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あなたへ  作者: 深崎 香菜
14/35

暇な休日

翌朝目覚めると彼女は何事もなかったかのように…とはいかなかった。


「おはようございます」

「お、はよう…」

なんとなくぎこちない空気のまま朝食を済ませ、

彼女が片付けをしてくれる間に僕は顔を洗う。

僕は彼女に元気がないままなのが辛くて

こっちが何事もなかったかのように振舞うことにした。


「明日香さん、今日どこか出かけましょうか!

 もうすぐ記念日もありますねぇー。

 早いですよね、もうすぐ5ヶ月の記念日です。

 今度は僕に任せてくださいね!

 で、今日どこか行きたいところあります?」

そう、もう季節は冬でもうすぐく

彼女は無言のままお皿を片付け、

僕の向かいに座った。


「・・・え」

「へ?もう一度お願いします。」

「家に、戻る」

「じゃあ、僕の荷物も移動して良いですか?

 そしたら今回は僕がそこから一緒に・・・・」

「亮ちゃん、ごめんね」

「明日香さん?どうしてあや・・・」

「今回は帰る…

 昨日は、ごめんなさい。

 迷惑かけちゃったね…いっぱい泣いちゃったし…

 どうしてかも話さないままで、迷惑だったね…。

 とりあえず、今週末は実家か自分のアパートで過ごします。

 あ、大丈夫だから、送らなくて…。

 ていうか。今回は送らないで」

彼女はそう告げると立ち上がって着替えなんかをたたみだす。

僕はその姿をただ呆然と見ているだけしか出来なかった。


そう、頭の中が整理できない。

どうして帰る必要があるんだ?

別にいいじゃないか。何が不満で何がしたい?

僕にはまだまだ女心が理解できていない証拠なのだろうか?



「明日香さん」

僕は彼女の背中に話し掛ける。

返事は…ない。

「迷惑だなんて思ってません。

 忘れましたか?僕、言いましたよね。

 明日香さんをおぶったときに。

 迷惑だなんて思ったことないんですよ。

 本当に、あの日からずっと。

 だからそんなこと言わないで下さい。

 そんなこと言う明日香さんのほうが迷惑ですし辛い…悲しいですよ」

そう言うと彼女はゆっくりと振り返った。

「ごめんね…

 最近ね、ずっと考え事してて…

 ちゃんと、話すから…少しだけ待ってほしいの」

「それは、僕が覚悟しないといけない話ですか?」

「もしかしたら…私自身も覚悟しないといけないかもしれない。」

どういう意味だ?


とりあえず彼女は自分の意見を曲げず、

今回は自宅へと帰ることになった。

彼女が謝りながら断ってきたのが痛いくらい悲しいが玄関でお別れだ。

今日はキスさえもしない。

彼女は元気なく手を振るとこっちを振り返らずにエレベータに乗った。

僕はいつも彼女がするように彼女の姿が見えなくなるまで見つめることしか出来なかった…。





週末がこんなに退屈だとは思いもしなかった。

以前、僕はどうやって過ごしていただろうか。

彼女と過ごす休日が楽しすぎて以前の過ごし方なんて覚えていなかった。

そんな馬鹿げたことに不思議と笑えた。

自分でも呆れてしまっていたのかもしれない。


僕は適当な服に着替えて靴を履いた。

家にいてもすることもない。

どこか外へ出て暇つぶしを考えた。

一番時間が流れるのが早く感じるのは本屋だろう。

途中まで歩いている時にそう考えていたのだが

足は自然と本屋へ向っていたようだった。




何かほしい本があるわけでもないが

漫画、小説、雑誌のコーナーをグルグルと意味なくまわる。

あまりウロウロしすぎると店員に怪しまれると厄介なので

適当な雑誌を手に取り開けた。

数ページ読んだところで閉じる。面白くないのだ。

また次のを取る。

今度は週刊誌だ。毎週火曜に出ているわけで、

彼女と付き合う前(つまり高校生の間か。)は

毎週月曜、火曜の二日は本屋で新しく出た週刊誌を読む。

まぁ、漫画なので読むのに時間はかからないから読み終わったらバイトや帰宅。

けれど彼女と付き合うようになり、

一緒に帰るようになって立ち読みなんてしなくなったし

平日はだいたい夜か夕方にバイトだし・・・。

そういえば最近漫画じたいを買わなくなったなぁ…

そんなことを考えながら読み進めても笑えない漫画を読みつづけた。



「うぉー」

突然後ろから肩をたたかれてビクっとした。

振り返ると中尾だ。

「うす。」

「お前なー…デートで本屋立ち読みコースはないぞ?

