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あなたへ  作者: 深崎 香菜
11/35

観覧車

朝起きるといつものように彼女が朝食を用意してくれていた。

僕は携帯のアラームが鳴る一分前に起きる。

これはよくあることなのでいちいち騒がない。

アラームをオフにして、僕はまず顔を洗う。

そして彼女の待つテーブルに着くのだ。


「今日は、ミッラクルパークでいいんですよね?」

「うんうんっ

 開園してから一度も行った事ないから行きたかったのぉ!」

「じゃ、じゃあそこで…」

「何。亮ちゃんが嫌とかそんなの?」

僕は絶叫マシーンが苦手だ。

それに先日別の遊園地でとても不幸な事故があった。

それも絶叫マシーン絡みなわけで…。

彼女はとことん絶叫系が大好きだ。

モチロン行くとなると乗せられるだろう…。


「いや、行きたいのですよ。僕だって。

 でも…絶叫が・・・・・」

「もうー。男なんだからしっかりしてよーっ

 はいはい、食べたなら片付けるからねー」

彼女は僕の弱虫を無視してテキパキと片づけを終わらせ支度を済ませた。

僕はもう抵抗しても無意味だと感じ一緒に身支度を終えると家を出た。


ミッラクルパークへは電車でおよそ一時間。

ここ2.3年前に開園してから今までずっと人気テーマパーク三位の座だ。

(まぁ、某ネズミの国や某映画関係テーマパークには勝てないでしょう。)

ミッラクルパークの『ッ』の部分。正直いらない。言いにくい!

ミラクルでいいじゃないか!と言いたいがミッラクルなのだ。意味不明。




フリーパスを買い、僕らは中に入る。

彼女はとても嬉しそうにはしゃぎながら

「さ!アレ行くよッ

 二時間待ち普通らしいからね、早めにっ」

彼女は僕の手を引いて走る。

待て、止まってくれ!!

そんな僕の叫びは届かず最後尾に並ぶ。

並んでいる間彼女はずっと僕をからかっていた。

「大丈夫よ、もし飛んでいきそうになったら抱きしめたげるー」

とか、

「一瞬よ、一瞬。

 一瞬だけ記憶飛ばせばー?」

とか・・・・・

余裕だな。おい。



マシーンに乗ってから降りるまでの間、

正直言うと記憶がない。阪を上って・・・・・・こっから気づけば降りていた。

本当に飛ばしたのか…僕。


それから彼女は次々とこのテーマパーク内にある絶叫系を立て続けに乗った。

僕は何度叫び声を上げたのかもう数えてられなかった。

ただ一度叫んで恥ずかしくなった言葉は鮮明に覚えている。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさーーーーい!

 た、すけてくれー!!」


この後から彼女にはずっとからかわれる羽目になったのだ…。






「あー…もう閉館なのねぇ。。」

「楽しいときってすぐ時間流れますね」

「あら。恐怖のときもってわかったんでしょ?」

彼女がニヤリと笑う。

僕は何も言えず黙り込む・・・

「さーて。最後にアレのろっか。」

彼女が指差す先・・・・・・また絶叫?!

「さ、最後までッッ」

「何と勘違い?・・・あー。違うよー。その先。」

その先には・・・・・・


観覧車・・・・・


「観覧車なんか乗っても時間が流れるだけですよ?」

「いいのー。乗るよー」

今日何度目だろうか。

彼女は僕の手を引く。僕は今度は叫び声なんてあげずに素直に着いて行く・・・。




小さい頃からの疑問だ。

観覧車なんてなんのためにあるのだろうか?

ただ、数人で高いところまで上ってそのまま降りてくる・・・

でかければデカイほど時間は長い。

その時間別の乗り物で過ごせばいいのに・・・。

いつもそう思っていたのだ。


観覧車前はもう空いていて、十分ほどで乗れた。

外側には14分の空の旅と書いてある。

降りたら丁度いい時間だろう。

乗り込むと偏るといけないので向かい合わせに座る。

そしてはしゃぎながら外を見ている彼女を見ていると自然と口元が緩む。

あんなにどうでもいい存在だった(ある意味絶叫系より避けたかった)観覧車。

だけど今では乗ってもいいなと思えた。



「亮ちゃんー見てみてッ」

彼女が楽しそうに指差す方向を見る。

あぁ、この時感じた。

観覧車とは、大好きな人とこういうなんとなくな時間を楽しむためにあるのだ。

どうでもいい存在なんかじゃない。

数十分の時間をただ笑って過ごす…。それでいいのだ。



「あ…。

 明日香さんお誕生日おめでとうございます」

本当は食事のときに渡すつもりだったが

今のほうがなんとなく素敵に感じた。

僕はポケットから小さな箱を取り出す…。


「やっと言ってくれた」

彼女は少し寂しそうな顔で微笑む。

「だって、何度も何度も言われるよりも

 大事な日にたった一度…。特別な言葉に感じられません?

 僕…だけかな。」

そういうと彼女は『確かに!さすが亮ちゃん』と言って喜んでくれた。

彼女は箱を開け、時計を喜んでくれた。


「でも、どうして時計??

 私がほしがってたの知ってたんだ。誰にも言ってないのに」

「ほら、明日香さんすぐ携帯充電切れて時間の感覚無くすし。

 あと、ほら・・・・・・」

そう、もう一つ理由があった。

もう一つ・・・・



「いつでも身に付けられる?」



その通り…って!


「心、読めるんですか…?」

「なんとなーく

 さすが亮介マスターよねぇー」

僕は照れ笑いをした。

本当は指輪を考えたのだが、それは付き合って1年の記念日に渡そうと決めていた。

だから今はまだ渡さない…。


「亮ちゃん、つけて?」

彼女が左腕を差し出す。

僕はその手首に時計をつける…。

彼女はそれをしばらく見つめてとても嬉しそうな顔で

「ありがとう」

と言ってくれた。


僕たちは少しづつ距離を縮めて顔と顔が近くなる…

お互いの息が当たるくらいの距離になると

彼女の頬に触れながら僕らは唇を重ねる…

その瞬間・・・・・


「お・・・おおつかれさまですー!!」


係員の慌てた声が耳に入る。

そう、てっぺんで渡したつもりなのだが

キスをしたときには既にほぼ地上だったのだ・・・。

た、タイミング悪ッ

僕らは誰とも顔があわせることが出来ず、

そそくさと降りて出口を目指す…。

途中おかしくておかしくて、二人で顔を見合わせながら笑った。


彼女の胸元にはプレゼントしたハートをモチーフとしたネックレス。

そして左手首には時計…

彼女の一部に僕が加わったようで、今回もまた嬉しくなる。

だんだんと考えることが変になってるな…

そんなことを思いながら僕は彼女の手を引きミッラクルパークを後にする…。


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