クズの素敵な一日
この話はフィクションです。
またこの時間に目が覚めてしまった。
きっと昨夜なにも食べずに寝たからだな・・・。
辺りを見るわけでもなく見渡す。
ベッドから見える様子はいつもと変わりなし。
ほど近くに置かれたテーブル。その上にはノートパソコン、他にタバコ、灰皿やらテレビのリモコンなどが乱雑に置かれている。
散らかった洋服、溢れ返ったゴミ箱、宅配ピザの箱などなど。
時計がないのでいつも通り起動したままのノートパソコンを見る。
時刻は朝の4時20分。
今日も一日が始まってしまう。
手帳の代わりにしている携帯電話を確認する。
12月10日・・・。いつも通り予定はなし。
予定は未定。まったくもって素敵な言葉だ。
人生も同じだろ?先のことなんてわかりっこないし大切なのは今を満足させること。
とりあえず今の俺に必要なのは食事。腹が減っては戦はできぬって言う格言?もあるしね。
まずは飯でも食って、それから今日を始めよう。俺の12月10日は食事から始まるんだ。
ボーっとした頭を目覚めさせるように掻きながら起き上がる。
目覚めの一服。至福の時間である。
おはよう俺の脳味噌。
おはよう俺。
おはようすべてのクズ野郎。
恒例の儀式を終え、今日を始めるための準備でも始めようか。
と、そこで飯がなにもないことに気づいた。
しまった。昨日のうちになにか買っておくべきだった・・・。
昨日の俺のバカ!
なにをしていたんだ昨日の俺は・・・。
昨日は・・・ダメだ。思い出せない。
でも、重要なのは昨日なにをしていたかということではなく、今飢えに飢えている俺の腹を満たすことだ。
コンビニ・・・は往復40分かかるし却下。
出前・・・もダメだな。こんな時間にやってるわけもないし。
あー、すごいうどんが食べたい。
そばじゃダメだ。ラーメンでもダメだ。
ものすごいうどんが食べたい。
うどんが食べたい、うどんが食べたい、うどんが食べたい、うどんが食べたい、うどんが食べたい。
というわけでうどん屋が開くまで朝飯は待つことにしよう。
なんだ、もう5時30分か。
とりあえずシャワーでも入るか・・・。
こうして今日も一日が始まってしまった。
さっぱりした頭と体を拭きながらカーテンを開ける。
空は雲ひとつない真っ青な快晴だ。
寝巻きから着替え、気分も一新してまた一服つける。
やっぱりこの時間が気持ちいい。
空が青いと心も自然と晴れ上がっていく気がするのはみんな同じだろ?
そこに自分の好きななにかをプラスした時こそ最高の時だと思う。
今日はいいことがありそうな気がする。
こんな気分を表わすには・・・音楽だ!
選んだ曲はBob MarleyのThree Little Birds。
・・・やっぱ音楽は最高だ。
人類最大の発明である言葉。言葉を最大限活用した最先端の技術でこの先も変わらないモノ。
やはり音楽は最高だ。
ジャンルはいろいろあるけど自分に合うものをチョイスするといい。音楽である以上それは変わらないんだからさ。
ロックにポップス、ヒップホップにテクノ、スカにジャズにソウルに・・・。
あげればキリがないけどみんな愛について歌ってるだろう?
ミュージシャンも会社員も総理大臣もどっかのお偉いさんも、最近では小学生も赤ちゃんも知っているけど俺たちは愛がないとダメなんだよね。
だから俺は恋人に友人に家族に、これを見てくれている人にも愛を届けなきゃって毎日思うわけだ!
かれこれ恋人どころか気になる女性も6年程いないんだけどね。
・・・少し話が反れたけど音楽はその歌詞に、メロディーに共感できればそれはもう最高だ!
理屈じゃないなにかがそこにはあるんだよ。
楽しみ方はそれぞれだし決まった形もないけど、そこに気づいたとき君の心の中にはもう音楽が入ってきてるんだぜ。
中には商業目的の内容のない音楽もあるけど、そこは君の耳と心で判断してくれ。
音楽とはそうやって聞くものなんだ!
ここで音楽に馴染みのない君にオススメしたいのはレゲエっていうジャンルの音楽。
これだけ言っておいて申し訳ないけど、正直俺も音楽の詳しいことはわからないんだ。
ただ、このレゲエはジャマイカっていう俺が生きている日本よりも貧乏な国で生まれた音楽で、過酷な環境だからこそ生まれるメッセージが詰まってる音楽なんだ!それだけは間違いなく言えること。
気になった人はジャマイカについて調べてみるといい。
どんなことを歌っているのか気になってきた人もいるかい?
そんな君にはBob Marleyをオススメしておくから興味があるなら聞いてみるといい。
好きなことに没頭していると時間の感覚はなくなって、漠然と充実したという結果だけが残るもので時刻は8時少し前。
ようやく遅い朝食にありつける時間だ!
