1話
「3日前に廊下ですれ違った男子に一目惚れして、その人が昨日教室でね、ギター弾いてるの見ちゃったの」
「それで?」
「それで、バンド組もうって。」
鈴音のあまりにも無茶苦茶な理由に夏佳のケータイを打つ手が止まった。
「はぁ〜…あのねぇ鈴音ちゃん。そんなことでバンド組もうって、」
「と、とにかくやるの!」
真剣な表情の鈴音を見て、夏佳はケータイをパタンッと閉じ(やれやれ)と思いつつも、初めて見た親友の顔に腹を決めた。
「わかった。わかった。でも2人だけじゃ意味ないしなんか目標みたいなのあんでしょ。鈴音」
親友のその言葉に満面の笑みを浮かべ、カバンから1枚のチラシを出した。
「これ!」
その紙にはこう書かれていた。
生徒会よりお知らせ。
今年度の文化祭目玉企画としてバンドを募集します。
参加資格は
・全メンバーが本校の生徒であること
・楽器の用意はメンバーがすること
・作詞、作曲はオリジナルであること
・全力を尽くすこと
の以上4つである
なお、今回の優勝チームには好きなことが1回だけできる権利を与える。
「文化祭ね〜。いいじゃん!っで日付は…二ヶ月後……」
「ね、ね、なっちゃん。ガンバロ!」
「ガンバロってあんた」
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴り夏佳は「放課後にまた」と言い席に戻った。鈴音も急いで弁当を片付けて席に着いた。
〜放課後〜
夏佳はやっと1日の授業が終わりため息を吐きながら帰りの支度をしていた。鈴音に何だかんだ言ったが、久しぶりにベースを弾けるのが少し嬉しかった。
「なっちゃ〜ん。帰ろ〜〜」
「いいけどバンドの話しはどうすんの?」
「あ!…ん〜〜…そだ、いつものところで決めよ!お腹すいたし。」
「いつものところ」とは行きつけの喫茶店「クランベリー」だ。クランベリーは住宅街にひっそりとある店で、まさに隠れ家的な雰囲気がある。夫婦で経営をして、マスターの珈琲と奥さんの手作りケーキが名物だ。
「あら、夏佳ちゃん鈴音ちゃんいらっしゃい」
「サキさんこんにちは。」
「サキさ〜ん、お腹減った〜」
「はいはい、いつものね。」
二人が頼むものは決まっている。夏佳は珈琲と日替わりケーキ。そして鈴音は
「はい。珈琲とマスター特製たこ焼き」
「よく珈琲とたこ焼きを一緒に食えるね。」
「ん〜、おいし〜〜」
鈴音は満面の笑みを浮かべながらたこ焼きを頬張っている。