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剣道部の咲良姫心

体育館の前――。


夕日が廊下を、赤く染めている。


三人で、扉の隙間から中を覗いた。


「メーン!」


「ドー!」


竹刀の音が鋭く響く。


その中で、ひときわ目を引く少女がいた。


面を外した瞬間、空気が変わる。


咲良姫心さくらひめこ――。


紅菜の話だと――。


家が天嶽町にある――。


天光寺てんこうじというお寺らしい。


ポニーテールの髪が、光で茶色に透ける。


汗で少し濡れた額。


目は少し緑がかっていて、整った顔立ち。


凛とした表情に、真っ直ぐな目。


高一にしては、少し小さい。


「姫心ちゃーん!」


紅菜が手を振った。


体育館に響く、明るい声。


振り返った姫心が、顔を歪ませる。


「また来たの? 何度誘われても入らないからね」


冷たい声で、迷いがない。


(うわ......)


完全に嫌がられてる。


その瞬間。


――麗がいない。


気づいた時には、もう姫心の隣にいた。


「え〜、こんな可愛い子いた? 全然知らなかった」


距離が近い。


姫心が、一歩後ずさる。


「外国人? それともハーフ?」


「フ、フランスとのハーフです......」


戸惑いながら答える。


「やっぱり! 今度写真撮らせてよ。モデルお願い」


「連絡先交換しよう。ここにID入れて」


スマホを差し出す麗。


戸惑いながらも、IDを入力している姫心。


ハッ――。


我に返った姫心が、顔を赤くした。


スマホを押し返す。


「い、いくら誘われても、絶対に入らないからね!」

「もう来ないでよ!」


剣道部員の視線が、こちらに集まる。


ヒソヒソと話す声。


すごく気まずい。


「ね、部活の邪魔になるから、帰ろうよ」


私は小声で言った。


「また来るね!」


紅菜には関係ないみたいだ。


満面の笑みで、手を振っている。


「姫心ちゃん、連絡するね〜」


麗も嬉しそう。


私は二人の袖を引っ張り、体育館を後にした。




* * *




部室に戻って――。


麗が口を開いた。


「姫心ちゃん、頑なに断ってたけど、紅菜なんかしたの?」


「なんにもしてないよ。」

「ただ、こっそり入部届を出しただけ」


紅菜が平然と言った。


「はぁ〜、それは姫心ちゃんも怒るよ〜」


麗が呆れたように言う。


「でもさ!」

「お守り付けてたんだよ?」

「絶対神様信じてるじゃん!」


(そういえば――)


(麗のカバンにも、お守りが付いてた)


(もしかして......お守りが基準?)


「でも、私も姫心ちゃんに入って欲しいな〜」


「麗は可愛いもの好きだもんね」

「でも、まだ怒ってたからな〜」

「ダメだろうな〜」


紅菜が机に突っ伏しながら言った。


私は、黙って座っていた。


(この二人、すごい......)


自由すぎる。


でも――。


少し、羨ましい。


ほんの少しだけ。




* * *




その日の夜――。


「琉々〜、お風呂沸いたわよ〜」


一階からお母さんの声。


湯船に浸かりながら、天井を見つめる。


(紅菜ちゃん、神様信じてるんだ)


ふと――。


小学校の頃のことを思い出した。




* * *




あれは――小三年生の春。


おじいちゃんが買ってくれたお守り。


いつものように――。


カバンにつけてた。


青と白の滝が描かれたお守り。


友達が、それに気づいた。


「琉々ちゃん、可愛いお守りだね」


嬉しくて――


つい、言ってしまった。


「神様に『持って行きなさい』って言われたの」


友達が、目を丸くした。


「え、神様?」


「うん。お祭りの時、声が聞こえて――」


その時は、友達も「すごいね」って笑ってくれた。


信じてくれたと思った。


でも――。


翌日。


教室に入ると。


黒板に、大きく書かれていた。


『ゆうれい琉々』


白いチョークで、大きく。


頭が、真っ白になった。


泣きながら、黒板を消した。


自分の席に戻る。


座ると――。


数人の男の子が近寄ってきた。


「お前、幽霊と話せるんだろ?」


「話してみろよ」


「早く話してみろよ!」


(怖い......)


体が硬直して、声が出ない。


「ほら〜、やっぱりウソだよ」


「嘘つき!」


「嘘つき!」


「嘘つき!」


周りの男子が一斉に、私に向かって言ってきた。


それから――。


上履きの片方が無くなった。


一緒にお昼を食べてた、友達も私を避けた。


話しかけても、そっぽを向かれる。


体育の時間。


グループを決める時も、私はひとりぼっち。


誰も組んでくれない。


遠足のバスの席も――。

じゃんけんで、誰が私の隣に座るか、決めてる。


負けた人が罰ゲームで、私の隣に座るんだ。


お父さんにも、お母さんにも――。


言えなかった。


言ったら迷惑がかかると思ったから。


それ以来――。


人と距離を取るようになった。


神様の話は、誰にもしなくなった。




* * *




「はぁ......」


大きくため息をついた。


お湯の中に、肩まで沈む。


(でも……)


紅菜は、信じてる。


あんなに堂々と。


紅菜となら、仲良くなれるかもしれない。




* * *




三日後――。


紅菜と部室へ向かう。


廊下を歩きながら、紅菜が楽しそうに話している。


紅菜がドアを開ける。


ガチャ。


そこには――。


姫心が、気まずそうに座っていた。


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