いい加減にしろと腹の悲鳴が聞こえてきたところでお目当てのうどん屋に向かうとしよう。
朝からご機嫌な今日の俺にはすべてが新鮮に見えるんだ。
いつも歩く駅までの道のりでも目を凝らせば違った景色になる。
雲がないせいどこまでも遠くまで見えるし、行きかう人の顔から何を考えているかなんてこともわかってくる。
意識ってするもんじゃなくてしてるものなんだなと思わせられる。まったくこの世はハッピーだ。
あと数分もすれば俺の胃袋ちゃんも陽気になるだろうし、今日はいいことづくしになりそうな予感がプンプンするぜ。
そう俺は今この瞬間生きているんだ!
「いらっしゃい!」
陽気な声に迎えられ店内へと入る。
店員は2人。いつも見るおっちゃんとおばちゃん。
どうやら一番乗りのようである。まぁ混んでるところなんかみたことないんだけどね。
しかしTHE昭和!といった内装は当時を知らない俺でもどこか懐かしさを覚えるような雰囲気でたまらない。
俺が注文するのは大体肉うどん。
ダシは~で自慢のうどんは・・・なんてことを気にするのはやめてくれ。俺には繊細な味の違いなんかわからないし、グルメになろうなんて思ったこともないんでね。
評価の仕方は簡単、うまいかまずいか。
命あるものをいただいているんだしそんなもんでいいだろ?
では、いただきます。
馴染みのうどん屋を後にして帰路につく。
当然この先も予定は未定。
とりあえずDVDでも借りようかと思ってブラり駅前へ向かうとしよう。
自販機でコーヒーを買いタバコに火をつける。
まったく、愛煙家の俺としては昨今の禁煙ブームはいい迷惑だよ。
値上がりはするし、少ない喫煙スペースで吸っているだけなのに嫌な顔をされる。
人から嫌われたりなんてのはどうでもいいんだけど、自分のルールを大衆というある種武器じみたものを盾に俺に押し付けるのだけはやめてくれ。
俺は静かに生活がしたいんだ。
と、考えている間にもまた嫌な顔で見られる。まったく民主主義の中で少数派はいつだって悪だ。
Dear世界中の愛煙家たちへ。
なにが正義で悪なのかを見極められる目を手に入れよう!
少数派が悪いんじゃない。あいつらは理解しようと努力をしていないんだ。
わかるやつにだけわかればいいっていう時代でもないから俺たちは火をつける。
もちろん俺たちが頭ごなしにあいつらを批判してるわけじゃないってのはわかるよね?
平和と愛、そして互いの手をとりあうこと。それだけで世界は変わるはずさ。
Can we change?
Yes, we can.
なんてことを考えている間に煙は空へ消え、残ったのはけだるさとコーヒーの空き缶。
そしてクライアントからの着信通知。
さて今日も働くか。
めんどくせ。
「もしもし?あ、お疲れ様です!」
用件は知ってる。だがここでの対応は基本どおり。
「今大丈夫ですか?タカ君今日なにしてます?」
予定は未定。まぁ予定が合ったとしても自分の都合のいいようにしか動かないヤツなのは知ってる。
「マジっすか?だったら今日昼過ぎにそっち行ってもいいっすか?」
ここで商談成立。軽いもんだ。
「了解です!また連絡します!失礼しまーす!」
さ、アジトへ向かおう。
アジトへ到着。
待ち合わせの時間まで時間があるし借りてきたDVDでも見るとしようか。
どうせヤツは時間通り来ないし問題はない。
ここは通称アジト。いわゆる俺の別宅でせまいがテレビ、冷蔵庫、風呂もあるし普通に生活だってできる。
だが、いかんせん仕事のためにある場所なのでそれ以外のモノは特にない。長居はされたくないのだ。
今日の客は28才の会社員で横浜で一人暮らし中。俺より4つ年上だがなぜか俺のことを君づけで呼ぶ。年上だと思っているのかもしれない。
めったに連絡はこないが、たまの連絡が来ると大きい買い物をしていくいわゆる太客だ。
それ以外の情報は聞いたのかも知れないが覚えてはいないし、もちろんヤツも知らない。
知らない方がいいこともある。暗黙の了解ってやつだよ。
ヤツにとっての俺は、ヤツが求めるものを提供するディーラーのタカでヤツはそれ以外の俺を知らない。
ん?着信だ。
さぁ、仕事の時間だ。
「お疲れ様です!今近くなんですけど・・・」
「はい!今行きます!」
呼び鈴が鳴り確認する。
間違いないヤツだ。
「お疲れ様です!いやータカ君久しぶりですね。」
『だな。最近元気してた?』
「まぁぼちぼちっすね。でもこないだ仕事でちょっとミスっちゃって・・・。」
先月もそんなこと言ってたのは覚えている。もしかすると先々月も言ってたな。
『なに?また例の上司になんか言われたの?』
「そうなんすよー。なんかもう前回の件で完全に嫌われちゃったみたいで・・・。もう仕事やめようかって思ってるんです。」
『そうなんだ。やってらんねーな。』
「ホントですよ!本当にちょっとしたミスなのに・・・」
さんざん弱音を吐き散らかし、俺は悪くないと遠まわしに説明する。
それを俺に言うようじゃまだまだってことだよ。
世の中甘いことばかりではない。一度のミスが命取りになることだってあるのだ。
だけど俺は知ってる。
人は一人では生きていけない弱い生き物だ。
そんなヤツに手を差し伸べてやるのも優しさってもんだろ。
『大変だね。まぁとりあえず一服つけようか?』
「いいんですか?ありがとうございます!」
用意しといた物を見せると目の色が変わる。
そう俺たちの関係は友達じゃない、客とディーラー。
一服つけてからが商談の開始だ。
「今回のもヤバいっすね。」
『ありがと。まぁ俺が持ってるのに変なのは一切ないよ。混ぜ物も一切なし。』
「ヤバいっすね!」
『当然だよ!クスリなんか死んでもやらない。いくら金詰まれてもムリ。』
「クスリはダメっすよね。」
『そうだよ。手出したら最後。人生終わるよ?人が作り出したものだもん。エコじゃねーよな。』
俺はそれでダメになったやつをたくさん知ってる。
さらに言うなら俺はそれを経験もしている。
だから俺には自分の客にそれを伝える反面教師としての使命もあるのだ。
「間違いないっす。あ、タカ君それどうしたんすか?」
DVDを指差す。
こいつ話聞いてるのか?
