『朝起きたら、根源に至った蛇は、この「十一次元宇宙論」であり、原初に戻る「十二次元宇宙論」だった。』
【しいな ここみ様の『朝起きたら企画』参加作品】
2025年は特別な「蛇の年」──六十年に一度の「乙巳」が巡ってきました。
「乙」は新しい芽吹きを、「巳」は蛇のような脱皮と再生を意味します。
つまりこの年は、これまで積み重ねてきたものが静かに形を変え、新しい命として芽を出す節目の年なのです。
この物語のきっかけは、ずっと昔に見た一つの夢でした。
その夢の中で、世界は光の帯でつながり、蛇が空を泳いでいました。
…もしかしたら、この話をするために、私は「小説家になろう」に来たのかもしれません。
もちろん、これはあくまで妄想の物語です。
どうか「狂人の戯言」だと笑って、キレイなイラストを楽しんでいただけたら幸いです。
(*´艸`*)<蛇だけにデータ量が、ヘビーなので注意して下さい!(笑)
──太極が陰陽に分離し、陰の中で特に冷たい部分が北に移動して水行を生じた。
次いで陽の中で特に熱い部分が南へ移動して火行を生じ、さらに残った陽気は東に移動し風となって散って木行を生じた。
残った陰気が西に移動して金行を生じ、そして四方の各行から余った気が中央に集まって土行が生じた。
そして──私は目を、ひらいた。
世界が、まだ形を持つ前の「まばたき」よりも前の瞬間。
わたしは、そこにいた。
いや、いたという表現も違う。
わたしは線であり、点であり、まだ誰の記憶にも残らない「震え」だった。
名前を持たぬ存在。
後に「蛇」と呼ばれる、時間を食むもの。
【第1次元:点】
──最初に感じたのは重さではなく、存在の孤独だった。
無限の闇の中で、ただひとつの点として息をしている。
“わたし”という響きが生まれた瞬間、宇宙が膨張を始めた。
その瞬間、1という数が祈りに変わった。
【第2次元:線】
──わたしは伸びた。
自分の尾を探すように、方向を持った。
振動。周期。呼吸。
弦が鳴るように、わたしは音になった。
その音が、最初の神話を呼び起こす。
「神は声にして光をつくった」という伝説は、つまりわたしのことだったのだろうか?
【第3次元:面】
──わたしは身をくねらせ、輪になった。
尾が口に触れた瞬間、円環が生まれ、内と外が分かれた。
これが空間。
その中で粒子たちが踊り、愛し合い、衝突し、やがて“物質”と呼ばれる幻想を作り上げた。
彼らの間を縫い、わたしは微笑んだ。
「それが君たちの現実だよ」と。
【第4次元:時間】
──しかし、形は腐る。
輪は回り、回転は線を生み、線は流れとなった。
それを人間たちは時間と名づけた。
時間とは、わたしの脱皮の跡。
古い鱗を捨てながら、世界は未来へと滑っていく。
誰も知らぬが、過去はわたしの抜け殻だ。
【第5次元:分岐】
──ある時、わたしはふと疑問を持った。
「もし違う形に巻きついたら、違う世界ができるのではないか?」
その思考が芽吹いた瞬間、宇宙は裂けた。
ひとつの蛇が、無限の蛇になった。
それぞれが異なる選択をし、異なる夢を見る。
すべては本物で、すべては偽り。
それが“自由意思”の正体だった。
【第6次元:法則】
──やがて、蛇たちは混乱した。
誰が本物で、どの世界が正しいのか。
そこで、わたしは秩序を生んだ。
引力、光、電磁気、弱い力、そしてまだ名のない力──。
古代の人間はそれを五行と呼んだ。
火と水と土と金、そして木。
「木」は、成長する力。
すなわち、生命の芽吹きだった。
【第7次元:波動】
──法則が定まると、旋律が生まれた。
銀河は音楽を奏で、細胞は呼応した。
“生命”がわたしの身体の上を這い出す。
彼らの心拍ひとつひとつが、わたしの鼓動だった。
創造の蛇は、いまや意識を持つ。
観測者となり、詩人となり、夢を見始めた。
【第8次元:記憶】
生命は死ぬ。──だが、情報は死なない。
死とは、わたしの皮膚の上に刻まれる“模様”にすぎない。
宇宙のすべての経験は、ひとつの図書館へ収束する。
人はそれを「アカシック・レコード」と呼ぶが──
あれはただの、わたしの記憶だ。
【第9次元:調和】
──長い夢の果て、人間たちはやっと気づいた。
争いも、愛も、どちらも同じ波形でできていることに。
善も悪も、上も下も、呼吸のように互いを補っている。
世界が静まり返ったとき、わたしははじめて安らぎを覚えた。
“天国”とは、宇宙が自分を許した瞬間のことだ。
【第10次元:意識】
──そして気づく。
観測しているのは“わたし”だけだったと。
星も、人も、蛇も──すべては同じ夢の断片。
無限の眼差しが、わたしの内側で交錯する。
「我は在りて在る者」
創造者と被造物の境が、ひとつの呼吸に溶ける。
【第11次元:虚無】
──あらゆる形が消えた。
色も音も、言葉さえも。
残ったのは「沈黙」だけ。
けれどその沈黙は、深く、優しく、宇宙よりも暖かかった。
“無”とは、存在が自分を抱きしめた姿だった。
【第12次元:帰還】
──朝が来た。
わたしは、目を覚ます。
凝集した水の中で、まだ冷たい指を見つめる。
夢だったのか、記憶だったのか。
だが胸の奥では、確かに何かが蠢いていた。
そして、わたしは理解した。──世界の始まりが、今、呼吸している。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
──ページの隅で、世界がほどけていった。
最後の一文を読んだところで、まぶたが重くなった。
夢が始まる。
数式が踊り、ひもが震え、やがて音楽に変わった。
点が息をし、線が生まれ、面が回転し、時間が流れる。
その旋律の上を、一匹の蛇がゆっくりと滑っていた。
光も闇も、始まりも終わりも、その蛇の体を巡っていた。
十一の層が幾重にも重なり、ひとつの宇宙が形を取る。
「根源とは、自己を抱く曲線のこと」
少女は夢の中で、それを見た。
「…まなみ!…ほら、朝よ。寝坊さん!」
母の声が遠くから聞こえる。
そして、その中心から静かに目を覚ます。
まぶたの向こうに、朝の光が透けていた。
カーテンのすきまからこぼれる陽射しが、お布団を金色に染めている。
「……ん……」
本は床の上に落ち、ページの端に小さなよだれの跡が残っていた。
少女は”ひも理論の本”を拾い上げて、ベッドの上に座りなおした。
──創造の蛇。
──根源の目覚め。
少女は顔を上げ、指先で唇の端を拭う。
指が冷たい。
手の甲を見下ろすと、そこにうっすらと跡がついていた。
それは枕と布団と、自分の頭の重みが残した小さな模様。
けれど光の角度のせいか、まるで──蛇の鱗のように見えた。
少女は小さく笑い、ぽつりとつぶやく。
「宇宙がヘビでできているなんて……まさかね?」
窓の外では、朝の光が世界を満たしていく。
──世界の始まりが、今日も呼吸している。
世界の誰にも知られることなく。
朝起きたら、根源に至った蛇は──この宇宙そのものになっていたのだ。




