運命の分かれ道
夜の街、それはとてもきらびやかな巨大なイルミネーション。 だが、そこから少し離れれば明かりから閉ざされたような場所。そんなところには、大きなビルが幾つも建っていた。
その中の1つの屋上に一人の影があった。 影は、目の前のビルを見つめながら腰につけているポシェットに手をっつこみロープを取り出した。
「時間だ。」
そういうと、後ろ歩きで奥に行き、助走をつけ、3メートルはありそうなビルの間を飛び越えた。
「よぉし。着地成功。」
影は、声から判断して男らしい。
男はフェンスにロープを結びつけ、命縄無しで非常階段まで下りていく。非常階段に着くとロープをはずし、扉を開けようとするが・・・オートロック式なので、中からじゃないと開けられない。つまり、外からは入れないということ。
「あぁ~、ピッキングしろってか?・・・だりぃなぁ。」
だが、30秒後・・・・ピッキング終了
「・・・なんか簡単すぎたな~・・・・・おじゃましまぁす。」
男は重い扉をそっと開け、中に入った。
すばやく移動し、エレベーターの近くにある『隙間』に身体をすべりこませた。
隙間に入らないといけない理由は、分かってると思うが防犯カメラに映るからだ。まぁ、と言うことで、ここの隙間をまっ直ぐ行けば社長室のちょうど真上である 5分程たったころ・・・。
「この下が社長室かな?」
と男は言い、閉じ板らしきものを開ける。そして、慣れた感じで床に下りる。
「あってた。社長室。」と言い、まず目に入ったのは、黒い半円形のもの、防犯カメラ。
男は、ためらう様子もなくカメラに近づき黒い半円形のフタを取った。それから、中にたくさんあるカラフルなコードのひとつを切った後にふたを閉めた。
この防犯カメラはカメラと言っても『防犯予防のためのお知らせ』といった感じ。これは、赤外線でその場にいる人の動きを感知して目立った行為をした者がいれば警察に通報すると言うセキュリティーだ。 だが、セキュリティーというものには「穴」がある。この防犯カメラもそうだ。赤外線はある一定の場所までしか届かない。そのため、その一定の場所以外にいれば感知されることはない。その一定の場所の一例が「防犯カメラの後ろ」である。 こんな感じでセキュリティーには色々な穴がある。
それはさておき、男は部屋の隅にある金庫を見つけた。
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次の日。
ニュースでこんなことを言っていた。
「昨夜、また怪盗が現れました!今回は〇〇会社です」と。
その怪盗の名は・・・羽楽。
チリリリン、チリリリン! 朝からうるさい音が耳に響く。その音を頼りに「ウ~ン。」と大きく腕を上に伸ばす。この話の主人公、藤木 雲蘭のお目覚めだった。
「・・・あ~~。なぁんか変な感じ?っていうか、いやな予感が朝からするって・・・あー!!やだやだ!!きっと気のせいよ、気・の・せ・い!!」
などと、目覚めたた直後から騒がしかったが、すぐに元に戻り朝食を食べたり、歯をみがいたりして・・・ ~35分後~
「そろそろ行くか。」
朝8:30、家を出る。雲蘭の仕事は記者である。そして、今のスクープは・・・特にない。 雲蘭が車に乗って10分経った頃、仕事場に着いた。
「おっ、雲蘭!こっち、こっち!!」
社内に入っていきなり(あわただしく)声をかけてきたのは 塚本 一。
「どうしたんですか、先輩?」
「いいから、ほら、早く!!」とパソコンの画面を見せる。
「はぁ~。騒がしいですねぇ~。・・・ん?なになに、〇〇会社に怪盗羽楽参上!!って、・・・どうしたんですか、この記事?」
「いやっ、だからさ、これつかんだの、俺が最初。」
???と思ったが、理解できた。
「へぇ~。すごいじゃないですか。」
「フフン♪驚くのはまだ早いぞ。ほら!!」と言って、次のページを開く(クリックする)。 カチッ
すると、次の記事が出てきた。
「・・・!!ごっ5億円!? 5億円って盗んだお金が?」
