ユウメのお願い
その日の夕方、勉強を丁度一区切りしたタイミングで家の扉がノックされた。
「はい?」
「管理人さーん、ユウメよ〜」
どうやら起きたユウメが訪ねて来たようだ、ドアを開ける。
「どうし……わっ!」
縁は反射的に目を閉じた、普段着なのかパジャマ扱いなのかランジェリーが透け透けな布を纏っただけの非常にセクシーな姿のユウメが居たのだ。
「あのね管理人さん、お願いがあるのですわ〜」
「いや、その前に僕のお願い聞いてくれます……?」
「あら?どうしたのかしら?」
「あの、もっと隠す服を着てください……」
縁に言われユウメは自分の姿を確認し笑う。
「んもう、今更じゃないですか〜大丈夫ですよ〜」
明らかに大丈夫じゃない気しかしない縁だが、怖いもので女性に囲まれて生活する内に麻痺しているのかすぐに諦めた。
「とりあえずどうぞ……」
部屋前で色気を放たれても勘違いされてしまうだけだ、ユウメを部屋に招いた。
「で?お願いとは……?」
「そうそう、明日街の方について来て欲しいのですわ」
「街?山向こうのですか?」
「そうよ〜お仕事があるの〜」
確か前回ニューヨークに行っていたが、今回は山向こうの街らしい。
「今回は日帰りですけど車を出して頂けると助かりますわ、もちろんお仕事なので報酬も出ます〜」
「そりゃ構いませんが、前回とえらい違う場所なんですね?」
ユウメはクスリと蠱惑的な笑みを見せて言う。
「お隣の街で定期的にファッションショーのお手伝いをするのですわ、是非管理人さんに見せてあげたくて」
ファッションを理解出来るかが怪しいものの、依頼なら基本的にお受けする心情の縁だ。特に悩まず頷いた。
「やった〜皆可愛いので気に入りますわよ〜」
(ファッション見に行くんだよな?女の子じゃないよな?)
少し思い描くのと違うファッションショーなのか疑問に思う縁だが、見れば分かるだろうと自分を納得させる。しかし、そんな場に相応しい服を持っていない。
「あの、ユウメさん僕そんな会場に着て行く服は無いですけど……大丈夫ですか?」
「ああ、心配には及びません事よ。明日行く所は普段着で大丈夫ですわ〜」
「なら良いのですが……」
「私は用意があるので服の保管スペースに寄ってから会場に行く流れになりますので」
「服の保管スペース?」
「ええ、職業柄物が多いので各地の貸しクローゼットに保管してますのよ」
さすがにそこはモデルさんだ、やはり幽荘には入りきらないのであろう。
「では明日早いですが、朝六時に出発して夕方には帰る流れになります〜」
結構フル稼働だ、だが縁が幽荘に来る前の車が無い時は前日に出たりしてたのだろう。つくづくこの場所は山の中である事を思い知らされる。
ユウメとの話も終わり簡単に夕食を済ませて、ドラム缶風呂の番をする。
この火の番も順調にいけば明後日に終わる、少し寂しく感じる縁だった。
この日最初に来たのは狐音であった。
「ホッホッホ今日もよろしくじゃて」
「あー!もう脱衣所があるんだからそこで脱ぎ始めて下さい!」
やっぱりここの、特に狐音とユウメのお姉さん二人は気を付けないといけない。
「まだまだウブなままじゃの」
何か貶されたような気もするが、縁は間違って無いはずだと信じている。
ドラム缶風呂に使った狐音にユウメからの依頼を話てみる。
「——って事で明日は夕方まで街に出ますね」
「なるほどのう、ユウメがあそこに縁を連れて行きたがるとは……信頼されとるよお主」
「そうなるんですか?」
「そうじゃ、普段のモデル業では海外に出たりもするが山向こうの街でやるショーは特別での。まあ何も考えず感じてみるが良いぞ」
特別な事だと狐音は言う、明日は何が見れると言うのだろう。
その後も皆が入れ替わり立ち替わりで風呂に入り、最後は縁が。火の番はネコメとなった。
湯に浸かりながら星を眺めていると、壁越しにネコメが話しかけてきた。
「ユウメさんのファッションショー楽しいよ」
「ん?ネコメちゃん行った事あるんだ?」
「うん、皆を綺麗にするのがユウメさん上手いの」
「皆を綺麗に?ユウメさんが綺麗になるんじゃなくて?」
ファッションショーのモデルなら、前に出るユウメが一番綺麗にされるのではないだろうか?
「ユウメさんも綺麗だけど、そのファッションショーは特別なの」
先に話した狐音も「特別」と言っていた、やはり通常のショーとは違うのだろうか。そもそも縁はファッションショーをテレビでしか見た事が無い。
「お兄ちゃん、写真撮って見せてね」
「ああ、わかったよ」
明日どんな事になるのか楽しみと不安が半分ずつ芽生えてきていた。




