表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

蒼戸先生

職員室から――部室に戻った。


「じゃあ、とりあえず各自で当たってみよう」


紅菜が提案した。


「私は担任の先生に聞いてみる」


「私も」


姫心と麗が頷く。


「私も琉々と一緒に、担任の先生に聞いてみる」


四人で、それぞれの担任に当たることにした。


 


* * *




翌日――。


私と紅菜は、担任の先生を探した。


教室の前で待っていると――。


「織部さん、穂高さん、どうしたの?」


担任の先生が声をかけてくれた。


二人で頭を下げた。


「先生、神社研究会の顧問やってください......」


紅菜が懇願した。


「ああ、ごめんね。私、既に書道部の顧問をしてるの」


「そうですか......」


ダメだった。


「やっぱり難しいね......」


私は小さく呟いた。




* * *




放課後、部室に行くと――。


姫心と麗がすでに座っていた。


二人とも、暗い表情。


「......ダメだった?」


紅菜が聞くと、二人が首を横に振った。


「担任の先生、剣道部の顧問してるから、難しいって」


姫心が肩を落とす。


「私の担任は、もう年だからって断られた」


麗がため息をつく。


「こっちもダメだった......」


紅菜が言う。


「他に知ってる先生、誰かいる?」


みんなで考える。


でも――。


思いつかない。


「......しょうがない」


紅菜が立ち上がった。


「もう一度、職員室に行ってみよう」


「誰か、引き受けてくれる先生がいるかも」


四人で、職員室に向かった。


 


* * *


 


職員室に入る。


先生が数人、デスクで仕事をしている。


「あの、失礼します」


紅菜が声をかけた。


「神社研究会の顧問を引き受けてくださる先生、いませんか?」


何人かの先生が、こちらを見る。


でも――。


「ごめんね、私は既に他の部の顧問をしてるから」


「うちも手一杯で......」


「申し訳ないけど......」


どの先生も、断られた。


紅菜の肩が、少し下がる。


(やっぱり、難しいのかな......)


その時――。


「あ、そうだ」


一人の先生が声をかけてくれた。


蒼戸あおと先生なら、まだどこの顧問もしてないはずよ」


「蒼戸先生......?」


紅菜が聞き返す。


「二年の数学の先生。長身で前髪が顔に掛かっている先生よ」


「一度、聞いてみたらどうかしら?」


「ありがとうございます!」


紅菜の顔が、ぱっと明るくなった。


 


* * *


 


二年の教室に向かう。


階段を上がる。


「蒼戸先生、引き受けてくれるかな?」


姫心が心配そうに言った。


「大丈夫! お願いすれば......」


紅菜が前向きに答えようとした、その時。


角を曲がると――。


正面から、男性の先生が歩いてきた。


背が高くて、黒縁の眼鏡をかけている。


長い前髪で、顔がほとんど隠れている。


落ち着いた雰囲気の先生。


手には、授業で使う数学の本を持っている。


「あの、すみません! 蒼戸先生ですか?」


紅菜が声をかけた。


蒼戸先生が、こちらを向く。


その瞬間――。


先生の視線が、私に向けられた。


ピタリと。


(......え?)


先生の目が、大きく見開かれた。


驚いている。


まるで――。


(何か、思い出したような......?)


胸の奥が、ざわつく。


不思議な感覚。


何かが、引っかかる。


でも――何だろう。


「......先生?」


紅菜が声をかけると、先生がハッとした表情になった。


「あ......すまない。どうしたんだ?」


低くて、落ち着いた声。


「あの、神社研究会の顧問をお願いしたいんです!」


紅菜が元気に言った。


「神社研究会......?」


「はい! 部員が四人集まったんですけど、顧問の先生がいなくて......」


「蒼戸先生、どこの部の顧問もしてないって聞いたので!」


紅菜が一生懸命説明する。


蒼戸先生は――。


少し考えてから、ゆっくりと首を横に振った。


「ごめん。僕は、そういうの断っているんだ」


「......」


紅菜の表情が曇る。


「どうして、ですか?」


麗が静かに聞いた。


「そういうの、苦手だから」


蒼戸先生が小さく答えた。


「申し訳ない」


「そう、ですか......」


紅菜が小さく頷く。


蒼戸先生は、私たちの横を通り過ぎようとした。


その時――。


もう一度、先生の視線が私に向けられ、目が合った。


一瞬。


口を開いて、何か言いたそうな――。


でも、そのまま先生は去って行った。


(......なんだったんだろう)


