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天嶽神社の大掃除

日曜日。


朝十時。


天嶽神社の石段の前。


私は、自転車を押しながら、坂道を登る。


清杜町から天嶽町まで。


いつもは歩いて行くけど、今日は自転車。


坂を下って、また坂を登って。


境内に着くと、自転車が二台並んでいた。


麗と姫心が、もう来ている。


「おはよう」


私が声をかけると。


「おはよう、琉々」


麗が手を振った。


「おはよう」


姫心も微笑む。


自転車を並べて。


三人で、紅菜を待つ。


「紅菜、遅いね」


麗が、スマホを見ながら言った。


「うん......」


姫心も頷く。


もう待ち合わせから、十五分も過ぎている。


紅菜らしくない。


いつも一番早く来るのに。


(何かあったのかな?)


少し心配になってきた、その時――。


「ごめん、ごめん! 遅くなっちゃった!」


明るい声が聞こえた。


振り向くと――。


紅菜が自転車を押しながら、石段を登ってきた。


息を切らしながら。


荷台に、大きな荷物を括り付けて。


「紅菜!」


私は駆け寄った。


「大丈夫? その荷物――」


「あ、これね」


紅菜が嬉しそうに笑った。


「みんなの分の掃除道具!」


荷物を下ろして見せてくれる。


中には――。


竹箒が四本。


バケツが二つ。


雑巾がたくさん。


軍手も四組。


それから、大きなゴミ袋も。


「全部、家から持ってきたんだ!」


「重かったでしょ?」


姫心が驚いた顔で言う。


「ちょっとね」


紅菜がはにかむ。


「でも、みんなで掃除するなら、道具がいると思って」


紅菜の思いが伝わってくる。


「じゃあ、始めよっか!」


紅菜が元気に言った。


「うん!」


私たち神社部の、最初の活動――。


天嶽神社の掃除を開始した。


* * *


まずは、境内の掃き掃除。


落ち葉が、たくさん散らばっている。


「琉々は、あっちの方をお願い!」


紅菜が指示を出す。


「麗は、こっち!」


「姫心は、鳥居の周りを!」


「私は、お稲荷さんの周りね!」


それぞれが持ち場に散らばる。


私は竹箒を持って――。


本殿の裏側へ。


シャッ、シャッ。


箒で落ち葉を掃く。


集めた落ち葉を、ゴミ袋へ。


風が吹くと、また落ち葉が舞う。


(なかなか終わらないな......)


でも、不思議と嫌じゃない。


むしろ――。


ちょっと楽しい。


遠くで、紅菜の鼻歌が聞こえる。


姫心が真剣に鳥居の周辺を掃く音。


みんなで一緒に、何かをする。


この感じが――。


とても温かい。


* * *


石段を掃いて。


参道を掃いて。


本殿の前も、丁寧に。


一か所ずつ、落ち葉を集めていく。


「ふう......」


姫心が額の汗を拭う。


「疲れた?」


紅菜が声をかける。


「ううん」


姫心が首を振る。


「大丈夫」


そう言って、また箒を動かす。


姫心の真面目な性格が伝わる。


私も、箒を持ち直して。


また掃き始める。


* * *


しばらくして――。


紅菜が、ゴミ袋を縛った。


「見て! いっぱいになった!」


嬉しそうに笑う。


ゴミ袋は、落ち葉でパンパン。


「すごい......」


麗が驚いた顔をする。


「こんなに落ち葉があったんだ」


「うん」


姫心も頷く。


私たちは――。


いっぱいになったゴミ袋を、境内の隅に並べた。


一つ、二つ、三つ。


全部で、五つ。


「私たち、頑張ったね!」


紅菜が笑顔で言った。


達成感が、胸を満たす。


* * *


境内の掃き掃除が終わったら――。


次は、本殿の拭き掃除。


「みんなで手分けしよう!」


紅菜が提案する。


「琉々は、こっちの柱を」


「姫心は、向こうの柱ね」


「麗は、本殿の床をお願い!」


「私は、お賽銭箱の周りを拭くね」


それぞれの持ち場に散らばる。


手の届く範囲で。


バケツに水を汲んで。


雑巾を絞って。


一つ一つ、丁寧に拭いていく。


古い木の匂いがする。


綺麗になっていくのが、嬉しい。


「琉々、こっちも拭いて!」


紅菜が呼ぶ声。


「うん!」


私は駆け寄った。


* * *


掃除を始めて、一時間ぐらい経った頃。


麗が、ため息をついた。


「ねえ......」


拭き掃除の手を止めて。


「いくら掃除しても、キリがないんだけど~」


確かに――。


一か所拭いても、すぐ別の場所が気になる。


境内は広いし。


やってもやっても、終わらない気がする。


「まあまあ」


紅菜が苦笑いする。


「できるところから、少しずつだよ」


「そうだけど.....」


麗が、また小さくため息。


それから、しばらくして。


ふと、気づく。


(......麗がいない?)


