プロローグ
遠い過去の時代――。
この国は――。
神の言葉によって、守られていた。
そして――。
その言葉を人に伝える者が、いた。
巫女。
神と人を、結ぶ者。
それが――。
私の、役目だった。
* * *
朱色の柱が並ぶ、神殿。
高い天井。
澄んだ空気。
私は――。
白い巫女装束を纏って、舞っていた。
手に持つのは――。
神楽鈴。
チリン。
チリン。
鈴の音が――。
静寂に溶けていく。
そして――。
私の口から、別の声が響いた。
「我はここに在る」
空気が、震える。
神降し。
神の言葉を――。
人に伝える。
私の、役目。
* * *
でも――。
隣国が、動いた。
巫女の力を――。
奪うために。
刺客が、送り込まれた。
* * *
森の中――。
私は――。
走っていた。
数人の従者が、私を守りながら。
必死に、逃げる。
矢が、飛んでくる。
ヒュッ。
ヒュッ。
一人、また一人。
従者が、倒れていく。
「......っ」
私は――。
振り返りそうになった。
「巫女様!」
従者の一人が、叫んだ。
「我らは巫女を守る盾」
「お気になされず」
「彼らも本望でしょう」
私は――。
前を向いた。
涙を、こらえて。
走り続けた。
* * *
森を抜けた。
月明かりに照らされた――。
滝。
神聖な場所。
私は――。
水辺に跪いた。
祈りを、捧げる。
いにしえの言葉。
神様に、問いかける。
(どうか......この国を、お守りください)
水が――。
光り始めた。
神様が――。
降りてくる。
その時――。
背後から、足音。
数人の刺客に、囲まれた。
最後の従者が――。
刀を抜いて、私の前に立った。
「八雲!」
私が叫ぶ。
「巫女様――」
八雲が、振り返った。
優しい、瞳。
その時――。
ふと、思い出した。
契約。
遠い日の、約束。
* * *
「あなたが、神と人を結び続ける限り」
八雲の、声。
「私は――」
「あなたを守り続けます」
「たとえ」
「輪廻を越えても」
「八雲......あなたをまた、巻き込んでしまって…ごめんなさい」
私は言葉を詰まらせた。
八雲は――。
静かに笑った。
「私が望んだことです。」
「行ってください」
「あなたの役目を果たしに」
* * *
その瞬間――。
八雲が――。
刺客に、斬りかかった。
一人目――。
刀が、交わる。
ガキン!
八雲の刀が――。
刺客を、斬り倒した。
二人目が、襲いかかる。
八雲は――。
それも、斬り倒した。
でも――。
刺客は、多い。
三人目、四人目。
次々と、襲いかかってくる。
八雲の腕に――。
刀が、かすめた。
血が、滲む。
「......っ」
八雲は――。
怯まなかった。
叫びながら――。
刺客に、斬りかかる。
その姿は――。
まるで、鬼神のようだった。
五人目を、倒した。
六人目を、倒した。
でも――。
八雲の体には――。
いくつもの、傷がついていた。
肩を、切られた。
脇腹を、斬られた。
足を、切られた。
それでも――。
八雲は、立ち続けた。
刀を、握り続けた。
八雲の脇腹に――。
刀が、突き刺さっていた。
「......ぐっ」
八雲が――。
脇腹の刀に、手をかけた。
そして――。
引き抜いた。
「......あああっ!」
苦痛の、叫び。
血が――。
溢れ出る。
でも――。
八雲は、止まらなかった。
抜いた刀を、投げ捨てる。
そして――。
自分の刀を、握り直した。
立ち上がる。
ふらつく、体。
でも――。
闘志は、消えていなかった。
最後の刺客が――。
八雲に、斬りかかった。
八雲が――。
それを、受け止める。
その瞬間――。
背後から、別の刺客。
横からも、刺客。
複数の刀が――。
八雲の体を、貫いた。
背中。
胸。
脇腹。
「八雲!!」
私が、叫んだ。
八雲の刀が――。
地面に、落ちた。
カラン。
八雲が――。
ゆっくりと、膝をついた。
複数の刀が、突き刺さったまま。
そして――。
倒れた。
「八雲......!」
私は――。
八雲に、駆け寄ろうとした。
その瞬間――。
背中に、鋭い痛み。
刀が――。
私の体を、貫いた。
「......あ」
力が、抜けていく。
私は――。
その場で、倒れた。
視界が、暗くなっていく。
(八雲......)
(ごめんなさい......)
意識が――。
遠のいていく。
* * *
光に包まれた、世界。
温かい。
優しい。
どこからか――。
声が聞こえる。
(起きなさい)
優しく、温かい声。
(あなたには、役目がある)
神様の、声。
(さぁ、行きなさい)
(役目を、果たすために)
(今度は――)
(一人じゃない)
(仲間が、いる)
(また、会えるわ)
光が――。
眩しく輝いた。
真っ白の世界が、広がった。
私は――。
光の中に、溶けていく。
(私の......役目)
すべてが――。
白く、染まった。
* * *
――目が覚めた。
朝だった。
いつもの朝。
いつもの日常。
でも――。
胸の奥が、ざわついている。
(何か......夢を見た)
断片的に、覚えている。
神殿。
神楽鈴。
森を逃げる。
守ってくれた、人。
(......八雲?)
誰だろう。
分からない。
でも――。
胸の奥に、確かに残っている。
(役目......)
(神と人を......)
起き上がる。
窓の外から――。
学校のざわめきが聞こえる。
いつもの朝。
いつもの日常。
そして今日――。
教室で、誰かが言った。
「神様なんているわけないじゃん!」
その言葉に――。
なぜか。
胸が――。
少しだけ、痛んだ。