『あぁ、さっき借りてきた。』
「うわーこれ見たかったんすよね!どうだったっすか?」
『なんかいまいち。オススメはできないな。』
「マジっすか?ってか映画とかよく見ます?俺めっちゃ映画好きなんすよ!」
相手の話も聞かなくてはならない。
相手を理解していないとトラブルの元になるからな。
商談は大変だ。
しかしめんどくさい。
『へー、そうなんだ。』
「こないだアレ見てきたっすね。あの今やってるやつ。えーっと・・・あの3Dのアレっす。」
『あーアレか。俺普段あまり映画見ないからな。』
「マジっすか?いやでもアレはよかったすよ!なんていったっけなー・・・。思い出せそうにないっすわー。」
『ははは。』
そろそろいい時間だな。
おもむろに商品を手に取る。
ヤツも様子を察知したのか軽く身構える。
日本人の美徳だね。
「にしてもこれいいっすねー!やっぱタカ君のヤバいっすよ。」
『今日何個かもってく?』
「いいっすか?」
『全然問題ないよ。最近大変そうだし息抜きも必要じゃん?』
「間違いないっすわー!ホント・・・」
急にうつむき静かになる。
考え込む時間じゃないぜ?
『おいおい、そんなネガティブになんなって!せっかくいい気分なんだからさ。お前がやることやってたら、ムカつく上司もなんも言えないんだから。わからないやつにはわからしてやんだよ。』
商談も大詰めか。
「でも、あの人は・・・」
『でも・・・とかじゃなくてさ、やることやればいつか認められるって。それでわからないヤツがいたらそいつがよっぽどのバカってことだよ。俺たちには可能性がある。』
俺がなにかを伝えるときそこに嘘はないんだ。
人と人をつなぐのは言葉で、言葉には心がある。
心で話してわかるヤツに嘘はいらないし嘘はバレるからな。
心が伝わったときって言葉はなくなるもんだよ。
「・・・・・。」
『こいつもそうだよ。わからないやつが世界の大半じゃん?でも知ってるやつは知ってる。昔の人も知ってた。今世界の大半の人間も知ってんだよ!・・・まぁそういうことだよな。』
うつむいた顔を上げ言う。
「確かに・・・。そうかもしれないですね!」
『用は気の持ち方だよ。元気出しな。』
「いやー、タカ君まじで尊敬します!」
『ありがと。それじゃあどうしようか?』
「申し訳ないんですけど30個お願いしてもいいですか?」
『OK。ちょっと待ってね。』
秤を用意する。
ここで商談の成功は決まった。
今回もまとめて買っていってくれる。やっぱこいつは太客だ。
尊敬します。
『27,28,29・・・30!ちょうどね。』
目の前で数を確認する。
中には疑り深いヤツもいるんでね。まぁこいつはそういうヤツじゃないけど。
「ありがとうございます!なんかこれからやれそうな気がしてきたっすね!」
『そう思えたならお前はやれるよ。頑張ってくれ。またなんかあったら連絡してきなよ。』
金を受け取りヤツが出て行ったのを見届ける。
午後3時ちょい過ぎ。
一服つけた後俺も帰宅するとしよう。
昼は暖かかったのにさすがに冬のこの時間は冷えてくる。
冴えてるのかボケてるのかわからない頭で今夜の晩飯はなににしようか考える。
昨日はなに食べたっけ?
昨日は・・・ダメだ。思い出せない。
ただ、今の俺はもうれつにラーメンが食べたい衝動に駆られている。
うどんでもそばでもなくラーメンが食べたい。
ラーメンが食べたい。ラーメンが食べたい。ラーメンが食べたい。ラーメンが食べたい。ラーメンが食べたい。
人生は今の繰り返しである。なんてことを思いながら足早にラーメン屋へ行くことにした。
初めての作品で作品と呼べないレベルのものですが読んで頂いた方へ最大級の感謝。