ダラダラ休日
「明後日誕生日なんですか?!
お祝いしないとだっ」
そう、明後日は彼女の誕生日。
「えへへー。
もうね、前から約束してるのー
亮ちゃんと 二人で お祝いするんだぁ〜」
彼女がエヘヘと笑う。
中村は墓穴を掘ったのか少し傷ついているようだ。
彼女は中村の言葉をそのまんま飲み込んでいるため、
自分のことを諦め新しい恋を探している途中と思っているのだろう。
甘いですよ、明日香さん。
中村は今でもあなかが好きなんですから…全く。
どうして僕がこんな奴のためにフォローなんか…
「あー。
でも今度昼飯のときにケーキか何か買ってきてさ、
三人でもする?てか。三人といわずみんなで?」
いつもの僕からは考えられない行動なのか、
彼女は僕をポカーンとした顔で見ていた。
中村自身も驚いているようだった。
「な、なんなんです。二人して…。」
「え、いや、その…何もないぜ。うん。」
「…えと、うん。亮ちゃん偉いねっ」
何で褒められる!?
「あぁああもう!やっぱりいいです。
二人“だけで”します。」
そう言うと中村は慌てて僕にかけよる。
「あぁぁ待って!うん。待とう。まとうじゃないか田村君!」
「は?」
「すみませんでした」
中村が軽く頭を下げる。
僕はニヤリと笑うと中村の頭に手を置いて体重をかけた。
「ちょ…無し無し!」
「亮ちゃん!?それ立派なイジメだょ??!」
そんな会話に僕は一人で笑った。
中尾は苦笑い、彼女は釣られて笑っていた。
「まぁ、じゃあ、月曜の昼はケーキ買って中で食うか。
モチロン俺と亮介の奢りです」
「えぇ!なんか悪いかも…」
「気にしないでくださいー!な、亮介」
「…気にしないけど。ご馳走様」
僕がそっけなく言うと中尾は一人で真っ青な顔になった。
みんな話には参加しなかったが聞き耳は立てていた。
最低でも五人食べれないと…
ということは大きなケーキを買うことになる。=お金がかかる。
月末なので中尾の財布も寂しいのだろう…
僕は彼女の誕生日を知っていたから別だ。
「りょ…うすけさんや」
中尾が小声で僕を呼ぶ。
彼女は気づいていないので僕もコッソリと行ってやる。
もう今日はこれくらいで十分だろう。
「冗談だっつーに。
本当に通じないなぁ?僕も出すから、さ。」
中尾は心のそこから安心したような顔をした。
それを見ているのがおかしくて仕方がなかった。
僕は彼女を先にアパートに向わせ、駅には向わずいつもと逆方向へと歩いた。
そう、明後日のプレゼントを取りに行くのだ。
ネックレスなんかどうだろうと思ったがそれは二ヶ月祝いにプレゼントした。
だから今回は時計にしてみようと思った。
彼女は想像つくと思うが抜けているところがある。
寝る前に携帯の充電をするのを忘れたり、
それにも関わらず充電器を忘れて帰るまでに電池が切れたり…
連絡が取れなくなるのも痛いが、時間の感覚がなくなるのも辛い。
それで一度僕は一時間待ちを食らったことがある。
待つのは苦痛ではない。
けど、その来ない間に何かあったのではないかと、心配してしまうのだ。
だから時計だな、と思った。
…お節介かも。うん。
「すみません、田村といいます。
予約していた時計を取りにきました。」
「・・・・田村亮介様ですね?
品物は届いております。少々お待ちください。」
店員が奥へ入り戻ってくる。
中身を確認して僕はOKを出す。
そして支払いを済ませて店を出る…。
僕は大事に時計が入った紙袋を仕舞い込む。
ok。後は明後日の夜を待てばいい。
都合のいいことに29日は日曜だった。
朝から晩まで…一緒にいれるのだ。
アパートへ戻ると彼女が食事の用意をしてくれていた。
「お帰りぃ!」
「ただいま。」
「何処行ってたの?」
「ん。内緒」
「怪しいなー。」
「美人な人でしたよー」
「キャサリンはやっぱり激しいの…?」
「モチロン」
僕らはいくつか冗談を交わした後、笑いながらテーブルに座った。
食事中、彼女はずっと明後日の話をしていた。
「まずねー朝はいつものように私が起こすのっ」
「え、誕生日なんですし、まぁ、作れるものと言えば目玉焼きですけど
僕が朝は作りますよー?」
「だーめ。
朝ご飯絶対私なの」
そしてその後も遊園地に行って、そして帰りに僕が予約した店へ行く。
そしてここに帰ってきてオワリ。だ。
明日は映画に行くわけだが何を観るとかまだ決まっていない。
けれどお互いがそんなのを気にしないで明後日のことばかり話していた。
寝る前、彼女が僕の腕枕でウトウトしているときに
ボーっとした声で言った。
「私…ねぇ。
好きな人と、誕生日過ごすの、初めてなんだぁ…
だからなんかぁ…浮かれちゃう」
「浮かれてください。
僕もそうやって喜んでもらえるほうが嬉しいですからね。」
そう、誕生日や記念日に恋人と過ごすのはあたりまえ。
そう思われるのはいいのだが、
そこで終わりにするのはやめてほしい。
簡単に言えば夏休み前やクリスマス前に慌てて恋人を作る奴とかは大嫌いだ。
一緒に過ごすことを純粋に喜んでくれる。
そしたらこっちも嬉しくなって
あぁ、来年も一緒がいいなと思える。
だから僕は彼女の喜び方が大好きだった。
結局土曜はずっと部屋で過ごした。
映画はお流れになり、二人で本を読んでいたりDVD鑑賞をしたりしていた。
「映画観れたしいっか」
「寝坊したのは誰ですー?」
「お互い…よね?!
私だけじゃないよね?!」
「そうですけどねー」
夕食は宅配ピザを食べた。
月末に少し贅沢だったかもしれないが外食よりはマシだったかも?
それになんだかこの日はお互いがダラダラして過ごしたかったのだ。
「明日は、寝坊しないでね」
「明日香さんこそしないでくださいね」
「はい」
「はい」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「はい」
僕は彼女が眠るまで髪を撫でていた。
彼女はまるで仔猫や仔犬のように眠っていてその姿が愛しくて、愛しくて、
僕は頬にゆっくりとキスをした。
彼女は目を覚まさない。
それを良いことにまたキスをする。
そしてギュっと抱きしめながら僕も眠りについた…