生存者
この小説に描写される暴力・残虐行為は決して真似をしないで下さい。また、当作品は犯罪を助長するものではありません。
ちなみにジャンルを「恋愛」と指定していますが、アクションもコメディーも含みます。
まだまだ未熟な文章力ですが、あたたか~い目でお楽しみください。
─シナリオや登場人物はほぼオリジナルですが、ある二人の登場人物はアメリカの某マイナーバイオレンス映画「God Bless America」から設定を少し流用しています。
面白い作品なのでぜひお時間があれば拝見してみてください。……この小説もきっともっと面白く読めるかもしれません。
私は死んでいるはずだった。でも生きている。
目を覚ました。
長い長い眠りをついていたようだが、夢の記憶も何もない。
─意識を失っていた─
横になる前に何をしていたかも思い出せない。
……そして何より、この鬱陶しい頭痛と全身のじわじわとした痛み。
この今の現状を仮定と踏まえれば、そう結論付けるしかない。
私は意外にもそう冷静に考え付いた。
……そう。
意外にも。
(……ここはどこ?)
意識を取り戻してからほぼお約束的に言われる台詞を、私は自分の中でつぶやいてしまう。
完全な目覚め、お目々パッチリな状態でも現在地を認識できない。
しかし意外にも冷静を保っている自分が少し恐ろしい。
(……このフカフカのベッドのおかげかしら?)
ベッドをまず認識することが出来た私は周りの空間を見渡す。
正面を見れば質の良い木材で出来たタンスとこの部屋の出入り口であるドア。
上を見上げれば高い天井とこの一部屋に意外すぎるほど似合っているシャンデリア。
右を見れば高級そうなランプにわざとらしくこっちを向いているテディベア。何見てんだコラ。
そして左を見れば天井まで届きそうな縦に長い窓。外を見れば薄い雲に眩しさを抑えられた月明かりが目に当たる。……どうやら不健康にも、夜に目覚めてしまったらしい。
私は髪が痛んでいないか手で確認している時、正面のドアがゆっくり開く。
「おや。お目覚めのようだね。
僕もズイブンと待たされたものだよ」
(……誰、こいつ?)
私は警戒心を顔に出してしまったのか、部屋に入ってきた男は爽やかに笑う。
「そんな顔で見ないでくれ。僕は君に何もしない」
……こいつは顔はハンサムだがどうも胡散臭い。
そう私が彼の信頼できる値を定めている時、男は片腕を前に紳士的なお辞儀をした。
「……いや、こっちのほうが失礼をしたね。
僕の名前はルーカス・ストラフォード。
この屋敷の主の跡継ぎだ」
今の自己紹介で私の中の疑問がいくつか晴れた。
どうやら私がいるのはストラフォードという金持ちのボンボンが所有している屋敷らしい。
そして目の前の男のフォーマルかつ高貴な身なりを見る限り、彼の身分はウソではなさそうだ。
「……私は何故ここにいるの?」
私がそう聞くとストラフォードという男は一瞬止まった後、自分の頭を軽く叩いて照れくさく笑った。ウザい。
「いやいや、これはまた失礼。
あんな目にあった後だ。
記憶の一つや二つ飛んでいても仕方がないだろう」
(……あんな目?)
ストラフォードは部屋を軽く回ってから私に銃を向けるように指を指した。
「生放送で銃乱射。
アレは衝撃的だった。とても真似できないよ」
「っ……!?」
……思い出してきた。
まるでここ最近の出来事を書いた日記を読むように、その時のことが鮮明と記憶に蘇る。
くだらない生放送番組に乱入した「彼」を追って、一緒のステージに立った。
「彼」が自分の言いたい事を腐りきった国に言い放ったあと、「彼」から何十人も噛み千切れる猛獣のようなアサルトライフルを受け取り……。
観客、スタッフ、出演者たち………誰彼構わず目掛けてトリガーを引いた。
その最中、駆け付けた重装備の警備隊に発砲命令が上がり………私は周りのクソ野郎どもを撃ち殺しながら意識が急激に奪われていくの感じた。
私は倒れた。
同じく2丁拳銃を乱射していた「彼」の隣に。
………「彼」?