「うん・・・そうらしいよ。でも、毎度のこと、盗んだのは〇〇会社の裏金らしいけどね。」
「へぇ~。」
怪盗羽楽が盗む物は、絶対に『悪行物』。例えば、今回のような 裏金 が代表的。
「でも先輩、この記事どうしたんですか?」
「ん?いやーさー、俺、本当は通りかかった人に[スイマセーン。なんか最近気になっていることありませんか?]って聞いたら、今俺が記事にしているやつの一部をしゃべってくれてさ。」
「ちょっと待ってください。何でその人知ってたんですか?」
「さぁ~? 俺はその話に夢中だったから、そんな事考えもしなかったなぁ。 ・・・なんか、もったいないことしてしまったなぁ。」
などと少しくじけている塚本を目の端に置き、雲蘭は胸に不快感を感じていた。
どっかで羽楽という名前を聞いた気がするのだ。 だが、それが分からない。というか、思い出せないのだ。
「誰だったっけ?」 考えていると、 どうしたんだ? と塚本が聞いてきた。
「えっ、 あ、・・・いや、なんでもないです!」
そう言うと、勢いよく出て行った。
―――2―――
ブァックション!!道のど真ん中でうるさいくしゃみをしたのだが、人の出す雑音でそこまでではなかった。男は、ニット帽(普通の)に白いV字Tシャツ、それにジーパンと靴という、とてもラフ(?)な格好をしていた。
「はぁ~、誰か俺のうわさしてんのかな?別にいいけどさ・・・。」
そうぼやくとお腹がなった。
「・・・・・・・ファミレス行こうかなぁ~?でも一人だしねぇ。・・・。」
と言ってる間にも足はファミレスに動いていた。
「いらっしゃいませー。お一人ですか?」とウウェイトレスが聞く。はい、と返事すると、ではこちらに
・・・みたいな会話をする。
「お飲み物は?」 「あー、コーヒーで。あと食い物はぁ・・・カルボナーラ。」
かしこまりました。と言い、奥へ引っ込む。
休もう。そう思い、帽子をぬいだ時・・・
「えーと・・・、立川・・さん?」
「はい?」
―――3―――
雲蘭は気晴らしにと近くのファミレスに足を運ぶ。
すると、Ⅴ字Tシャツにジーパンとラフな格好をしている男性を見かけた。別に興味があるとかそういうのではない。ただ、今まで抱いていた不快感が、その男性を見た瞬間、ふっきれたのだ。
「えーと・・・、立川さん?」
「はい?」 男が後ろを向く。
・・・・・分かった。思い出した。・・・そうだ、怪盗羽楽と同じ名前の人・・・
・・・立川 羽楽・・・。
私の中で最も怪盗羽楽と思われし人物。そして、-私の命の恩人-・・・。
『フフフ、これはチャンス!』
「やっぱり、立川さんだったのね!!」
「えっと・・・。誰でしたっけ?」
羽楽は困ったような顔をした。
「あら?覚えてないの?ほら、高校の時に助けてもらった藤木 雲蘭よ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 雲蘭が高校生だった頃の話。
部活帰り、雲蘭は一人だった。トボトボ歩いていると『ぶーーーん』・・・
「ん?」
雲蘭が後ろを向いたとたん、
「キャッ!!」
黒いバンから男が2人出てきていきなり雲蘭をバンに乗せようとした・・・。(助けて・・・誰か、誰か助けて!!) 心の中で叫んだ。だが、口を押さえられているため必死にもがくしかなかった。が、その努力も無駄だった。 もう駄目なんだ・・・。そう諦めかけた時、
「なにやってんの?おっさん達。・・・まさか、いい年してナンパァ?」j
羽楽の声だった。
(立川さん?!)
「ガギか。・・・おい坊主。邪魔すんじゃねぇ。…運べ。」
「へいっ!!」
と、部下らしき者が雲蘭を車に入れる。
「おい、この事、だぁれにも言うんじゃねぇぞ。・・・もしも言ったら・・・分かってるな?」
「うん、分かった。じゃぁさぁ、俺と会ったことも誰にも言うなよ。」
車の外から聞こえてくる羽楽のまさかの一言に雲蘭は絶句した。
(ウソ・・・でしょ?なんで、何で助けてくれないの?ねぇ!)
