狐火酒造
全員では無いが一通りまとまった、ホームセンターと酒造に向けて出発である。
軽トラを動かし街を目指した縁は、初めて仕事をしている気分になった。
幽荘を出発して山を越える事小一時間、ホームセンターに到着した縁はネコメの蛍光灯サイズとヘビメの棚板サイズを慎重にチェックして購入。
(こういうのって物凄い不安になるよな)
買う為に来たホームセンターで買っても大丈夫なのかの不安に駆られながら、コーヒーを飲んで休憩をする。
(前回はネコメちゃんと一緒だったな)
ソフトクリームにご満悦の笑顔が忘れられない、感情は控えめだが甘えてくる妹系だ。
対してヘビメはツンツンした物言いだが悪意は感じられない、アーティスト肌と言うか尖ってる感はある。
どちらもこの数日で距離は近くなった気もするが女の子なのであまり近くなりすぎても困るだろう。
(気を付けねば、あんな女性だらけのアパートでやらかしたら裁判では済まない)
気合いを入れて次の目的地を確認する。
「っと、そんなに離れてないか助かった」
マップによれば二十分程で着きそうだ。狐火酒造と書いているがどんな所なのかイメージが湧かない。
縁はお酒が飲める歳だが、飲める歳になったばかりで晩酌したりはしないのだ。
(浪人してるから飲み会とか無いしなぁ)
ともあれ、初の酒造行きにワクワクはしていた。
ホームセンターを出てしばらく運転すれば見えてきた看板「狐火酒造」
思ってたより大きく、裏手に蔵のような建物もある。小さいが駐車場まであるのは珍しいのでは無いだろうか?
車を停めて店の外観を眺める、和と歴史を感じるお店に少し戸惑ってしまう。意を決して中に入ってみる。
「ごめんくださーい…」
店内の明かりは点いてるが人が居ない、奥に居るのだろうか?「困ったな…」そう呟いた時…
「あらお客さん?」
意識してなかった背後から声がしてビクッとしてしまう。見えてなかっただけかと声をした方を向いて縁は目を見開いた。
「見ない顔やね〜お酒買いにきはったん?」
「え…?いや…狐音さん?」
目の前に立つエプロン姿の店員が狐音である。
だが、少しだけ雰囲気が違う。
「あれ?あなた狐音の関係者?そりゃ驚くわね」
カラカラと笑う姿はどう見ても狐音だが…
「あたいは狐子、狐音と双子なのよ」
双子、どうりで似ているどころか立っているだけなら見分けが付かない顔だ。
「おにーさんお名前は?」
「あ、紬 縁と言います、今狐音さんと同じアパートの管理人やらせて貰ってて…」
自己紹介中に狐子の目が変わる。
「え!?幽荘の管理人!?ついに来たんだ!」
凄いテンション上がってるが喜ぶ事なんだろうか?
喜ばれる事自体は悪くない気持ちではあるが…
「狐音だらしないから管理できとらんでしょ?大変やけど上手くやったってな!」
(双子からだらしない認定されてるのか狐音さん)
とにかく狐火酒造に来た目的を果たさなければならない。メモを取り出し狐子へと伺う。
「その狐音さんから頼まれて来たんですが、このメモの物揃いますかね?」
「どれどれ、ふむふむ、あちゃー」
あちゃー?何が?怖い。
「全部あるよ、でも結構な量だけど大丈夫?」
「あ、軽トラなんで…」
「なっ!ついに幽荘に車が…時代は変わったのね…」
そう言えば歩いて一泊する買い出しとか言ってたような、時代は変わったとはまた大袈裟な…
「しかし車と男手が入ったとなると狐音のやつ更にぐうたらになりよるなぁ」
「はは、でも色々教わってますし」
「本当に?まあおにーさんなら大丈夫かな」
何を見て大丈夫と言えるのかはわからないが良しとしよう。
「じゃあ商品集めてくるし座って待っとりな」
狐子は店内をメモ見ながら歩き回りカゴに商品を詰めていく、予想通り酒ばかりだがいささか量が多い。
「あいつここぞとばかり溜め込むつもりやな…」
狐子のボヤキは狐音に向けたものだろう。
みるみる内にカゴが満杯となり追加のカゴも出てきた。自分が来る前はこれを持って山を越えてたのか?心配になるレベルである。
「ふぃーこれで全部ね!」
カゴ二つ分満杯の酒である、一人で飲むのか?確か歓迎会の時も一升瓶空けてたけど…
「ありがとうございます、とりあえず目的は果たせそうです」
「うん、良かった良かったまた来てな!皆の様子も聞きたいしな!」
「皆知ってるんですか?」
「変わっとらんかったら狐音、ユウメ、スズメ、ヘビメ、ネコメやろ?」
「変わってないです」
「やろ?皆癖あるけどよろしくしたってな!」
バンバン背中を叩かれながら激励される。この距離の詰め方は双子だなと思える。
酒を軽トラに積み込んで後は帰るだけだ、途中で警察に捕まったら言い逃れ出来ない量の酒が積まれてる。
「ほなまたな!まっとるよ!」
狐子さんに会釈をして車を発進させる。
思わぬ出会いがあったが、今後もお世話になりそうだ。主に狐音のお使いで。
広がる世界に高揚しながら帰り道のハンドルを握った。




