留学してくるんだ。

 だから…お別れ」

「…そんな」

「ほら、亮介戻ってきたよ。

 亮介、これ手紙だって。これから毎日もらえるぞー」

自然と涙が溢れてくる。

それに気づかれないように電子機器を使って一人二役をする。

「オ

 テ オマエ ヨンダ ダロ」

「ん。気にするなってー」

「サイテイ ダナ」

「おうよ。じゃーな」

そう言って足音だけさせて帰ったフリをした。

 

「亮ちゃん具合は?」

「ダイジョウブ デス」

「そっか。

 中尾君…」

「アイツ ハ ワスレマショウ

 イツカ モドッテ キマスヨ」

彼女は頷く。

そして俺は後悔する。

 

こんなに

 

こんなに苦しい思いをするのか

 

彼女は結局わかるんだ

 

俺と

 

アイツの違い。

 

あの日喜んだことを改めて後悔し、涙は止まらなかった。

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