雲蘭は、死を覚悟した。が、そんなことを知ろうともせず車は走り出した。
(死んだら絶対怨んでやる・・・絶対に・・・!)
その思いがピークに達した頃だった。 すごい爆発音と共に車が大きく揺れ、止まった。
なんだ、どうした?などと男たちがあわてている。どうやらタイヤが破裂したらしい。やった・・・幸運が回ってきた!!などと思っていたが、不自然なくらいタイミングが良すぎる。そのことに男たちも不審に思ったらしい。
「おい、誰がやった?」
「まさかさっきの奴が・・・。」
「んなバカな。まず第一、ガキがそんなこと出来るわけ・・・」
「それが出来んだよ。 ガキにもな。」
と、男の話をさえぎって聞こえてきた声はなんと、雲蘭の後ろから聞こえてきた。
「えっ?」 後ろを振り返る。
「・・・・・・・!!」男たちと、雲蘭は驚愕した。
なんとそこには、先ほど雲蘭を見捨てたはずの羽楽が居たのだ。
「・・・っ!いつの間に!!」 と男共は固まっていたのだが、羽楽が馬鹿にしたように笑うと、 くそっ、馬鹿にしやがって!!と言い、車から降りて羽楽のほうへ向かった。
「おい。お前、名前は?」
「ん?・・・なんで??」
「なめんなよ・・・。」
「あ~~もう…はいはい、言いますよ。言えばいいんだろ。」
「早く言え。」
ジーーーッと男を睨み付けた後、渋々、「羽楽。・・・立川羽楽だよ。」
と言った。
「そら?・・・珍しい名前だな。」
「そりゃどうも。」
「なぁ、羽楽」
男は な・ぜ・か 刃物を手に取り羽楽に近付いた。
「・・・なんだよ。」
「死ねっ!!!」 と言い、襲い掛かってきた。
「はぁ!いきなりかよ!!!」
羽楽は驚きながらも、機敏に刃物をよけていた。
「クソが。なんで当たんねーんだ?!」
高校生相手に悪戦苦闘している大人に向けて、羽楽は言った。
「おじさん、そんなんじゃ俺は殺せないぞぉ。」
「何だと?!」と言った時、一瞬だけ男の動きに隙ができた。
「あっ、隙ミッケ♪」
その一言だけつぶやくと、羽楽は男のもとへ突っ込んだ。
次の瞬間「うっっ!」と言いながら男は倒れ、「卑怯な奴め・・・っ」などと言い残して、気絶した。
「おじさぁん、俺は何も卑怯な事などしてませ~ん。むしろ、あんた達のほうが卑怯だっつの。」
羽楽は気絶した男を見下ろしながらそう言った後、車の中に居たあともう一人の男のほうを向き、「お前も、こうなりたいのか?」と言った。すると ヒィ~~!! みたいな悲鳴を上げて逃げていった。
「ふぅ~。終わった・・・。・・・おい、大丈夫か?」
羽楽は車の中でいまだに ぼーぜん としている雲蘭に手を借し、中から降りさせた。
「あっありがとう。」
「いいえ。」
「・・・ていうか、なんでさっきは見捨てたのよ!!」
「ん?・・・いや、『敵を欺くには見方から』ってね。」
「何がよっ!!!」
「ハハハ・・・。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
という事が起こっていた。
「あ~、君かぁ。久しぶりですねぇ。」
羽楽は思い出したように、のんきな声で話し出す。
「藤木さんは今何の仕事しているの?」
「えっ?あっあ~、私は記者をしているの。」
いきなり言われて困った雲蘭だったが、つっかかりながらも答えた。
「へー、記者ねぇ~。ふぅ~~ん。」
と、あまり興味なさそうな返事をしてきた。
「立川さんは何の仕事しているの?」
「オレ?・・・特に。している事はしているけど、してない事はしてない。」
「は? どういうこと?」
「さぁ~?」
自分で答えて、「さぁ~?」って何なのよ。 変なの。心の中でそうつぶやいていると、
「アイスコーヒーと、カルボナーラをお持ちしました。」
「お、きたきた。・・・あの、すみません。」と、羽楽。「はい」と店員。
「えっと食後に・・・・・チョコパフェ下さい。」
「分かりました。」
そう言って、ウェイトレスは奥へ引っ込んだ。
「よく食べれるわね、そんなに。」雲蘭は、まじまじと羽楽を見る。
「え?そうか?普通と思うけど・・・。」
それからというものの、黙々と食べ続け・・・・・・・・・・・・・一食を食べ終えた頃。
「チョコレートパフェお持ちしました。」 「ありがと。」
羽楽がお礼を言うと店員は、顔をポッとなんとなく赤らめ、奥へ引っ込んだ。
そんなことを知るはずもなく、「うまそぉ。」などといって、羽楽はバクバクとチョコパフェを食べ始めた。そんな羽楽を見ながら雲蘭は思った。確かにカッコいい。高校の時はそこまで見てなかったから、というより、あまりにも目だたな過ぎで助けられるまで存在自体を忘れていたから分からないが、高校の時もカッコよかったのだろうか?
