神社研究会と椿麗(つばきうらら)
1週間後――。
私は、また天嶽神社に行くことにした。
この前、紅菜と出会った場所。
(また、会えるかな)
家を出て、坂道を登る。
商店街を抜けて、上り坂になっていく道。
そのとき――。
前方から、誰かが歩いてくるのが見えた。
男の子だ。
私と同じくらいの年齢みたい。
黒いTシャツにジーンズ。無造作な髪。
その足元には――白い犬が、ついて歩いている。
(犬......?)
私は、その犬を見て、少し不思議に思った。
リードも付けずに、飼い主の横を歩いている。
(よほど賢い犬なんだね)
でも――。
何か、違和感がある。
犬にしては、歩き方が違うような気がする。
しなやかで、野生的な感じ。
(……犬じゃない?)
男の子と、白い動物が、横を通り過ぎていった。
* * *
天嶽神社は、相変わらず廃れている。
色褪せた鳥居。
雑草の生えた石段。
この前、紅菜が掃除していたけど――。
まだまだ、荒れている。
私は境内を、ゆっくりと歩いた。
そのとき――。
「あれ? これなんだろ?」
お賽銭箱の脇に、何かが落ちている。
お守り――。
白に赤い刺繍の入ったお守り。
鍵と玉を持った、お稲荷さんが描かれている。
(誰のだろ?)
そっと拾い上げる。
(......紅菜のかな?)
(会ったら、聞いてみよう)
私はそれを大切にカバンにしまって、家に帰った。
あれから、何度か天嶽神社に行ったけど。
――紅菜と会うことはなかった。
境内はいつも静かで、誰もいない。
お稲荷さんの祠に、手を合わせる。
たまに、遠くから太鼓の音が聞こえた。
ドーン。ドドーン。ドンドン。ドドーン
(山の方...かな...?)
不思議と耳に残る音。
太鼓の音と夕日の淡い光が、境内を包む。
鳥居を出て、お辞儀をして、心の中で呟いた。
(また、来ます)
* * *
登校初日。
清杜高校。
不安で胸が、ドキドキする。
新しい学校。
知らない人ばかり。
緊張する。
先生と一緒に教室に入る。
ざわざわとした教室。
みんなの視線が、私に集まる。
(......嫌だな)
そのとき――。
「琉々!!」
大きな声。
満面の笑みで、手を振る女の子。
紅菜だ。
(......!)
私は俯きながら、短く自己紹介をした。
「織部は穂高の隣の席に、座りなさい」
先生が言った。
「こっちこっち!」
紅菜が手招きする。
人の視線を避けながら、席に向かう。
紅菜が隣の空いてる席の椅子を、引いてくれた。
「ありがと」
小さく言って、座る。
「同じクラスで、しかも隣なんて嬉しい!」
紅菜が嬉しそうに笑う。
私は返事をしなかったけど――。
紅菜の隣で、ちょっと安心した。
知ってる人がいる。
それだけで、心が和らぐ。
「あ、そのお守り可愛いね!」
紅菜が、私のカバンについてる、お守りを見て言った。
青と白の滝が描かれたお守り。
「ありがと......」
「私、夏休みに大切にしてた、お守り無くしちゃってさ〜」
紅菜が少し寂しそうに言った。
(!)
「もしかして、これ?」
私はカバンから、あのお守りを取り出した。
白に赤い刺繍の入った、お稲荷さんのお守り。
「そう!! これこれ!」
「琉々、ありがとう!」
「見つけてくれたんだ!」
紅菜が目を輝かせた。
「天嶽神社に、落ちてた」
「やっぱりあそこだったか〜。結構探したんだけどな〜」
紅菜がお守りを受け取って、嬉しそうに撫でる。
「すごく大切にしてる、お守りだから戻って来て嬉しい!」
その笑顔が――温かかった。
* * *
放課後。
「そういえば、琉々は部活どうするの?」
紅菜が聞いてきた。
「特に入るつもりないけど......」
「じゃあ、神研入ってよ! 神研! 神社研究会!」
紅菜が目を輝かせた。
「え?......」
「放課後、一緒に部室行こう!」
そう言って、紅菜は私の手を引いた。
「ちょ、ちょっと......」
気づいたら――。
神社研究会の部室の前に立っていた。
(......どうしよう)
紅菜が、部室のドアを勢いよく開けた。
部室には、パソコンに向かっている女の子が一人。
長い髪にウェーブがかかっている。
落ち着いた、大人っぽい女の子。
私と同じ一年生だって、紅菜が言ってた。
「麗―!、新入部員連れて来た!」
紅菜が嬉しそうに言った。
「さぁ、琉々、入って入って」
紅菜が私を椅子に座らせた。
「また、連れて来たの?」
「どうせまた――」
「紅菜が、無理矢理連れて来たんでしょ〜」
麗と呼ばれた女の子が、呆れたように言った。
「この前の子も、次の日から来なくなったじゃない」
「ごめんなさいね〜」
「紅菜、いつも強引で」
麗が私に向かって、申し訳なさそうに言った。
「琉々は、そんな子じゃないもん!」
紅菜が反論する。
「だって、天嶽神社で会ったんだよ!」
「絶対神様がくれたご縁だよ!」
(神様のご縁!?)
私は紅菜の言葉に、一瞬戸惑った。
(神様を信じてるの?)
「まぁ、そうならいいけど」
麗は、またパソコンで、作業を始めた。
紅菜が椅子を引いて、私の隣に座った。
「神社研究会って、どんなことするの?」
「うーんとね――」
「天嶽神社の掃除とか」
「神社仏閣巡りとか?」
「とにかく、みんなで一緒に、わいわいする感じ!」
紅菜が目を輝かせる。
「あとは――」
「神様について勉強したり」
「天嶽神社の歴史を調べたり――」
「結構いろいろやってるんだね」
「うん! でもね」
紅菜が少し困ったような顔をした。
「今はまだ『同好会』なの」
「同好会?」
「そう!あと一人入れば『部』に昇格できるんだ!」
麗がパソコンから、顔を上げて言った。
「部になると、予算が出るから、活動の幅も広がるのよ」
「そうなんだ......」
「だから琉々が、入ってくれると嬉しい!」
紅菜が、期待を込めた目で見てくる。
私は――。
(どうしよう…)
部活、入るつもりなかったけど。
でも――。
紅菜がこんなに嬉しそうだと――。
なんか、お稲荷さんに頼まれてるみたい。
断りづらい――。
「あ、そうだ!」
紅菜が急に立ち上がった。
「姫心ちゃんに、会いに行こう!」
「姫心ちゃん?」
「うん! 良い子がいるの!」
紅菜が嬉しそうに言った。
「剣道部の一年生でさ、お寺の娘さん」
「前から誘ってるんだけど――」
「なかなか入ってくれなくて」
「その子を勧誘する気?」
麗が聞いた。
「うん! 今日、剣道部の練習があるから、いるはず!」
紅菜が私の手を引く。
「行こう、琉々!」
「え、ちょっと......」
「麗もたまには、一緒に来てよ!」
「しょうがないな〜」
気づいたら――。
また、紅菜に連れられて、部室を出ていた。
廊下を歩きながら、紅菜が楽しそうに話す。
「姫心ちゃんね、剣道すごく強くて――」
「一年生なのに、もう試合に出てるんだって」
「それに、すっごく可愛んだよ!」
「可愛い!?」
麗が食いついた。
「うん、すっごく可愛い」
「楽しみ〜」
紅菜と麗の話しを聴きながら、
3人で体育館に向かった。




