出会い
春の日は暖かく、風は暖かく・・・・
いつもの通り道でさえ素敵に思える今朝。
今日から毎日通る道は今まで通ったどの道よりも楽しく歩けた。
自宅から徒歩十五分で着く大学。
僕はこの春から一人暮らしをしている。
最初に描いていたキャンパスライフ。
それは清々しい朝、少しコゲているけれど食べれないことのない食パン、
気持ちのいい朝日の中の通学・・・・・
でも現実はそんなのと全く逆で、
初日から朝寝坊、朝ご飯なんてとんでもない、
春だというのに汗をかきながら走り抜ける通学・・・・最悪だ。
着いた頃にはすでに入学式は始まっていた。
後から入っていくのに少し戸惑っていると後ろから小さな声が聞こえた。
「遅刻、ですか?」
振り返るとニコリと笑った女性がいた。その笑顔はとても可愛かった。
「みたい・・・ですね」
「私も、去年遅刻しましたよ。入学式」
この時この女性が先輩だとわかった。まあ、見た目からして大人な雰囲気だが…。
「・・・入らないの?」
「入り難くて…」
「わかる、わかる!私は去年もう出なかったけど?先に行ってた。」
そう行って校舎の方を指差した。
僕はその指を目で追った後、その方がいいと思って頭を下げて立ち去ろうとした。
「あ、私も行く」
そう言って着いて来る彼女に疑問を抱きながら一緒に歩き出した。
「君は何?」
突然聞かれて僕は答えることが出来なかった。
『人間』、『生徒』・・・何が聞きたいんだ?
僕が戸惑っていると彼女はまたニコリと笑ってジェスチャーをした。
人差し指と親指をくっつけて小刻みに揺らす。パッと見は指揮にも見えたが、
僕にはそれが“筆で絵を書く”ということだとわかった。
その次に彼女は手とてをこすり合わせた。
これはきっと陶芸だろう。その次に何をしようかと考えている姿は可愛かった。
「あの、別に口で言えばいいんじゃ・・」
「えー。だってこの方が当て物みたいで面白いでしょう?」
今ここで面白くする必要があるのだろうか。
「あー・・・とにかく、僕は水彩画です。」
「・・・・!一緒だ!私も水彩画だよー。ヤッター!意外なところでお仲間発見」
そう言うと彼女はヘヘーと笑ってみせた。
「あ、じゃあ先輩いろいろと教えてくださいよ?」
「あ、うん。まあ、君らより1年多くいるからねーって言いたいんだけどね」
彼女は僕に背を向けて言った。
「私留年したんだー。だから歳とかは先輩だけど同じ学年なの。」
そう言って振り向いてまた笑った。
「・・・・留年、ですか。」
「うん。去年は休んでばっかりでねぇ、単位3つも落としたんだ!」
普通はここで暗くなるわけだが彼女はそれを面白おかしく話した。
そして最後には笑えるようにしてくれた。
「そろそろ終わったみたいね」
窓の外を見ると建物の中に人ごみが入ってきた。
そろそろこの部屋にもみんなが集まるのだろう。
「そだ。名前、教えなさいよ」
「え・・・はあ。田村亮介って言います。」
「亮介・・・長いなぁ。亮ちゃんね!」
ちゃんって!!てかなんで初対面なのにいきなりニックネームを・・・
「あらー。その顔はは不足ね?」
「・・・まあ、そうですけど。いいですよ・・・ちゃんで。」
僕がそう返事すると彼女はニッコリと笑って喜んだ。
間もなくして部屋は他の生徒でいっぱいになった。
クラスを見ると僕は今いる教室でいいみたいだ。
同じ水墨画・・・ということで彼女も一緒だった。
僕が見ているとニッコリ笑ったその悪戯な笑顔に僕はキュンときていたのは内緒だ。