私のぼんやりと記憶を辿っていた目が大きく開いた。
「あ……あの人!!
私の隣にいた彼はどこ………!!?」
今まで眠っていたとは思えないほどハッキリとした声で私は問う。
その質問を聞いたストラフォードは浮かない顔をしている。
そんな表情を見ている私は、自分の胃が締め付けられるのを感じた。
「……ねぇ……答えて!
彼は……どこなのッ!!??」
男はため息をつく。
「……誠に残念だけど。
彼は……君とは別のトコロへ行ってしまったようだ」
情けない表情を作ってしまう。
今まで積み上げた積み木が支えを無くして、無残に崩れる感覚が身体中に広がる。
ベッドのシーツを力をこめて握った。
暗い表情をしたままストラフォードは続ける。
「本当に惜しい人を亡くしたよ。
彼と君は世間的にどう解釈しても殺人鬼かもしれないが……僕は違うと思うな」
私に近づいて来る。近づくな、馴れ馴れしい。
「彼はテレビ……しかも生放送の前であの国が自覚すべき事を見事に述べてくれた。
そして何よりあの銃乱射……。
君たち2人……特に君があのAK-47で辺り一面を焼き払っている美しい姿に僕も強く心を打たれた」
”僕も”……?上手いことを言ったつもりか?気持ち悪い。
「……彼のことは本当に気の毒と思っている。
君も心のケアにジュウブンな時間が必要だと百も承知しているけど………聞いてくれ」
シーツに添えていた私の手が握られる。離せ。
「ロキシー。
僕は………君を愛している。
将来、妻として僕の元に一生居てくれないか?」
─バチィッ!─
私が力強く奴の手を弾いた音が部屋に虚しく響く。
「……出てけ」
ストラフォードは余裕たっぷりのヤレヤレ顔で皮肉っぽく笑う。
「……一応、僕の部屋でもあるんだけどなぁ」
「出てけッ!!!」
私が最後に怒りを込めて怒鳴ると、鬱陶しい男は素直に部屋を出て行く。
残された私は声を張り上げたせいか、自分の中に冷静を取り戻すことが出来ていた。
……状況を整理しよう。
あの時、私は「彼」と一緒に銃乱射事件を引き起こし……警備隊に撃たれまくって死んだ……ハズだったんだろうな。
良く考えれば、「彼」がいなくなってしまったことを信じられないのはおかしい。
「私」が生きていることのほうが完全に「異常」なのだから。
そもそも鉛玉を何発も喰らって生き延びるとかどう考えてもおかしいだろう。
本当は死んでいてここが天国地獄だとしても、そんな実感はまったくとしか言いようがないくらい感じることが出来ない。
……後、あんな男が天使か悪魔だったら現実に戻ってクソ宗教ヤローどもに晒してやりたい。
そして……あの男はこの屋敷の主の跡取りとか言っていたが……。
もしかして金の力で私をあのステージからここへ辿りつかせたというのか……?
……変態だ。まごうことなき変態なヤローに私は捕まってしまったのだ。
しかし、変態といえど……私が眠っている間にしっかりと世話してくれたに違いない。
銃撃をまともに受けて目を覚ますことが出来たということは……確実に何週間何ヶ月も意識が無かったと考えるのが妥当だ。
試しに下をのぞいてみるが……アソコもカラカラでヒップ周りに見事なパンツの跡が付いている。
おかしなことはされなかったという安心は持てるようだ。
あの紳士的な態度は本当に「紳士」だったんだな。
…だが悪いけど、私はこの屋敷を出て行かせてもらう。
もちろん身体のリハビリをキチンと終了させたあとになるだろうけど、
私はここに根を下ろす訳にはいかない。
私は死んでいるはずだった。でも生きている。
このあまりにも意味不明すぎる生存にも何か運命的な理由があるに違いない。
その「理由」。
絶対に見つけ出してみせる。
自分の作品にアメリカ関係のものが多いのはきっと気のせいです。