現在、姉は危機にあり
9/1後日談追加。
あははははははは。もう笑うしかないわ。
寄り親の伯爵様から紹介された婚約者が平民と駆け落ちしましたよ。
先程お相手の男爵家から連絡と詫びが入った、と父様が言ってます。
なかなか相手が決まらなかった一番下の妹が先日めでたく婚約成立、
これで六姉妹全員、嫁入り先が決まったねと喜んでたところでした。
久々に姉妹全員が揃って団らんしているところにこの急報ですよ。
父様が急に伯爵様に呼び出されて、わたしだけ執務室に呼ばれ、
それでもってこの逆転劇。あと一月もすると王立中央学院の卒業式。
わたしの将来どこで迷子になった。
◆
父様が伯爵様から聞いてきた話と、お相手の男爵家の手紙によると。
本来わたしの卒業を待って同居するはずだった男爵家の嫡男。
お互い政略結婚とはいえ、そう悪い関係ではなかった…はずである。
現に何度もお茶会もやったし、二人きりの町中散策もやっていた。
ただわたしが未成年という事で、婚前交渉は合意の上お預けだった。
どうやらあちらさんは、そこがいたくご不満だったらしい。
お相手は花屋の娘さんと書いてあった。
事もあろうにわたしに贈られた花束は、そこで買われたものだとか。
わたしに対してどういうつもりで花束贈ってたんだ、あの男は。
まさか服飾店や宝石店でも店員さんにやらかしてないよね?
花束購入の度に長々とお話して意気投合、夜は結合ですか。
そのうち子供が出来てしまい、悩んだ挙句二人で国を出たらしい。
向こうの家に書置きが残っており、いきさつも書かれていたそうな。
うちと異なり元お相手の男爵家は、小さいながらも領地持ちだ。
財産の面では法服貴族のうちより余裕があるだろう。
幾ばくかの金品が、あちらのお家からなくなっていたそうな。
多分馬車での逃亡資金と後々の生活に使われる予定なんだろう。
行き先は都市国家同盟と聞くが、そこに留まるかは分からない。
伯爵様もあちらのお家も面子丸つぶれだけど、探しようもない。
今更連れ戻されてきても、こちらも御免被りたい。普通に無理。
しかしまあ、元婚約者の件は置いておこう。
次の婚約者を探さないとまずい。この家は最愛の末の弟が継ぐし。
元婚約者のお家は、まだ相手のいない次男君が継ぐのだろうが、
次男君はまだ七歳でわたしは十四歳、婚約者となるにはちとキツい。
寄り親の伯爵様からもお詫びと相手探しを再度してみよう、と、
ありがたいお話が入っているけれど…難しいだろうねえ。
今回駄目になった相手すら、二年ちょっと探して見つかったし。
かと言って今から就職も難しいのよね。卒業即同居予定だったから。
成績はそれなりだったんだし、就職してから同居にしておけばなあ。
◆
翌日モニョモニョした気持ちのまま、王立中央学院に戻る。
まだ授業も卒業試験も残っているのだ。やるべき事は多い。
さらに婚活まで増えた。なんでしょうかね、これ。
愛しい末の弟は「ねえさまがいてくれるとたのしいです」などと、
心とろけさすような可愛い事を言ってくれたのだけど。
さすがに甘えてしまう訳にはいけないのよ、ねえさまとしては。
物語なんかだと、どこかの年寄りの後妻に入ったりするんだけど、
うちの父様は娘達に対してそういった仕打ちはやらないだろう。
多分寄り親の伯爵様もそうだ。時間をかけて相手を探してくれた。
まあその結果が、下半身の疼きに耐えられず駆け落ちなんですが。
いっそあの同期の有名人、発明男爵様に接近してみるとか?
いやダメだ。彼は宰相閣下のお嬢様のお気に入りと聞いているし、
そんな所に怖くて割り込めない。第一ほとんど面識ないし。
一番下の妹みたいに、突然優良物件が現れないものだろうか。
そんな事を考えつつ次の授業へ向かう。
ん?掲示板に新しい告知が張ってある。
「王国財務局文官、臨時募集のお知らせ」だと…?
何でも王国商工会とのやり取りに必要な文官が足りなくなったと。
その為採用枠を急遽増やす必要があるのか。…やってみるか?
ここで職を得れば、結婚まで少しは余裕が出来るはず!
よし、授業が終わったら即申し込みに行くぞ!
◆
むう、忙しい。こんなに仕事が多いとは思わなかった。
卒業後すぐに財務局の文官になれたけど、次々仕事がやって来る。
お給金は良いので、ついつい弟に色々買ってあげてしまうけど、
なかなか一緒に遊ぶ暇が出来ない、うう。
部署の人達はほぼ全員妻帯者で、上司以外は平民がほとんどだし、
ますます結婚までの道のりが遠ざかっている気がする。
こんなでは職場でお相手探しは無理だろうなあ。
まあ、いいわ。当面お相手が見つかるまでは仕事頑張ろう。
わたしの最愛は弟だ!
◆
後日の事。
午前中の仕事が長引き、今は併設の職員食堂で遅めの昼食だ。
手助けしてくれた先輩に自虐ネタとして元婚約者の話をしている。
「うはあ、お貴族様は大変だなあ。十五歳でそうなのか。
俺みたいな平民だと、婚約者の家がー、とかないからなあ。
後先考えてない訳じゃないけど、難しくも考えないし」
「あははは、末端の貴族でも色々あるんですよ。
わたし三女なんで、扱いはそこまで重たくないんですけどね。
結婚相手も出来れば貴族が良かろう、という程度で。
でも先輩、先輩ももう準貴族ですよ?
下級文官なら一代騎士扱いじゃないですか」
「あ…忘れてた。自分の事だけどなったばっかりで慣れないわ。
夜会だー、とか式典がー、とかやってないからなあ。
叙爵式典だけだよ、貴族っぽかったの」
「なるほど。
ん…?先輩は一代騎士?確か独身ですよね?」
「お、狙われてるか?俺。
ふふん、良かろう、狙ってくれたまえ。
自分で言うのもなんだけど、優良物件だぞ?」
おっ、言ったな?狙うぞ?狙っちゃうぞ?
四つ年上なら、先輩は充分射程圏内だからね?覚悟するがいい。
「六女ともなりますと」の三女さん。強くイキロ。
財務局が忙しくなったのは、主に発明男爵様のせい。
三女さんの将来、投げっぱなしもつらいので少しフォローをば。