そうやって心の中で格闘していると、「ごちそうさまでしたぁ♪」という声が聞こえてきた。見ると、チョコパフェが入っていたはずの容器が空っぽになっていた。
「ハッハハ・・・・・・すごいね。」
そして、ふとある事を思い出した。
「ねー、そういえば怪盗羽楽って知ってる?」
雲蘭は羽楽の反応を見るために、いきなり聞いてみた。
「あ~、今朝ニュースで言ってたやつね。知ってるよ。俺と同じ名前のやつだろ。」
と、全然動揺しなかった。
「あ、そう。・・・すごいわよね~、痕跡が一つもないなんて。」
「へぇ~。痕跡、一つもないんだ。」
「あれ?知らなかったの?」
「うん。ニュースは最後まで見ない派だからね。」
「ふぅ~ん。」
「それじゃぁ、俺は行くね。・・・・・あ、お会計は自分でするから。」
といい、・・・行ってしまった。
「家の場所か、メーアド聞いとけば良かった。」
そう思いながら店を出た。
「今日は裏道を通ろうかな。会社にも近いし。」
と言い、裏道を通っていると、
「おい、立川 羽楽ってのはどこにいる?」
いきなり壁の影から男が数人現れた。
「あっあなた達、誰よ。」
雲蘭は後ずさりした。
「俺たちの名前をお前に教える義理などない。それより、立川 羽楽はどこだ?」
「んなこと知る訳ないでしょっ!!」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃないっ!!」
雲蘭は言い張った。
「本当に知らないらしいな。 では、質問を変えよう。さっき一緒に居たやつは立川 羽楽か?」
これは困った。さっき居たのは間違いなく立川さん。 だが、これは素直に答えてもいいのだろうか。
黙っていると、「どうしても口を割らないようだな。」と言って、胸元から出したのは・・・『拳銃』。
そして、それを腹に押し当てる。それと同時に雲蘭の両手首も後ろで捕まえられる。
「っっ!!」
「ほら、早く言え!!」
怖かった。だが、雲蘭は首を横に振った。
「このヤロッ!!」と、一人の男が言い、頬を殴ってきた。
「痛っ!」
口の中に血《鉄》の味が広がる。
さすがにやばいと感じ、必死にもがく。
「兄貴、こいつちっとも言いませんぜ。」
「そうだな・・・よし。車に乗せろ。」
と言い、親指で車を指す。
「やめてっ!放してっ!!このエロ!スケベ!変態!!オヤジ共!!!」
罵声を言うが、男たちは鼻で笑う。 ムカついた。
だが、両手首をつかまれているから逃げるすべがない。
(あ”~~~~!!もうっ、また私は捕まる身になってしまったの?高校の時もじゃない!!最悪!あっでも、高校の時は立川さんに助けてもらったから良かったけど・・・)
もう疲れた。駄目なんだよもう。 さよなら今までお世話になった人。そして、私。
この世に別れの挨拶をした時だった。
「あーあ。女の子一人にそんなに群がっちゃダメでしょ。」
「だれだぁ、お前ぇ?」 一人の男が言う。
「俺? 俺はねぇ・・・・・・・・・・だぁーれだ。」
なめやがって!! 男たちは身構えた。
「来るの?来ないの? さぁ~どっち?」
その声とともに標的が、雲蘭から、謎の男へと変わった。
―――next―――