さっきまで、近くで拭き掃除をしていたのに。


「紅菜、麗は?」


「え?」


紅菜もキョロキョロする。


「さっき、あそこにいたけど......」


二人で探す。


すると――。


境内の隅で、麗を見つけた。


しゃがみ込んで。


何かを見ている。


「麗、何してるの?」


近づいて声をかけると――。


麗が振り向いた。


「シー! トカゲ」


指差す先には。


金色っぽい小さなトカゲが――。


石の上で日向ぼっこしていた。


「可愛い......」


麗がスマホを取り出して。


写真を撮り始める。


パシャ、パシャ。


角度を変えて。


何枚も。


夢中になって、掃除のことを忘れている。


「麗は、こうなるとね~.....」


紅菜が苦笑いで言う。


「あ、この角度もいいかも!」


麗が、また別の角度から撮る。


「もう......」


紅菜が笑った。


私も、思わず笑ってしまう。


こういうところが、麗らしい。


* * *


姫心は――。


本殿の柱を、ずっと拭いていた。


一本の柱。


上から下まで。


丁寧に、丁寧に。


「姫心、もういいんじゃない?」


紅菜が声をかける。


「まだ」


姫心が真剣な顔で答える。


「この柱、まだ完全に綺麗になってない」


そう言って――。


また雑巾を洗って、拭き続ける。


一つのことに、とことんこだわるタイプ。


でも――。


それが姫心の良いところ。


* * *


二時間ほど掃除をして――。


ようやく、一区切り。


「疲れた~」


麗が境内の石段に座り込む。


「お疲れ様」


姫心も、汗を拭う。


「みんな、お昼ごはんにしよ!」


紅菜が明るく言った。


「私、お弁当作ってきたんだ!」


また荷物から取り出す。


大きなお弁当箱。


蓋を開けると――。


おにぎりが、たくさん。


唐揚げも。


卵焼きも。


彩り鮮やか。


「わあ!」


私は思わず声を上げた。


「紅菜、すごい!」


「えへへ」


紅菜が照れくさそうに笑う。


四人で、境内に座って、お弁当を食べる。


おにぎりは、梅干しと鮭。


唐揚げは、カリカリで美味しい。


卵焼きは、ほんのり甘い。


「紅菜、料理上手だね」


麗が言う。


「そんなことないよ」


紅菜が謙遜する。


でも、嬉しそう。


青い空。


心地よい風。


みんなで食べるお昼ごはん。


(こういう時間――)


(すごく、幸せ)


私は心から、そう思った。


* * *


お昼を食べていると――。


境内に、一人のおばあちゃんが入ってきた。


お参りに来たらしい。


ゆっくりとした足取りで。


本殿の前まで歩いて行く。


二礼二拍手一礼。


丁寧にお参りをして。


それから、私たちの方を見た。


「あら」


おばあちゃんが微笑む。


「境内が、とっても綺麗になってるわね」


私たちは顔を見合わせた。


「はい!」


紅菜が立ち上がって。


「私たち、神社部で――」


「掃除をしてるんです」


おばあちゃんが、優しく頷いた。


「そう」


「ありがとうね」


「神様も、きっと喜んでるわよ」


その言葉に――。


私の胸が、じわっと温かくなった。


紅菜も、嬉しそうに笑っている。


麗と姫心も、照れくさそう。


「あの――」


私は、思い切って聞いてみた。


「ここの神社、どんな神様が祀られてるんですか?」


おばあちゃんが、優しく微笑んで。


「ここはね」


「山岳系の神様よ」


「天嶽山自体が、ご神体なの」


「天嶽山が......」


私は、遠くに見える山を見上げた。


緑に覆われた、美しい山。


(あの山が、神様......)


なんだか、すごく神秘的。


「じゃあ――」


私は、さっき掃除した小さな社を思い出す。


「もう一つの社は?」


「ああ、あれね」


おばあちゃんが頷く。


「あれは、水の神様」


「天嶽山の中腹にある滝が、ご神体よ」


「滝......」


私の心が、ざわりと揺れた。


何か――。


大切なことを、言われた気がする。


でも、それが何なのか、分からない。


「これからも、頑張ってね」


おばあちゃんはそう言って。


ゆっくりと石段を下りて行った。


その後ろ姿を見送りながら――。


私は、もう一度。


天嶽山を見上げた。


(滝......)


(水の神様......)


心の奥で、何かが私に伝えようとしている。


そんな気がした。


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