 それカップルネカフェとかわんねーよ。」

「ん。一人だけど。」

「へ?瀬戸さんは?」

「まぁ、うん」

「喧嘩?」

「わからん」

僕が明らかにテンションが低いのを見かねたのか

中尾は僕が持っている漫画を取り上げ元に戻した。

「飯食った?いかねー?奢るぜ」

そういえば昼ご飯がまだだ。

僕は頷き中尾についていった。


入ったのはハンバーガーショップ。

中尾は一人で中に入りテイクアウトしてきた。

「お前照り焼きっしょ?飲み物はコーラだよな」

そう言うと何も言わずに歩き出す。

「おい、くわねーの?つか、ご馳走様」

「食べるよ。もちっと歩くぞ」





そこから15分ほど歩くと駐車場のようなところに出た。

駐車場のようだが車はほとんど止まっていない。

「ここはまー。人来ないしな」

中尾が苦笑いするとアスファルトに座り込んだ。

そのまま買ってきたバーガーを広げ向かいがわに座れと合図した。

僕はそのまま黙って座り、バーガーを受け取る時にお礼を言おうと口を開けたら制された。

「なんだよ」

「お礼の言葉はいいよ。

 瀬戸さんと何かあったか?

 もうそろそろ俺に遠慮とかやめてくんねーかなぁ…。

 瀬戸さんはもう何も気にしないでくれてるけど、

 亮介さ、まだ気にしてるくないか?」

図星だ。

僕は未だに中尾を気にしている。

中尾はふっきったフリをしてくれているのに

僕は気づいているからかコイツの前で喧嘩しただとか話せなかった。

気づかれていたのだ…。



「あの…さ。

 明日香さん最近変だと思わないか?」

「変?」

「うん。

 すごく落ち込んでる。というかテンションが低い。

 時々ボーっとしてたのが最近はしょっちゅうだし

 なんかわけのわからんこと言った後は必ず暗くなる。

 最近は泣きそうな顔にさえなってた。

 それで昨日、彼女が泣いてた。

 バイトでさ、メール返せなくて見れなくて…。

 いつもそんなのこないのに早く帰ってきてとか、怖いって。

 僕を失うのが怖いって…

 理由を聞いても話してくれなくてずっと泣いてた。

 そのうち泣きつかれて寝たけどさ。

 朝、いつもみたいに何事もなかったようにして笑うのかと思ったら

 そのままで今週は帰るとか言い出して、迷惑かけてごめんって。

 迷惑なわけないっつーの…

 なのにアイツ帰りやがった・・・・

 何もわかんねーよ・・」


僕が言い終えると中尾は口にしていた食べかけのバーガーをおいた。

そしてジュースを口にしてゆっくりと口を開いた。

「確かに最近笑い顔が変わったと思ってた。

 けど、そこまでひどいとは…。

 じゃあなに、喧嘩ってわけでもないし

 彼女が泣いてるのもお前が原因とかじゃないと?」

「それはわからない。

 もしかしたら僕が遅くて泣いてたのかもしれないし、

 何か不安にさせるようなことしてたり…。」

「後、意味不明なことってなんだ。」

「…この間さ、旅行の時僕一昨日着てた赤のTシャツ着て三日目過ごしたんよ。

 で、一昨日、彼女が言うんだ。

 『そのシャツ…面白いからいっか』って。

 まぁ、言ったんだ、あのとき言ってくれよーって、

 そしたら着てたっけ?みたいな話してさ、

 写真、やっと現像できてその十分前に見てたのに…。

 他にももっとあるしな。」


そうだ。

僕の作品の色使いのときも変だった。

霧、そうだ、あの霧だって。

ずっと変だ…。



「悩み…とかではないの?」

「どうだろう。

 何か悩んでるなら近くにいて支えてやりたい。

 けどほら、あるんだろ?彼氏にいえない悩みとか。

 それなら解決を待つしかないだろう。」

「だな…」


僕らの話はそれ以上進まなかった。

そう、この話には彼女が加わらない限り真相はわからないのだ。

ぽつぽつと呟くように中尾はいろんな候補をあげたが

全てありえなさそうな内容で

時には飲んでいたコーラを噴出すような内容もあったくらいだ。

(こいつふざけてるのか!?)



「じゃあ、また何かあったら言えな」

「うん。ありがとな」

気が付けば日は暮れていて時刻は八時を過ぎていた。

僕らはそこで解散だ。

「あ。中尾」

反対方向へ歩き出したのだが足を止めて言ってみる。

もう遠慮はしねー。

「ん?まだ何かあるか。

 晩飯までは奢らないぞ」

「…お前、まだ好きだよな?明日香さんのこと」

「…言っただろう」

「同じだよ。

 お前も遠慮とか駄目だ。好きだよな?」

「・・・・・・・」

その無言が彼からの返事だと理解した。

「OK。渡さないぞ。」

「好きだけど諦めてるぞ。笑うなよ?」

「なんだ。」

「今俺はお前のこともすっげー好きなんよ。

 だから彼女とお前には幸せでいてほしい、それだけだよ。」

そう言って逃げた。

馬鹿野郎と言って僕はニヤリと笑った。



僕の中でも中尾の存在は大きい。

元々仲の良い同士でもなかったのだが

こうやっていろいろ話しているうちにアイツのいいところを見つけ、好きになる。

だから僕もアイツの幸せを願いたい。

だから早く新しい恋をしてほしいと願うしかない僕はやっぱり小さかった。



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