とある青年の日曜日
青年は考える。変わり行く季節の移ろいに、変わり行く自分の環境に。何が待っているのか。自分が何者になろうとしているのか? 不安というのは、得てして無知、不確定なもの、不可視な何か。怯えることは誰にだってできる。が、克服、つまり不安への対処を率先してできる人間は多くない。少年は、変わらない日々だったものが、不確定なものになっていくことに不安を覚えた。
千の日曜日は六時に始まる。スマホのアラームが鳴り響いて、たたき起こされた千。二段ベッドの上段で寝ている千にとって梯子を下るのが朝一番の運動なのだ。腕を大上段に挙げて伸びをして、めいいっぱいにカーテンを開ける。四月中旬のこの頃、六時には外は明るみ、小鳥のさえずりが聞こえてくるようになってきた。一つ一つと、何かが足されていく季節。
自室を出て母親の寝室前を右折し、階段を下る。母親の寝室からはすでに目が覚めていたのだろう、飼い犬のモナの、床を蹴る爪の音がした。階段を下った先は玄関で、その反対側の廊下の先には、リビング、キッチンがある。
キッチンに向かってリビングを横切る。キッチンの左角の冷蔵庫から食パンの八枚切りを、さらに半分に切ったものをオーブントースターに投げ込んだ。三と四の間ぐらいに分数のつまみを合わせ、千二百ワットで温め始めた。やかんからお茶をステンレス製のコップに注ぎ、ようやく息をつく…………
――チンッ。小休憩の終わりの合図だ。十六分の一の食パンをオーブントースターから取り出してマーガリンを塗り付ける。次いでいちごジャムも塗り付けた。
千に朝食のこだわりはない。小学校ぐらいから、いつも変わらない朝食、食パン。摂ったほうがいいから、食べる理由なんてそんなものだ。
朝食を終えて、食器を片付け、キッチンを後にする。洗面台へはキッチンとリビングの仕切りに沿う廊下を通ればすぐだった。三面鏡の右の鏡を開き、歯ブラシを取り出して蛇口から出る水で濯ぐ《ゆすぐ》。ミントの歯磨き粉を小指の爪ほど出して口に含んだ。
四、五分磨いてコップ一杯のぬるま湯で口を漱いだ。そのぬるま湯になるまでの微妙な冷水で顔を洗うことも欠かさない。
もう一度、キッチンに向かってステンレス製のコップにお茶を注ぎ、今度はリビングに向かった。大学から借りてきた文庫本がリビングの長机の上に置かれ、昨夜使っていた調味料、コップ、母の飲んでいた缶ビールが残っている。乱雑に置かれた食器や調味料を横目に本をとり、開いてL字のソファに座り込んだ。
六時半ごろ、母親とモナが降りてきた。モナは散歩に行くのが待ちきれないのか玄関をうろうろしている。よたよたと正反対の、寝起きの母はコーヒーの準備をして散歩に出かけた。千も後についていく。
変わらない散歩コースは四季折々の変化がある。
「桜散ってもうたなあ」
母親の美和子は返事を期待するでもないような、曖昧な調子で言った。
「そりゃあ、この前の通り雨のせいだろ。もう入学式も入社式も終わったんだ。十分持ったほうだ」
「そうね……」
会話が途切れたからと言って気まずいとかはない、でも「――寒いな、今日」
「カーディガンでも着てくればよかったでしょ。この前買ってあげたじゃない」
(こんな、他愛もない会話がいつまで続けられるだろう?)
「――忘れった」
「もう。風邪ひかないでよね」
言って美和子は微笑む。
家に帰って、本を手に取ってまた読み進める。読書を趣味にし始めたのは高校卒業してからだ。もう部活に取り組むこともなくなったから、暇をつぶす何かを求めた。それが読書だったのだ。自分のペースで読み進めていけるのが気に入ったのだ、集団行動を求められる部活と違って。
九時が過ぎて、朝の静謐な時間を終える、静謐を湛える至福の時間が…………
練習中です。今回は描写多めなつもりです! わかりずらいところはどしどしコメントください!