麗が、先生の背中をじっと見ていた。


何か、考え込んでいる。


「麗?」


「......ん? あ、ごめん」


麗が我に返った。


 


* * *


 


部室に戻った私たちは、机を囲んで座った。


重い空気が流れる。


「はぁ〜、また、振り出しか〜」


紅菜が机に突っ伏しながら呟いた。


「他に、引き受けてくれそうな先生いるかな?」


姫心が心配そうに言う。


「うーん......」


紅菜が唸る。


私は――。


さっきの蒼戸先生のことが、頭から離れない。


(なんで、あんなに驚いてたんだろう)


(私のこと、知ってるのかな......?)


でも――。


会ったことは、ない。


はずなのに。



麗は部室に戻ってから、ずっとパソコンに向かって何かしている。


「麗、何見てるの?」


紅菜が顔を上げて聞いた。


「ちょっと、気になることがあって......」


麗が画面を見つめたまま答える。


パソコンをいじりながら、何かを探しているようだ。


時々、キーボードを叩いている。


そして――。


「やっぱり!」


麗が声を上げた。


「みんな、ちょっとこれ見て!」


麗がパソコンの画面をこちらに向けた。


三人で、画面を覗き込む。


そこには――。


山奥で太鼓を叩いている男性が映っていた。


「誰これ?」


紅菜が画面を見つめる。


「てか、イケメンじゃない? 麗の知り合い?」


「違う」


麗が首を横に振った。


「実はこれ、『蒼戸先生』」


「「「えーーーー!!!!???」」」


三人の声が重なった。


「え、ほんと!?」


紅菜が画面に顔を近づける。


「これどこで撮ったの?」


姫心が聞いた。


「夏休み、天嶽山に登った時に――」


麗が少し間を置いた。


 


* * *


 


夏休み――。


天嶽山の登山道。


デザインの資料を集めるため、カメラを持って、一人で山を登っていた。


木漏れ日が、葉の隙間から差し込んでいる。


綺麗な光。


カシャッ。


シャッターを切る。


その時――。


ドン。ドドン。ドンドン。ドドーン


太鼓の音が聞こえてきた。


力強く荒々しい音。


(......何だろう?)


音のする方へ、そっと近づいく。


登山道から少し脇にそれた、獣道――。


草が踏まれた、細い道を抜けると、その先に、少し開けた場所があった。


そこには――。


太鼓を叩く男性がいた。


上半身は裸。


引き締まった筋肉が、光る汗で濡れている。


下は紺の袴――。


髪を後ろで結んでいる。


叩くたびに、額の汗が飛び散り、光る。


真剣な表情で、太鼓に向き合うその姿は、鬼神のようにも見えた。


ドン、ドドン、ドン、ドドン――。


太鼓の音が、山に響く。


(絵になる......)


デザインの資料に使えるかも。


そう思って――。


カメラを構えた。


そっと。


カシャッ。


カシャッ。


何枚か撮った。


その時――。


太鼓の音が止まった。


男性が、こちらを向く。


(やばい!)


慌てて、木の陰に隠れた。


心臓がドキドキする。


気づかれたかもしれない。


しばらく、息を潜める。


静寂の中に、風で木々が揺れる音だけが響く。


(......行った、かな?)


そっと覗いてみる。


男性の姿は、もうなかった。


ホッとする。


でも――。


なんとなく、申し訳ない気持ちになっって、忍び足で、山を降りた。


 


* * *




「――偶然撮ったの」


麗が説明を終えた。


「へぇ~、蒼戸先生、太鼓叩くんだね」


姫心が感心したように言った。


「あんなイケメンなのに、普段は髪で顔隠してるよね」


麗がふと言った。


「何か理由があるのかも…」


その時――。


紅菜が何か閃いたような顔をした。


「これ見せたら、もしかしたら顧問やってくれるかも!」


「え?」


姫心が首を傾げる。


「だって、イケメンだって学校中にバレたら、困ると思うんだよね!」


「それって......」


姫心が顔を歪める。


「蒼戸先生をゆするってこと?」


「違うっ!!」


紅菜が両手を腰に当てた。


「交渉っ!!」


「それに――」


太鼓を叩く真似をする紅菜。


「蒼戸先生の太鼓叩いてる姿、神社部の顧問って感じじゃん!」


相変わらずの強引さに、 みんな呆れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